第4話 カレーライス

「夜の明石海峡大橋って綺麗やな」

「ほんまやなー」

 夜の高速道路を駆けていく。ドアポケットに入れていたスマホが通知を知らせるためにパッと明るくなった。

『……え』


 今日は推しに会うため、久しぶりの県外遠征。徳島から約4時間かけて到着したのは京都府。朝の7時に家を出て、行きを私が、帰りを母が運転する。

 正直この運転の時間、田舎暮らしの私としては苦痛だったりする。というのも、一般道や山の中の高速は車も比較的少なくて運転がしやすい。がしかし大阪なんかの高速に入った瞬間、車の多さと速さに冷や汗をかくのだ。

 そろそろ初心者マークが外れる私だが、高速に乗った回数、時間は周りの友達と比べても遥かに多い。それでもやはり都会の交通量には心臓がバクバクする。

 そのうえ、母はカーナビを設定していてもカーナビ通りに進まない人なので、運転をしながらナビを見てスピードメーターも確認しつつ周りの状況を本当に1人で把握しなくてはいけないのだ。

 今日なんかも行きで1回、帰りでも1回デタラメなことを自信満々に言う。「え、今のところ左じゃない?」と。

 私はカーナビ通りに標識を見ながら進んでいるので、多少なりとも自信はあるものの間違えを信じきっているタイプのその一言はかなり私を動揺させる。平然とそんな事を言うからだ。動揺しすぎて運転をしながら貧血を起こすかと思いヒヤヒヤした。

 そんなことはともかく目的地付近に到着し、まずは恒例の会場の下見。それからご飯屋探しとなる。

 私も母もご当地グルメというのにあまり興味がなく、これまで大阪、福井等など色んな所に行ったが1度もそれらしい物を食べていない。目的自体が観光ではなく推しに会いに行く為だからだ。しかし今回は少しでも京都を満喫するために、京都で住んでいる親戚におすすめのラーメン屋を紹介してもらった。営業日も営業時間もばっちり確認して、会場から約6分ほどのラーメン屋に向かう。が、営業をしている気配がない。しかも駐車場がない。初めからこういう運命なのかもしれない。

 結局お昼はチェーン店のラーメンを頬張り、お土産探し。これも今回が初めて。旅行の醍醐味を全て放棄した推しの為だけの県外遠征。

 片道40分かけて訪れた道の駅でお目当てのものを探すも撃沈。

 お土産すらにも裏切られ、私たちは旅行という旅行を楽しめない運命なのかもしれないと受け入れ、いざ会場入り。

 約1時間のイベントだったものの、半年ぶりの推しは最高でした。また来月会えるのですが。

 イベントの感想を母と言い合いながら徳島を目指す。帰りの運転は母だ。助手席でぐうたらしつつ京都の街並みを堪能する。

 途中、The京都を感じさせる場所で信号待ちをしているカップルを見つけた。もの凄い美男美女で不意に母に「あの女の子可愛すぎん?」と言ってしまったくらいの美男美女。手を繋いで信号を渡っていく姿がまた可愛らしく、最後の最後で和まされ徳島を目指した。

 ここでも母の方向音痴が発揮される。京都から兵庫に入った辺りの高速で、左が京都方面、右が徳島・岡山方面となっている別れ道があった。当然、私たちは徳島に帰るのだから右に行くのが正解なのだが、カーナビはこの二股に別れている道へ案内する少し前の道で「左です」と無気力に案内していたものだから、そのすぐのこの道については案内をしてくれなかったのだ。母はカーナビが左と言ったのだから左だろうと、標識なんて関係なしで進もうとする。が、何度もこの破天荒さで帰りが遅くなった記憶が私にはしっかりあるので、もう本当に必死で右に行く事を指示した。おかげで右に入ってくれたのだが、またハプニングが起きる。カーナビが誤作動を起こし始めて、勝手に道無き道を進んでいくのだ。以前福井からの帰りにも同じ事が起きた。新品で買った車ではないので、別に気にしてはいないのだが、知らない道、特に高速でこうなってしまうと本当に慌てる。だがしかし、こうなると謎に母は冷静になる。

「私、この道わかる」

 何を言ってるんだ。

 一旦カーナビの案内を終了し、目的地を再セットする。1回目では直らなかったものの3回目くらいでは普通に道通りの案内を再開し、なんとか明石海峡大橋を見ることが出来て一安心した。

「夜の明石海峡大橋って綺麗やな」

「ほんまやなー」

 緑から青のライトを光らせる明石海峡大橋を見上げながら遠くに見え隠れする観覧車を見つめた。丁度そんな時にドアポケットに入れていたスマホがパッと明るくなった。

『……え』

 カクヨムからの通知で、内容を確認すると私が書いている作品への応援コメントだった。このアプリを初めてから約2年経つが、そういったのは初めてで最初は凄く困惑した。

 例えるなら、2LDKの部屋の隅に落ちたホコリが何年も放置された状態で、ある日突然見つかって掃除機で座れたみたいなそんな感じ。自分に気がつく人がいるんだ、みたいな。

 そんな感じ。


 家に着いて、ある程度の片付けをしてから夜ご飯を食べる。カレーを食べながら送られてきた応援コメントに目を通す。どれもこれも秀逸なコメントに、私を見てくれた人がいる事に感動する。

 19歳3ヶ月。心のどこかでは承認欲求がある事を知った。

「福神漬け取ってー」

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