8.隣を歩きたい。
雨は止み、心地よい陽気。昨日の天気が、嘘みたいに雲一つない快晴だ。
俺と師匠、フェネで森に入り。分担して狩りを始めた。
各自、アイテムボックスという物を、村長から受け取っており。その収納スペースを、日本の家屋で例えるなら六畳ほどである。
狩りを始めて数刻経った頃、アイテムボックスの空きも少なくなり、魔物の死体でいっぱいになった。
FクラスからDの脅威度までの、食用として一般的に食べられている動物や魔物を狩った。
Gクラスの脅威度、無害。F、畑や家畜に被害が出る程度。E、一般的な悪党の集団と同列。C、集団であれば、村が蹂躙される。
B、小さな町なら壊滅する。A、出会えば死ぬ、国が滅ぶレベル。S、塵も残らない。
クラスの脅威度には、平均を下回る場合、マイナス。上回る場合、プラス。といった風に脅威度を追加されることがある。
そろそろ戻ろうかと思った矢先、背後から肌を刺す気味の悪さを感じた。その場から飛び退き、地面を転がる。
さっきまで俺の頭があった場所に、黒い大きな口が閉じられていた。
もし判断が一瞬でも遅れていたら、首を食いちぎられていただろう。
脅威度Bクラスのグリズリーラビットだ。驚くべきは、体長二メートルを越える体格。額に角、獰猛な牙、鋭い爪、桁外れな膂力、全身が凶器になり得る。
グリズリーラビットの白い体毛は、刃を通しにくく、その巨体から考えられないバネがある。気づいたら目の前にいた、ということも珍しくはない。
グリズリーラビットは、まさに初見殺しと呼ぶに相応しい身体能力を備えている。
体が震えた。鼓動は脈打つ。動けない、本能的に感じる生物的な格の差。
動け……動けよ。死ぬぞ。グリズリーラビットの鋭い爪が目前に迫る。
何でかな?師匠や、フェネの泣きそうな顔が浮かぶんだ。俺には、守りたい人がいる。
だから、死ねない。
体を捻り爪を躱し、顎を蹴り上げる。その一瞬、グリズリーラビットの動きが止まった。
開いた口をめがけて、短剣を投げる。しかし爪に弾かれた。だが、俺は弾かれた短剣の柄頭を蹴る。
短剣は、グリズリーラビットの口の中へ吸い込まれた。
ごぼっと、血液を垂れ流し、呼吸をするのも困難なようだ。
しかし油断した。強力なタックルで、俺は吹き飛ばされた。
まだ、こんな力を残していたのか。
ヤバイ、殺られる。一歩、一歩と距離が縮む。ヒタヒタと、地面を赤く汚す。
もう無理だ、そう感じた時。グヴァーと低く苦し気な呻き声を上げ、ズタッとグリズリーラビットは倒れた。
手の平を大きく広げ、そこには赤い水溜まりができていた。
……俺は生きている。勝ったんだ。
今までの努力は、無駄ではなかった。あの時、何もできなかった俺はもういない。確かに、そう思えた。
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