第45話 丘頭桃子警部の捜査(その14)

 舛上コーポレーションの秘書長氷見誠一を、高屋敷夫妻の殺害目的で交通事故を計画し実行する際、大型トラックの運転手徳山玄に金を渡して実行させた殺人罪における教唆の罪に当たるとして逮捕状を請求した。

 また、4名の目撃者の偽証が犯人隠避に当たる可能性は高いが、既に時効となっているので事実関係だけを明らかにする。

そして、そこに至る経過説明の中で算部産婦人科医院における新生児のすり替え事件、鳥井唯殺人事件、佐音姫香殺人事件と本事件とが一本の糸で繋がっていることを示す。そしてその上で、故舛上海陽が深くかかわっていたことを明らかにし、氷見誠一が海陽の指示で動いたことを示そうと考えていた。

 検察がどう判断するかは分からないが、それで自分の果たすべき役割は充分にし尽くしたと丘頭警部思った。

 

 手続き終了後一心の探偵事務所を訪れそう報告した。

「これまでに分かった殺人事件には、海陽が陰にいたことは間違いないだろう。そうするとだ、被害者の家族が復讐したとも考えられるが、鳥井の周りには該当するような人物はいないし、佐音姫香の家族と言えるのは佐音綱紀だけだ。アリバイもはっきりしないから容疑者第一号と言って良いんじゃないかなぁ。高屋敷夫妻の養子だった舛上椋も怪しいがアリバイを警察が確認したんだろう? 仕事絡みでは今吉俊平がいるが結局違ったんだろう?」海陽殺人事件との関りを一心はそう話す。

「そうなのよねぇ、残るは佐音綱紀だけなのよねぇ。でも、なんか違う気がするのよねぇ」

お茶を啜りお菓子をつまみながらどうも納得がいかず首を傾げる。

「まさか、刑事の勘か?」

丘頭警部はふふんと鼻で笑ってみせる。

 

「ネットで炭酸ガスボンベ買ったやつは特定できたのか?」

「それがねぇ、二人だけわからないの。一人は、引き渡し場所が個人住宅だったの、業者が持って行くと玄関前の駐車スペースに乗用車が頭から突っ込んでいて、道路に向けトランクを開けて30から40歳の男性が待っていたらしいのよ。そして業者に、車にボンベ積んでというのでその通りにして引き渡しを終えたんだけど。私らがその住所のその家に行ったら空き家だったのよ。可笑しいでしょ。もう一人は、北道大学理学部研究所の玄関前での引き取りだったの。業者はそこで待っている人が頼まれて受取に来た学生なんだろうと勝手に思って学生の名前も訊かないでそこに置いて帰ってきたって言うの。で、私らがそこへ行って研究室を全部訊いて回ったんだけど、どこも炭酸ガスボンベなんか注文してないって言うのよ。こっちも可笑しいでしょ?」

「ほ~、怪しいな。で、モンタージュ写真とか似顔絵とか作ったのか?」

「ん~、一応ね。でもねぇ、一人目は佐藤一郎っていう名で口の横に大きな黒子があって配達員はそこにばっかり目が行って、目付きとか鼻の形とか身長なんかはっきり覚えていないのよ。二人目は安田元気という名で端から学生だと思ってるから、ろくに顔も見ないで置いてきたって言って、できた似顔絵はなんかアニメのヒーローみたいなのよねぇ。全然信用できないの。一応は周辺の聞き取りしてるけど反応無しなのよ」

「それって、事件の1週間前とかか?」

「うん、先の人が1週間前でもう一人は2日前だった。それに名前も変でしょう、佐藤一郎なんて如何にも偽名っぽいし、安田元気は読み方によったら、『あんたげんき』なのよ、無いとは言えないけど変な名前よね」

 

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