第43話 舛上椋の追及2
椋は警察から高屋敷夫妻の交通事故の目撃者が捏造されてたと聞かされた。
即座に秘書長の氷見とその部下の利根埼恒心、会田翔太、友杉建二の4名を社長室に呼びつけ、デスクの前に立たせたまま𠮟責した。
「氷見! どういうことだ! 高屋敷夫妻の事故の目撃者は捏造だったと聞いたぞ! しかも、お前から指示されたと言ってるそうじゃないかっ!」
「自分は関わっておりませんが、故海陽社長が万一の場合はそう言えと命じたのではなでしょうか」
氷見は表情を変えずとぼける。
「利根埼、会田、友杉はどうだ、何か知らんのか?」
三人は、知らないと首を振る。
「椋社長、先日の役員会で紅羽奥様が社長に就任されました。椋社長は副社長ということのようですが、我々は、故海陽社長の私設の秘書課という認識をしているのですが、今後は紅羽社長の秘書兼ボディガードなのでしょうか? それとも椋副社長の秘書兼ボディガードなのでしょうか? それとも両方?」
氷見は社内組織から外れている自分たちの身分保障を確約して欲しいのだろう。椋はそれが可笑しくてクククと笑ってしまった。
「心配するな。お前たちは、紅羽社長のボディガードだから社長用の車両を使え、俺はお前たちに必要な時にボディガードと秘書役を務めてもらう。これは紅羽社長にも了解を取ってある」
「わかりました。では、初めのご質問に改めてお答え致します。高屋敷ご夫妻の殺害を故海陽社長から命じられて、目撃者の配置、大型車の運転手の確保など私が考案し許可を得て実行したものです。ですからここにいる全員関わっていることになります」
氷見は平然として答えた。
椋は、海陽と氷見の話を盗み聞ぎしてすべてを知っていたとはいえ、改めて本人の口から聞くと腸が煮えくり返る。殺してやりたいという衝動をボールペンを手の甲に突き刺して耐えた。
「氷見! 目撃者が偽証を認め始めている。もう隠しきれない、自首しろ!」
怒りで振るえそうになる声を腹に力を入れ怒鳴りつけることで押さえつける。
「副社長、それはできません。何故なら、私が自首すれば目的を訊かれます。実の子供を取り返すという目的を明らかにすれば故海陽社長の命令があったかどうかが焦点になるでしょう。それは不名誉なことです。私が事故を指示したことを認めなければ、目撃者や運転手の証言から私は有罪になるでしょう。でも、そこで止まります。恩義ある故海陽社長の名誉のために私は犯行を最後まで拒否するつもりです」
「氷見、そうはいかないんだよ。高屋敷は俺の親だぞ、その親を海陽がお前たちを使って殺したんだ。俺が許せるわけないだろうがっ! お前がいくら否認しても今のお前の言葉を録音してあるんだ。自供しなければそれを高屋敷夫妻を殺害した証拠として警察に提出する。わかったな!」
椋は立ち上がって氷見を睨みつける。氷見も椋を睨みつける。
沈黙が流れ、「失礼します」そう言って氷見は背中を向けた。氷見に続いてほかの三人も一礼して立ち去った。
椋は悔しさが体中に溢れ、歯ぎしりをする。血が手の甲を流れ机にぽたぽたと滴っているが、痛みが感じないほど憤怒に燃えていた。こんな家に生まれたばっかりに優しかった高屋敷の父さんと母さんを死なせてしまった。高屋敷の家で普通に暮らしていたかった。充分に幸せを感じていた。
「氷見の野郎! 怨み骨髄に入るだ……警察がさっさと逮捕しないと、自分が自分の方法で……」
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