第9話 岡引一心情報を収集する
数日後、じめじめとして梅雨のような霧雨の降る中再び丘頭警部が事務所に来た。
「おはよう~一心いるかぁ?」
「おー、おはよう。実験結果でもでたか?」
「そう、実験の結果、トイレにCO2を注入するのに必要な時間は2本なら4時間だから午後10時前後に注入を開始する必要あり。また、1本なら6時間必要だから午後8時前後に注入開始する必要がある、と分かった」
「そうか、大方予想通りだったって訳だ」
「そして、注入後1時間するとトイレの濃度は30%減少する。つまり、午前1時前か午前3時過ぎにトイレに入ったなら、10分以上そこに留まっていなければ死亡確率はほぼゼロになってしまう。
トイレに午前2時に入ったのは偶々だとすれば、ギャンブルに近いわねぇ。何故、そんな方法を選んだのかしら」丘頭警部は首を捻る。
「ってことは、毎晩ほぼ間違いなく2時頃トイレに行くことを知っていたってことになるよな?」
「そんなの家族以外は知り得ないでしょう」
「ん~、飲み屋でそんな話しないだろうし、犯人が夜間トイレに行く時間を調べたってのも現実的ではないようなぁ……それにしても想定内容と実験結果がほぼ一致していたなんて大したもんだ」
「そ、鑑識は優秀でしょう。で、対象者全員のその時間帯のアリバイを確認しているわ」
「何十人になるのよ?」
「全部で67名よ。色々絞り込める情報はあるけど、アリバイは全員確認しようって捜査会議で課長命がでたのよ」ちょっと不満げに眉を寄せて丘頭警部はバッグから一枚の紙を取り出し、一心の方に向かってすーっと応接テーブルに滑らせた。
「今の所、関連会社で浮かんできたのは、その五人よ」
一心がそれを掬い上げてみると、
「甲田物産(株)社長の甲田幸喜(こうだ・こうき)は輸出入の取引減少。
泉野興行(株)社長の泉野康秀(いずみの・やすひで)は本社ビル等のメンテナンス工事の減少。
暁物流(株)社長の暁藤次郎(あかつき・とうじろう)は運送量の減少。
今吉建具製作所の息子の今吉俊平(いまよし・しゅんぺい)は親が自殺。(取引解消)
舛上海陽と飲み屋街で喧嘩した高堂佐一(たかどう・さいち)は警察に保護。」
と走り書きされている。
「おいおい警部、飲み屋街での喧嘩で計画殺人はないだろう?」
「普通はね。ただ、ガスの取り扱いができる、またはガス関連企業との取引がある先をすべて対象にしているから、一応捜査してるって訳よ」
「ふ~ん、この親が自殺したっていう今吉俊平の動機が濃そうだな」
「ふふっ、私たちもそう考えてる」
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