三人

 三人の忍者はいよいよ、ビルの最上階である四階へと赴いた。そこには身長約二メートルのアヤカシがいた。

「行くぞ、まもる!」

「はい! やなぎさん!」

 真っ先に動き始めたのは柳と守だ。愛海あみは二人を後ろで見守りつつ、大きな欠伸をする。

「ふあーあ……二人とも、アタシのスコアのために頑張るッスよぉ」

 愛海は相変わらず愛海であった。もはや、そんな彼女のことを気にする守たちではない。二人の忍者は息を合わせ、目の前のアヤカシとの死闘を繰り広げていく。アヤカシの背中からは二本の触手が生え、各々の先端は彼らの体に勢いよく打ち付けられていく。体中に痣が出来ていく中、守は歯を食いしばりながら手裏剣を投げた。奇跡か必然か、それは眼前の化け物の左目に突き刺さる。化け物は怒り狂い、もう二本の触手を体から伸ばしてきた。守は触手を避けながらアヤカシの方へと詰め寄り、柳は火炎放射器に変形させたアームマスターで触手を焼き払っていく。それから彼女は火炎放射器を無反動砲に変形させ、引き続き化け物を狙撃し続けた。しかしアヤカシは一回り大きな触手を右腕から伸ばし、二人を薙ぎ払うように突き飛ばす。二人はそれぞれの後方にある壁に叩きつけられ、守は膝から崩れ落ちる。


 柳は咳き込みながら吐血し、化け物を睨みつけた。

「コイツ……結構強いな……」

 無論、ここで引き下がるような彼女ではない。彼女はアームマスターを変形させ、今度は少し砲身の大きい銃火器を作り出す。

「アームマスター『荷電粒子砲モード』……発射ァ!」

 銃火器の銃口から、眩い光を放つ荷電粒子が放たれる。凄まじい火力を誇るビームに撃ち抜かれ、身長約二メートルのアヤカシは軽くよろけた。


 命の尽きたアヤカシは大爆発を起こし、廃墟のビルを粉々に粉砕した。


 ビルの跡地に立ち込める硝煙の中には、二つの人影が立っていた。一人は守、もう一人は柳だ。彼女は変身が解けており、酷く呼吸が乱れている状態である。

「やはり、火力の高い技は……体に響くな。守! 無事か⁉」

「はい……なんとか。愛海さんは……?」

 守は辺りを見回し、愛海の姿を探した。彼の視線の先に、灼熱の炎に包みこまれた瓦礫の山が飛び込んでくる。その下に埋もれているのは――――


「くそっ……動けないッス! このままじゃ死んじゃうッスよ!」


――――愛海だ。守はすぐに彼女の方へと詰め寄り、瓦礫を退かそうと試みる。しかし、鉄の骨組みが絡まったコンクリートの塊は酷く頑丈で、かつそれなりの重量を持っている。彼一人の力で愛海を救出することは難しいだろう。

「柳さん! 手伝ってくれませんか⁉」

 彼はそう言ったが、柳はあまり気乗りしない様子だ。

「守……オレはお前の優しさと正義感を尊敬している。だけどな、あの拝金主義者はテメェを殺そうとしたんだぞ?」

「わかっています! でも……」

「敵の命なんかより、自分の命を大事にしろ! 今コイツを助けたら、明日はテメェが死ぬかも知れねぇんだぞ!」

 彼女の言い分も否定できないだろう。あの拝金主義者は金のためにアヤカシを繁殖させ、金のために人の命をも狙うような女だ。それでも、守は愛海を見捨てようとはしなかった。眼前の瓦礫を持ち上げようと躍起になりつつ、彼は柳を説得する。

「愛海さんだって、誰かにとっての大切な人なんです! お金なんかには代えられない……尊い命の一つなんですよ!」

「テメェの命だって大切だ! 守!」

「当たり前です! 皆、大切な命です!」

「……仕方ねぇな」

 守の熱意に、とうとう柳は心を動かされた。彼女は忍者に変身し、アームマスターをバールに変形させる。二人は力を合わせ、瓦礫を持ち上げようと奮闘する。その様を見て、愛海はふとひらめいた。

(コイツらの加えている力……アタシのトリプレイで四倍にまで引き上げられるッスね)

 さっそく彼女はトリプレイを使った。三度にわたって加えられた力により、瓦礫は少し宙に持ち上げられた。愛海はこの隙を逃さず、何とか燃え盛る瓦礫から脱出する。こうして三人は、無事に今日の仕事を終えた。



 *



 翌日、愛海は再び守たちの前に姿を現した。しかし今回は二人に敵意を抱いている様子はない。彼女は数枚の一万円札を見せ、こう言った。

「昨日は……ありがとう。これ、昨日の報酬ッス。これで貸し借りは無しッスよ」

 一応、愛海にも恩を感じるだけの心はあるようだ。彼女は報酬金を三人分に分け、守たちに金を手渡した。

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