6.弱さとは、運なきこと

 晴れ渡る高原を走る。


 村を出て、五週間ほど経った。


 道中、魔物に何度か遭遇する機会があり、レベルが少しばかり上がった。


 ゴブリンやコボルトは食べられないので、解体して魔石を取る練習に使ったけど……グロい。


 服と体が血塗れになるし、匂いが全く取れない。フェネも解体の練習をしたけど、俺よりも酷いことに。


 最初は、魔石の位置がわからずに右往左往し、本当に川が近くにあって良かったと思う。


 師匠は鼻が利くのだが、離れた位置の匂いが感じ取ることができず。血の匂いしかしないと、何度も水浴びに行かされた。


 しばらく川周辺に滞在して、解体の練習をしたのだが、思ったよりも時間がかかってしまい。師匠に呆れられた。


 一月経ったということもあり、魔物の死体が大量にあったので、空想魔法を使えるのか?試すことにする。


 魔物と何度も戦い痛感したことだが、俺は弱い。


 空想概念具現化魔法以外の魔法は使えないし、武器を使う技量も、お世辞にも上手とは言えない。


 今の自分に必要なのは、自身の強化である。


 しかし魔法を使おうにも、発動することはなかった。


「何で?」


 魔法の発動には、死体以外にも何かしらの条件がある?


 こうなってしまっては、俺は役立たずじゃないか。


 解体の技術は確かに上がったが、戦闘技量は牛歩の歩みである。


 フェネに関しては、新しい魔法を取得し、着実に強くなっていた。


 何で俺は、強くなれないんだろ。これじゃあ誰も守れない。


 単純に努力が足りないのならわかるが、やっぱり俺には才能がない。


「ただの無能だ」


 離れた場所で、寝ずに木刀を振った。


「強くなりたい、仲間を守るために」


「……マ」


 むぐっ。


「ん?なんだろ、気のせいかな。よし、もう少しだけ頑張ろう」


 夜が明けると。師匠は、俺たちを乗せて走る。


 昼頃になると天気は一変し、曇り空になった。


「雨が降りそうだな」


「そうですね」


「人がいるよ」


「え!」


 近くに人里があるのだろうか?人の気配など全くわからないけど。


 冷たい雫が体に触れる。雨が降ってきた。


「急ぐぞ。近くに集落がある」


 師匠は、魔法『躍動』を使う。躍動は、身体、魔法の効果を著しく底上げする。


 速い、振り落とされそうになる。


 フェネや師匠の言う通り、村があった。


 しかし村全体の家屋はボロボロで、人が住んでいるようにはとても見えない。


 村人を見つけ、声をかけようと近づくと。


「もう差し上げられるものは何もありません。お願いします帰ってください」


 中年の女性が濡れて汚れるのも気にせず、土に頭をつけて土下座の姿勢を取る。


「何か、勘違いをしているな。我々は盗賊ではなく、旅のものだ」


 女性はほっとしながらも、警戒心を解かない。


「旅人さんでしたか。失礼致しました。甚だご無理な相談だと思うのですが、少しでいいので食べ物を分けてもらえないでしょうか?」


 よく見れば体は痩せ細り、骨の形が浮き出ている。


「可能であれば、身を濡らさぬ場所を提供してもらえぬだろうか?力になれることがあるかもしれない」


「わかりました。村長宅にご案内致します」


 雨は土を穢す、土は足を汚す。汚れることなど気にせず、虚ろな目だった。

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