第46話 岡引一心再捜査する

 氷見が椋の養父母である高屋敷夫妻を殺害した主犯だったことを丘頭警部から聞き、考えて考えて漸く海陽殺害の犯人が一心の頭に浮かんだ。

家族を前に自分の推理を順に話す。

「なぁ、舛上宅に侵入するためには、門に設置された監視カメラを避け、塀の上の赤外線警報装置を逃れることが先ず必要だろう?」

「それは事件の当初に話してたんじゃね」数馬が当然という面持ちで突っ込みを入れてくる。

「で、数馬、どういう方法があったんだ?」一心は自分を含めそのことを余り考えていないことに気付いたのだ。

「えっ、いやっ、ん~、考えてない!」

やはり数馬も同じだ。

「だろう、警部もその点について何も言った事は無い。つまり、方法が無いんだ」

それが一心の行きついた結論だった。

「いや、一心、あるぞ! 俺が作ったバルドローンなら、軽く空から庭に降りられる。ボンベは精々50キロだろ、それなら充分に可能だぜ」

美紗の反論にちょっと驚かされたが、美紗は自分の作品に自信があってそう言ってるし、それがあるなら可能だろう、が、バルドローンは市販されていない。以前、美紗のバルドローンを真似て作って犯罪に利用した奴がいたことは確かだが、自動車修理工と精密機械に精通した人物がいたから作れたのでそう簡単にできるものではない。

「美紗、ネットでもそれ、売ってないし、まさかお前バルドローンをネットで売り出してるわけじゃないだろう、そうでもないと買えないぞ!」

一心がそう言うと美紗は、声を潜め「そうだった」と頭を掻く。

 

 「あのさー、クレーン付き10トントラックのような車のクレーンに人とボンベを乗せ塀の内側にそれらを運び入れ、トイレ付近の地面に寝かせ雑草などでカモフラージュし壁にチューブを這わせる。てのはどうだ?」

一助が自信ありげに周りを見回す。

「昼間ならすぐ気付くだろうが霧雨で風もあるので警備員も気付かずにいた。というは可能性はあるんじゃないか?」

「おー、確かにありそうだな」美紗が同意する。

「せやけどな、クレーンを操作する人、クレーンに乗る人、クレーンが揺れないようにロープで支える人なんか必要ちゃう?」

「ん~、それにな、一助、当日は風があったから結構ゆれるだろうし、ボンベを回収するのはもう明るくなった4時頃になるだろう。クレーンが塀の傍で立ち上がってたら、守衛が気付くんじゃないか?」

話していると静が窓際で誰かに電話をしている。

10分程喋って戻ってくると「専門家に訊いたらな、一助の考えは無理やそうや。そもそもクレーンで人を移動させるのは危険すぎるそうや、電話工事屋さんみたいな高所作業車が必要やけど、壁の反対側に下ろすのはできへんて。あん日は風も強くて全然無理無理言うてましたわ」

 

「外部侵入ができないと仮定すると、椋、秘書、守衛に絞られる。日中勤務の者は通用門の鍵を守衛に引き継ぐから夜中に通用門は通れない」

「そうか、すっと可能なのは、当日泊まりだった秘書3名と守衛2名に椋の合わせて6名ってことだな」

一助が絞った6名というのは正解だ。

「ただ、この事件に金の動きがないようなので殺人の教唆ではなく自身が殺人を実行していると思うんだ」

「そうすっと、動機のある人間が自ら犯行に及んだってことになるな」

「一助、今日はやけに冴えてるな」

一心が褒めると一助は歯を見せて笑い胸を張る。

「警察の捜査で守衛に動機が無いことははっきりしている。事件の日の泊まりの秘書は、氷見誠一、冬月連二、友杉建二の三人だ。共犯の可能性もある。しかし、個別に動機は認められなかったし、秘書が誰の命令を受けたら雇い主の海陽社長を殺害するんだ? と考えたんだ」

「せやなぁ、でも、もう一人可能性のあるおひといるんやないやろか?」

一心は静の想定外の意見にはっとさせられる。

「確かにそうだな、確認していなかったな」

「誰よ? 何二人だけで分ってるような話してんのさ」

美紗が口を尖らせて文句を言う。

「まあ怒るな。佐音綱紀のことさ、奴はこの家に住んでいて突然追い出されたから、通用門の鍵を持ったまま出て行ったんじゃないかって話さ。通用門には監視カメラが無いからな。なぁ静そうだろう?」

静はにっこり頷いている。

「じゃ、何か?椋と綱紀が容疑者ってか?」

数馬の言う通り内部犯行だという前提付きだが、その二人に絞られる。

「ただよ、椋には確りとアリバイあったよな?」

「だから、もう一度それを俺らが調べるんだ。皆どうだ?」

「せやねぇ、一心が言うならそうしまひょか? ただ、調べるんならアリバイだけやのうて、ボンベも探してみたらどやろ?」

「そうだな、簡単に捨てられるものじゃないから身近に隠してるか、木は森に隠すか、奴らの行動できる時間から捜索範囲絞れるんじゃないか? 美紗ちょっと計算してみてくれ」

「おう、皆、どの場所でどれだけ時間があったのかをできるだけ正確に調べてくれな、だけど時間は少し余裕持ってな。それと、ボンベ探すなら専用の探知機作ったるわ」

「時間は、何時頃に何分って調べないと時間帯で交通量が大分違ってくるからよ、なぁ一心」

「そ、数馬の言う通りだ。じゃあ皆頼むぞ! あっ、静、念のため美紗と一緒に行動してくれ」

「へい、あての大事な美紗が襲われたら大変どすよってな、そうしまひょ」

 

一心はこの方針を持って浅草署に向かった、勿論、丘頭警部に伝えるためだ。

 

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