第4話 姉ができて初めての学校②
朝のホームルームが終わって、俺はすぐさま教室から出た。廊下を歩いても視線を感じる。大変なことになった。1時間目は移動教室。速攻で行くしかない。すると、後ろから誰か俺の名前を呼んでいる。
「まさか…、」
そのまさかだ。
「颯太!一緒に移動教室行こう!」
「おい、咲希。今、俺が置かれている状況がわからないのか?」
「えっ?何が?」
ダメだ。何も理解してない。もう正直に言わないと伝わらない。
「咲希と一緒にいると俺が変な目で見られるんだよ。学校ぐらいは関わらないで欲しい。」
「ヤダ。絶対にヤダ。」
「はっ?」
思わず口に出てしまった。ヤダとはなんだ。なんでイヤなんだ。ここはすんなり受け入れるべきだろ。イヤな理由がわからない。
「イヤな理由を教えて欲しい。ちゃんとした理由がないなら、一緒にはいないぞ。」
「ちゃんとした理由は…、」
「答えられないのか?じゃーなんで一緒にいなきゃいけないんだ。」
「……。」
黙ってしまった。それはずるいだろ。もう授業が始まりそうだから、俺はその場から去る。
1時間目が終わり、休み時間に俺は咲希にまた呼び止められた。
「あの、ちゃんとした理由。教えるから、お昼休み体育館裏に来て。」
それだけを伝えて行ってしました。
俺は告白でもされるのか?そう思いながら次の授業を受ける。
3時間目の授業は国語だ。俺の席の前は咲希。咲希の前は咲希と仲のいい、高橋日向。国語の授業は担当の先生の授業スタイルで意見交換のため班になって授業を受ける。これは、入学当時からのこと。日向とはずっと同じ班。仲は悪くないが、明るい性格が苦手の俺には少しきつい。そんな中に咲希もいるものだから、授業に集中できない。
そんな授業をなんとか乗り越えて、休み時間。日向に呼び止められる。
「立花!あっ、咲希じゃない方ね。ちょっといい?」
「どうした?」
「今日の放課後空いてる?」
俺は何を言っているのか分からかった。
「今なんて言った?」
「だから、今日の放課後空いてる?」
「あ、空いてるけど。」
「じゃー、一緒に帰ろう。OK?じゃーね!」
そう言ってどっかに行ってしまった。
聞きたいことは山積みなのに、そっちで勝手に理解して、終わらせないで欲しい。俺は意味不明なまま放課後まで過ごさなきゃならないのか。咲希といい日向といい、訳のわからないやつばっかだな。本当に疲れるものだ。
まぁ次の授業受けて、弁当食って、咲希の言われた通り体育館裏に行くか。
4時間目を終えて、弁当を食べる。今日あったことをもう一回整理する。
・まず、朝に咲希と一緒に登校をして変な目で見られ、先生に余計なことを言われて尚更変な目で見られた。
・次に咲希に呼びかけられ、移動教室に一緒に行こうと言われ、俺は反論をして、ちゃんとした理由を聞くために昼休みに体育館裏に行く。
・それでさっき日向に呼ばれて、一緒に帰ろうと強引に言い寄られて断れずに終わった。
こんな多忙な日は人生で初めてだ。俺にとって学校は何も起こらない平和な場所だったのに、今はこの有様だ。父の幸せとはいえ、これはあまりにも厳しい生活を送ることになる。もう、ごちゃごちゃ考えるのをやめて、早く咲希の所へ行こう。そうして、弁当をかき込んだ。
体育館裏に来た。誰もいない。何なんだ。人を呼び出しておいて。
そう思い、帰ろうとしたその時、後ろから誰かがドッとぶつかってきて俺に抱きついてきた。そして、
「好きだから。」
と言う。
この声は咲希、だ。
「好きなの。好きでたまらないの。もし私のせいで迷惑をかけているなら、ちゃんと謝る。でも、私は颯太が好きでたまらないの。入学した時から好き。何なら入学する前から好き。それなのに、家族にもなって。それも弟という立ち位置になって。家族になったのは偶然だけど。だから、絶対に私のものにするって決めたから。この気持ちも少しは分かって欲しい!」
「あのー、一旦俺から離れてくれないか?」
一気に俺の頭の中に色々な情報が押し寄せてきて、パニック状態になっている。
咲希が俺のことを好き?この陰キャな俺を?ありえない話だ。ちゃんと話を聞きたい。
しかし、咲希は、
「やだ。離れない。颯太を私のものにできるまで離れない。」
「そうも言ってられないだろ。咲希の気持ちもわかったから、一旦離れてくれ。」
「じゃー、約束して。私と付き合うって。」
「いやなんですぐ付き合っちゃうんだよ!そこは少しぐらい俺の意見聞こうとかないのか?」
「ないよ。だって颯太が言うとしたら、付き合わない、の一択だもん。」
「いや、何でそうなるんだよ。」
「じゃー、付き合ってくれるってこと?」
「あーぁ!!、」
困った。大変なことになった。本当に告白されるとは思わなかった。しかも、こんな形で。いきなり過ぎるし、唐突に付き合ってくれと言われても流石にすぐにはYESとは言えない。
「わかった。一日だけ猶予をくれ。明日までには答えを出す。」
「本当に?」
「本当に。」
「答えを明日くれなかったら、罰を与えます。何とはいいません。それでいいですか?」
俺は今すぐにでもこの状況から脱出したいので、OKと答えた。咲希は不服そうに俺を見ながら、去っていった。
それから5時間目が始まったが、何も頭に入ってこない。幸いにも昼休みのやりとりを誰にも見られてなかった。しかし、罰与えられるかもしれない約束をその場でOKと言ってしまい、明日までに答えを出さなければならない。なんと厳しいミッションだ。今日だけで寿命が10年くらい縮んだ気がする。本当に体に悪い。そしてこの後、放課後には日向と帰ることになってるし。一緒に帰る約束を破ったら、何されるか分からない。素直に一緒に帰ろう。
しかし、もしかしたら日向にも、なんて。考えただけで恐ろしい。ささっと今日が終わらないかなぁ。
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