共同戦線
それはある昼のことであった。
「はい、もしもし。守です」
「とある廃墟のビルにて、大量のアヤカシの卵が孵化したらしい。詳しい場所は後でショートメールにて伝える。すぐに準備に取り掛かれ!」
「了解です!」
どうやら出動命令だったようだ。守はすぐにテレビの電源を切り、家から飛び出した。それから携帯電話を開き、彼は廃墟のビルの場所を確認する。
「そこか……急がないと!」
守はすぐに目的地へと向かった。
数分後、廃墟のビルのある敷地の前には二つの人影が現れた。一人は守、もう一人は
「……良いか守。お前は忍者である以前に一人の人間だ。もし命の危険を感じたら、すぐにでも逃げろ」
彼女は守の未熟さを心配していた。しかし当の守はと言えば、次の仕事を目の前にして大張り切りである。
「逃げませんよ。柳さんのもとで修行していた僕が逃げたりなんかしたら、柳さんの顔に泥を塗ることになりますから」
「馬鹿野郎が。オレのせいでテメェが死んじまったら、オレはどのツラ引っ下げてお天道様を拝めりゃ良い。大体なぁ……テメェはつい昨日、死にかけたばっかだろうが」
「それでも、誰かが命を張らないと守れない平和があるのなら、僕はこの世界に命を捧げます! それが、忍者ですから」
もはや彼の目に迷いなどなかった。柳は呆れたようなため息をつき、廃墟のビルの中へと入っていった。彼女の後を追い、守もビルの中へと駆け込んでいく。
ビルの内部のそこらかしこには、伸縮するような動きを繰り返す卵がいくつも転がっている。
それらはアヤカシの卵であると見て間違いないだろう。柳の持つアームマスターから放たれていく光弾は、次から次へと卵を粉砕していく。彼女はビルの廊下を突き進み、各々の部屋を調べては卵を粉砕していく。そんな調子で一階を掃除し終わった彼女は、守を連れて階段を駆け上がる。
二階の広間には、たくさんのアヤカシがいた。
いつものように、守は体術、柳はアームマスターを駆使してアヤカシと戦っていく。しかし今回の標的は一味違う。アヤカシのうちの一体は、光弾を浴びながらも柳の方へと駆け寄ってくる。そしてその一体は強靭な右腕を振り下ろし、鋭い爪で柳の二の腕を抉った。その傍ら、守は別のアヤカシに殴り飛ばされ、後方の壁に叩きつけられる。それでも彼らは逃げ出さず、忍者としての仕事に専念していく。そして死闘の末、二人はビルの二階に蔓延るアヤカシたちを死の寸前まで追い詰めていった。
その時である。
守たちを囲っていた何体ものアヤカシは、突如一斉に爆発した。この爆発により、広間の床は大きく抉れ、鉄骨やコンクリートが露出している。何かを察した柳は、すぐに階段室の方へと目を向ける。そこに立っていたのは青い髪の忍者――
「ありったけのスコア、ゴチになったッス!」
相も変わらず金にがめつい女である。柳は少し不服そうな顔つきをしつつ、愛海に冷静な指示を下す。
「おそらくだが、三階もアヤカシで溢れ返っていることだろう。オレが天井を破壊するから、落ちてきたアヤカシにさっきの爆発を食らわせてやれ」
柳の目的は、あくまでもアヤカシの駆除だ。必要とあれば、彼女は昨日いがみ合った相手とさえ手を組むらしい。柳はアームマスターを変形させ、無反動砲を作り出した。まずは一発の光弾が放たれ、部屋には爆音が鳴り響く。続いて、二発、三発、四発と強力な光弾が放たれていく。
「よし、今の四発を同時に再現しろ。それを三回繰り返せば、この天井は簡単に崩れるはずだ」
無論、愛海からすれば、ここで彼女に従っておいて損はない。
「了解ッス!」
愛海はすぐにトリプレイを発動し、天井の四発分の爆発を三回再現した。三階からは、十体前後のアヤカシが落ちてくる。柳は守の二の腕を掴み、彼を部屋の隅の方へと引っ張った。そして彼女は、声を張り上げる。
「後はさっき指示した通りだ!」
その言葉に愛海がうなずくや否や、広間は再び激しい爆発に包まれた。ただの一度ではない。先ずは三発の大きな爆発が発生し、アヤカシたちの死により四発目の大爆発が起きる。この光景を前にして、守はこう思った。
(二人とも協力すれば息が合うのに、どうしていがみ合うんだろう……)
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