第3話 姉ができて初めての学校①

 姉ができて初めて学校に行く。

 朝起きていつも通りに朝食を食べようと一階に降りる。するとイチャイチャしている紗栄子さんと父さんが目に映る。

 見慣れない景色。

 その横で黙って、ご飯を食べている姉の咲希。なんだか可哀想に思えてくる。咲希、すまない、俺の父があんなんで。

 とにかく俺は席について朝食を食べ始める。そして気づく。味がちょっと違う。それはそう。いつもは俺と父さんで一日ごとに交代でご飯を作っていた。今日は父さんの日だが、紗栄子さんが作ったのだろう。なんだか慣れない。不味い訳ではないが、箸が一向に進まない。さては、向こうの家で料理を作っていたのは、咲希なのか。気になるところだが、親二人がいる前では流石に聞けない。また今度にしよう。



 そうして、なんとか完食してお皿を片付け、学校に行く準備をする。パジャマを脱ぎ制服に着替えていると、俺の部屋を誰かがノックしてきた。咲希だった。


「あの、学校一緒に行かない?」

「えっ。」


俺はてっきり逆を言われるのかと思っていた。俺みたいな陰キャ的存在が学校一の美女と一緒に登校したものなら、俺がどんな目に合うかわからない。それは咲希にも言える。そして俺はこう言い返した。


「学校では俺と絡んできたりしないでほしい。それは俺のためであり、咲希のためでもあるから。」


と。これが無難だろう。何もなく今まで通りに生活をしよう。そう思った。しかし、咲希は正論をついてきた。


「学校にはもう名前立花に変えちゃったから、もう手遅れだよ。」

「あっ。」


情け無い声が出る。そういえばそうだった。名前も変わってるから、結局友達とかに詰め寄られて自白するしかない未来が見える。もう諦めるしかなさそうだ。それを悟って、


「わかった。一緒に行こう。」


と返事をした。

まぁ、誰が前はご飯を作ってたか、聞きたかったし。その話でもしよう。






 学校は歩いて20分ほどの公立高校。父は先ほど紗栄子さんと一緒に仕事に出掛けて、俺らも家を出た。

 登校中、俺はあの話を振った。


「前まで誰が飯作ってたの?」

「えーっと、大体いつも私。」


やっぱりか。


「それがどうしたの?」

「いや、今日朝食作ったの紗栄子さんかなって思って。あっ、別に不味いとか文句を言いたい訳じゃないからね。」

「たぶんうちのお母さん。仕事はできるけど、家事が苦手っぽい。いつも私がやってたんだよね。」


咲希は家事もやってたのか。そこら辺は共感できるものがあるな。


「颯太は家事とかやってたの?」

「俺と父さんで日替わりで飯は作ってた。でも大体の家事はいつも俺がやってた。」

「そうなんだ。ってことは、料理は得意?」

「周りの奴よりはできると思う。」

「じゃー、私たち仕事さえできれば、生きていけるね!」


その言葉の意味に深い意味はないと信じているぞ。君は天然だからその言葉が、告白っぽいなんて思ってないんだよな。


「ま、まー、そうだな。」

「お互いにまだまだ、知らないところがあるからもっと知りたいな。」


本当にただ思ったことを言っているのだろうが、俺には告白じみた感じにしか聞こえない。


「まぁー、時間かけて知っていけばいいんじゃない。まだ、家族になって、数日なんだし。」

「そうだね!」


本当に素直なやつだな思う。悪い子ではないのは身にしみてわかる。


さぁ、学校に着いたらどうなるのやら。不安でしかない。






 学校に着いて下駄箱に向かう最中もいろんな人からの視線が絶えない。俺を呪うかのような目で俺を見つめてくるやつも何人かいた。咲希はそれに気づかず、ただ普通に歩いてる。よく歩けるな。俺は今すぐにでも家に戻りたいが、そうにもいかない。仕方なく、教室に向かう。すると、俺の唯一の親友と呼べる存在、佐藤優が話しかけてきた。


「おい、颯太。どうした。島崎と一緒に登校なんて。付き合ったのか?陰キャなのにやるな!」

「違う。あとになってわかるさ。なんで今一緒にいるか。」


今はなるべく人と関わりたくない。とにかく面倒臭い。






 そして席につき、数分経つと教室に先生が入ってくる。そして、担任の先生が、


「今日から島崎さんの名前が立花に変わりました。理由はここでは言えませんが。」


と一言。

 教室は立花?立花ってあの陰キャの?結婚でもしたか?などざわついている。

 先生、一発目の発言でそれは違うだろ。こっちの気持ちも考えてくれ。ホームルームが終わったら、大変なことになるだろ。

 しかし、時すでに遅し。もう、クラスにいる男子の目は俺を見つめていた。


 

 終わった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る