4.生物的根拠
ハッと目を覚まし、辺りを確認する。
ここはどこだ!俺は誰?
……俺は、俺か。
ぼんやりした頭で考える。確か、湖でお風呂に入って。衝撃的なものを見て、柔っこい感触がした。そこから意識が……。
「マスター、お目覚め?フェネは、もうおねむ」
そう言って俺の膝の上に頭を乗せ、スヤスヤと安らかな表情で眠りにつく。
フェネが眠ったのを確認して。今、気になっていることを、師匠に打ち明けることにした。
「あの、師匠。聞きたいことが」
「お前の言いたいことはわかる。フェネが、名前を付ける前と付けた後では、別人格のようだと言いたいのだろう」
何で言いたいことがわかったんだろうか?
「はい、そうです」
俺は頷き、肯定した。
「ワシもあまり詳しくはないが、フェネの生き物としての、概念の固定化が済んだといったところだろう」
「生き物としての概念の固定化?」
「フェネを生んだ時点では、種族としての概念は固定化されておる。だがな、フェニックスという種族の何者であるのか?お前にわかるか」
種族名でしか言い表すことはできない。
「フェニックスだとしか言えないと思う?」
「そうだ。名付けをすることで、集合体の一部から分離し、個になったということだ」
つまりフェニックスのフェネと、認められたということか。
「でも名付けをする前の、フェネの記憶はどうなるんですかね」
「いい質問だ。なら集合体とは何だ?」
「それは、個が集まった存在ですよね?」
「正解。しかし無数にある個を集合体と呼んでいるだけで、個一つ一つが繋がっているわけではない」
「えっと、よくわかりません」
「つまりフェネの記憶は、集合体の中でも独立性を保持しているということだ」
「それで、どうして名付け前と、名付け後の変化に繋がるんですか?」
「確かに名付け前は、集合体からは独立しているが、フェニックスという種族としてしか認められていないので、生物的コミュニケーションができないのさ」
うん、サッパりわからない。
「例え話だが、名付け前が生まれる前の胎児に近い状態で。感情はあるが、システムのような言語形態しか持ってはいない」
フェネは、名付けをすることで、生き物としての言語形態を得たということだろう。
そこまで話を聞いて、ようやく理解することができた。
「これからフェネは、お前と一緒に育っていく。フェネの魔法は強力だが、精神は、生まれたばかりの幼子と変わらん。お前が守ってやれ」
「はい」
当たり前だ。フェネは、俺が守る。
そうして夜は更けて、月明かりが綺麗だった。
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