第8話 博多ラーメン
「私は貴方を照らす星になりたい」そう感じたはずなのに、私は貴方に見つかった。貴方を照らすはずだったのに、貴方がいないと私は輝くことすら出来なかった。
先日、推しのライブに参戦しました。福岡での公演だったので人生で初めての福岡です。
2日間で3公演あり、私は贅沢にも2公演参戦しました。1公演目は一般で取ったチケットでしたので、天井席からの観覧でしたが全体を見渡すことが出来るので私は天井席が結構好きだったりします。
ライブが始まって時間が経つにつれ、「こうして彼らを照らす存在って素敵だな」と感じる事がしばしばで、天井席の事を私は"星空席"と読んでいます。
「あー私は星になりたい。彼だけを照らす星になりたい」そんなことを思いながら参戦した2時間半はあっという間でした。
明日も会える、という感覚は実は初めてで凄くワクワクして夜も眠れませんでした。
一泊二日でしたので、2日目は荷物をほとんど福岡空港に預けて会場を目指しました。「きっと昨日と同じ高さから見下ろすんだろうなー」と思ったのにも色々理由はあったのですが、ファンクラブの名義で当てた席を少しでも期待したく、せめてスタンドの1階席ならいいなと思いながら会場に到着しました。
入場列に並び母と「あんまり期待せんとこう」と話しながらチケットを取って会場内に入りました。入ってもなお、席を見る事が出来ず、覚悟を決めて開いてびっくり。
アリーナだったんです。それだけでも嬉しかったのですが、自分の席を探していく中でどんどんステージに近づいていくんです。
間違えてるんじゃないかと思いながら見つけたその席は、アリーナ最前列と言われる1列目の席だったんです。信じられません。前日に「あの席に座る人達は宝くじ当たらんよ」なんて言ってた席に私がいるのですから。
その日見たライブを一言で言えば眼福です。
あんなにも解像度の高い推しを見たのは初めてでした。テレビの中にいた通りの顔がそこにいたのです。感動以上に奇跡です。
そして、7年間推し続けている最推しにファンサを貰えました。手を振って頂いた時、理解が出来なくて固まってしまいました。本来であれば「キャーー!」なんて言って可愛らしい反応を彼も求めていたのかもしれませんが、そんな反応が出来るほど、私には余裕がありませんでした。
1言目に出た言葉は「やばい」だけです。
もう少し可愛くなりたいものです。
幼かった頃、一番星を見つけて指さしたのを思い出しました。
あれだけの星がある中で一番に輝いた星を指さした日。あれと同じものを感じました。
私が輝いていたとは決して言いません。ですが、あの瞬間、彼の世界に私が存在したことには間違いがなく、その後目が合った時「私は彼を推していて良かった」と強く思いました。7年間が報われたのです。
一方的にしか名前を知らない関係でも、そんな関係でも私にとって彼は間違いなく特別でした。
ライブが終わった時、隣に座っていた方から「目合ってましたね!」と言ってもらえた時、勘違いだけが正義のこの世界で勘違いなく正義になれたのです。
ただ、幸せオーラを出している暇もなく電車に乗り福岡空港に戻りお土産を買って現実に戻るゲートを通るのです。
博多ラーメンをすすりながら、その日見た光景を忘れまいと脳内で焼き付けました。その場面だけでもその場面だけでいいから、と強く強く再生しました。
「めっちゃ見やすかったな!」と嬉々として言う母が開演前「えーこんな席近すぎて嫌だー」なんて言ってた事は根に持ちながら、私は飛行機の搭乗時刻をただ待つのでした。
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