6本目ー寝床が欲しい、どうしよう
街の中をとりあえずぶらぶら歩く。
すっかり盗賊騒ぎで目が覚めてしまったが、正直、出来れば宿屋などを見つけたい。
手に握っている金貨(盗賊討伐の報酬で貰った)をポケットにしまい、私は周りを見渡した。
「あの」
とアメが私の袖口をつかみながら尋てくる。
「あたしの正体、言わなくていいんですか」
さっきの尋問のことだ。
冒険者ですか、と聞かれていいえ、ただの旅人ですと答え、毒が得意なのでなどと言っておいた。
アメの猛毒は私に効かない。私の服にも効かない。だから嘘はついていない。
門番はそれに納得してくれて、一応二人の名前だけ伝えておくことにした。「ラメ」と「アメ」である。アメはよくある名前だそうなので、調べられても平気らしい。
「言えば、騒ぎを起こすだけよ」
その答えに「そうですか」とだけ返し、俯くアメ。
「……」
「……ラメさんどうしましたか」
「いや、アメにばっかり仕事させちゃったなーって。……高いものは買えないけど、ほしいものある?」
一応お金について。
日本円は使えない。あるのは金貨銀貨の類、それから紙幣。
ちなみに私の自販機は、どちらでも使える。
するとアメは、
「いえ、特にありません……その、ら、ラメさんの役に立てるなら、嬉しいですよ」
恥ずかしそうに言う。
なるほど、嬉しい。
けど、私もそろそろ技の一つや二つ、学んでおきたい。後で、自販機に聞いてみよう。
そんなことを考えていると、曲がり角に差し掛かった。
「あっ、これって」
アメが指さす。
見上げると、そこに大きな木の看板がかかっていた。「アケボノホテル」。
(ホテルかあ。高いやつかな。大丈夫かな?)
悩んだ末、アメも眠そうにしているので、入ってみた。私もそろそろ寝たい。
受付に向かう。
受付の彫刻といい、受付の人の品の良さといい、中にふと見える地図といい。ここは間違いなく、いい宿だ。
お金大丈夫かな。価値を聞き忘れていた。
「あの、これで泊まれますか」
遠慮しながら聞いた。
受付の人は私たちをみて笑みを浮かべ、お金を見て顔を強ばらせた。
「……あの、これ、どこから」
私は、今までの話をざっくりしてあげた。彼女はそうですか……とため息をつく。なになに?どういうこと?
「これはほとんど流通していないものです。持っている人はほとんどいないのですよ」
「へえ……いやじゃあ、使えない?」
その人の言い分だと、私にその報酬をくれた人は単なる管理職の人ではない、ということになる。が、今はそんなことより、ベッドだ。今にも寝そうなアメを抱き寄せる。
「いえ、使えますが……」
「?」
「これがある方は、ほとんど無制限にお泊まりいただけるのです。そのため、お部屋を探しに……」
「一日でいいですよとりあえず。お釣りだけもらいますので」
「え゛っ……失礼しました。ええと、これは」
受付嬢が困りながら、言葉を選びながら返事をした。
この金貨はある種の「紋章」である。
要は、良い冒険者の証である。(私、……旅人って言いましたが?)
そして宿屋としては、しっかり彼らをもてなし、そして街を守らせたい、ということだ。(守れないよ。一般人だよ。すごいのはアメだから)
だから金貨自体は使い回しが効き、当然お釣りなんて存在しない。
百均で十億円払って、お釣りちょうだいと言っているようなものだ。
それに気づいた私は途端に恥ずかしくなって、金貨をポケットに戻し、この子(アメ)が眠いので、と伝えた。
「部屋は狭くていいですよ」
「か、かしこまりました。……奥に案内いたします」
やがて、部屋。
二人で大の字になっても、棚や冷蔵庫が十個好きにおけるレベルの広さ。
広いよ。広いよ……。
アメを見るとすでに目を瞑って寝息を立てていた。仕方なく彼女の服を一枚脱ぎ、部屋着を被せ、敷かれてある布団にひとまず寝かせた。
するとアメは何かをゴニョゴニョ言っているので、耳を傾けると、
「ラメちゃんお疲れ様様です……明日も……げんきに……」
「……」
私はその寝顔に軽く手を添えた。
暖かかった。
それから自分も部屋の中のシャワー(魔法)で軽く汗を落とし、着替えて、布団にくるまった。
目を瞑る私。
そして一言。
「……おやすみ、アメ」
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