再会

 その日の夜、街の一角にはまたもやアヤカシが出現していた。アヤカシは無差別に人を襲い、次々と仲間を増やしていく。この地帯にいるアヤカシの数は、実に十体前後だ。そんな場所に颯爽と駆け付けてきたのは、二つの人影である。一人はまもるで、もう一人は翔琉かけるを殺した女だ。両者ともに、まだ変身はしていないようだ。


 女は言った。

「……オレが憎いか? だが私情は挟むな。オレたちで力を合わせ、アヤカシどもをブチのめすぞ!」

 曲がりなりにも、この女は守のことを覚えていたようだ。守は深くうなずき、忍者に変身した。彼に続き、女も緋色の装束に身を包む。守は手裏剣と体術、女は様々な武器に変形する巻物を使い、アヤカシに攻撃を仕掛けていく。光の弾丸を四方八方に向けて乱射しつつ、女は話を切り出した。

「オレは有川柳ありかわやなぎだ。お前は?」

白峰守しらみねまもるです。よろしくお願いします」

「巻物の使い方はわかるか? こいつがねぇと、オレたちは忍術を使えねぇ」

 巻物は忍者の必需品だ。しかし守が忍術を使う様子はまるでない。覚えたての体術で半ば防戦一方になりつつ、彼は柳との会話を続ける。

「それが……何度試しても忍術を発動できないんです」

「巻物が合ってねぇのかもな……『社長』に言って巻物を変えてもらえ。ちなみにオレの巻物は『アームマスター』と言ってだな……見ての通り、武器に変形する巻物だ。お前はどんな巻物を支給されたんだ?」

「『オートパイロット』……だそうです」

 少なくとも、柳はこの業界においては守の先輩にあたる人物だ。そんな彼女であれば、その名前に心当たりがあったとしても驚くには値しないだろう。しかし、彼女はオートパイロットという名に覚えなどなかった。

「……聞いたこともねぇな」

 彼女はそう返すと、アームマスターの銃口を背後に向けながら発砲した。その先にいた一体のアヤカシは頭部を撃ち抜かれ、爆発する。やはりベテランの忍者ともなれば、死角から襲い来る敵を仕留めることにも手慣れたものである。その傍ら、守は初心者なりに全力を振り絞り、別のアヤカシの相手をしていく。そのアヤカシは容赦なく触手を伸ばし、その先端を守の腹へと突き刺す。

「まずい……!」

「案ずるな、守。忍者はアヤカシウィルスに対して免疫力を持つ。オレたちがアヤカシ化することなんざねぇよ」

「それは便利ですね。全人類が忍者になれば、アヤカシの脅威が軽減されるのに……」

 無論、世の中はそう甘くはない。クナイで触手を切り落とす彼に目を遣りつつ、柳は忍者についての説明を続けた。

「忍者になれるのは適性を持つ者だけだ。そうでない者が忍者細胞を注射されると、肉体が忍者力と呼ばれる力を制御できずに自壊する」

 忍者細胞への適性――それが忍者に要されるものである。守は少し落胆したような表情を見せ、引き続き眼前のアヤカシをクナイで切りつけていった。そのさなか、彼は化け物の右耳付近で何かが光ったことに気づいた。彼が目を凝らすと、そこにはBFFと書かれたピアスが着いていた。


 彼は何かを察した。

「このアヤカシ……あの二人の内のどちらかだ!」

 運命とは残酷なものだ。彼は自らの手で救った仲の良い二人組のうち、片方を殺さなければならない状況に立たされている。守は生唾を呑み、炎のように揺らめく忍者力を身にまとった。その力を流し込まれたクナイは眩い光を放ち、夜の路上を街灯の如く照らした。彼は目の前のアヤカシの腹部に、その切っ先を勢いよく突き刺した。


 アヤカシは爆発し、ピアスを爆風で飛ばした。


 守は右手でピアスを捕らえ、それを懐に仕舞った。たった今仕留めた相手がハルカなのかサキなのか、それを確認する術は今この場にはない。どちらかの無事を確認するまで、自分の殺めた相手の正体を知ることすらままならないのだ。

「二人とも……本当に申し訳ありません……」

 彼は後悔の念に駆られつつ、まだ仕留められていない数体のアヤカシとも戦っていく。そんな彼の悲哀を帯びた横顔を後目に、柳は少し厳しいことを言い放つ。

「私情は挟むなと言ったはずだ! 過去を省みる暇があるなら一体でも多くのアヤカシを駆逐しろ!」

 その言い分に対し、守は決して反論などしなかった。彼は唇を噛みしめつつ、アヤカシをもう一体撃破した。

「柳さんの言う通りです。これ以上、誰も失わないために、何も失わないために、僕は戦わないといけません!」

 守の瞳に、覚悟の炎が灯った。もう彼に迷いはない。



 それからも二人は共闘し、その場にいるアヤカシをわずか十分で全滅させた。



 両者は一斉に変身を解き、アヤカシの爆発による煙が風の中に消え去るのを見守った。

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