第17話 岡引美紗の仕事

 美紗は2週間近く得意のハッキングを大上段に振りかざして舛上コーポレーションや関連企業、下請け企業などの社内ネットワークに侵入し、社内メールや文書などに不審なものが無いか探していた。

舛上本社の人事情報を見ていて、やたらに減給、降格、左遷と思われる処分がここ数年毎年15件以上あることに気が付いた。

中でも2年前に経理部長だった上野誠が11月24日付けで職務規律違反として総務課係長に降格になっている。そのほか一般職の伊林薫、一樹洋子など勤務怠慢により6カ月間給与が半分に、同じく一般職の遠野辺聡一、瓜田ひとみは命令違反として懲戒解雇されている。

 余りの懲戒処分の多さに驚いて一覧表を作成した。その数48名に上った。

「一心、これ見てよ」一枚の紙ぺらを応接テーブルに滑らす。

「美紗、これハッキング情報か?」

「うん、まぁな」

「社内にも相当恨みのある人間がいそうだな。警部のとこ行ってくるわ」じっと表を睨んでいた一心が勢いよく事務所を出て行った。

 見送ってから一心が気にかけている算部産婦人科医院をハッキングする。

医師と看護師のメール等のやり取りを見ていると、不倫関係にあったらしい人物が浮かんだ。医師と看護師だから恐喝のネタにはなりそうなので抽出しておく。さらにカルテや院内文書を見ていると鳥井唯の名前と医療事故の情報を見つけた。日付は殺害された3か月前だ。

そして院長から鳥井に事件を内々に処理し刑事事件にしない代わりに自主退職するよう促すメールを発見した。婦人科で入院した患者の点滴を間違えて死亡させてしまったと書かれていた。

その患者のカルテ情報も抽出する。

その二件以外に脅迫のネタになりそうな事案はなさそう。

 

 2時間ほどして事務所に戻った一心にその二件の情報を渡す。

「不倫に医療事故か、あの病院にこんなことがあったんだ。特に医療事故は重大な問題だな。警部にもう一度報告してくるわ」

一心は、美紗がおやつに食べていた大福を一つ口に放り込んでやにわに飛び出して行った。

「あ~俺のおやつ……」美紗がそう言った時には一心の姿は既に階段に隠れてしまっていた。

 

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