20 精神感応と理由と裏側の戦争

 自分の部屋に入った僕・伏世ふくせゆうはベットに横になって意識を集中した。

 ……改めて、第四世代の力の一つ……精神感応を行うためである。

 

 あの時――バケモノと戦った時は必死だったからかろうじてできたんじゃないかという危惧はあったけど、どうやら杞憂だったようだ。

 精神感応の力は、鏡界を試した時と同様にあっさりと"繋がった"。


 なるほど。

 鈴歌すずか部長がインターネットを例に上げたのがよくわかる。

 これは確かに、そのものだった。


 自分が知りたいと思った情報が頭の中を簡単に行き来している。

 あまりにも簡単なので、リスクがあるんじゃないかとさえ思うが、その事に関してさえすぐに、基本的に安全だ、という答が返ってくる。


 疑似群体というのは伊達ではないらしい。

 利用していてそういう事を考えるのは忍びない気もしないでもないけど。


 ともあれ、軽く使ってみて感覚に慣れてきた僕は、知りたかった事をイメージしてみた。


 改めて、知りたかった事。

 それは、何故第三世代は第四世代を殺そうとし、第四世代もまた第三世代を殺そうとするのか。

 その事に他ならない。


 切那さん、あの男の二人からも聞いたが、もう少し自分なりに整理・判断するだけの情報が欲しかったのである。

 なので情報の波に翻弄されながらも、検索していく。

 やや偏見が入り混じった情報が多かったが、それを抜きにすると、こういうことらしい。


 第三世代が第四世代を殺そうとするのは、自己保存の本能。

 この地球上のありとあらゆる生物がそうであるように、人類……第三世代も自身を存続させようという、生まれた時から刷り込まれた命令がある。

 その命令ゆえに自らと『交代』しようとする第四世代を本能的に拒否する……という事らしい。


 そして、其処から生まれながらも、それ以上の理由として強いのが……恐怖。


 自分達に良く似た、自分達を上回る種族。

 それが異星人であったりするのなら、悩む必要などない。開き直れるかもしれない。


 だが、ソレは自分達の中から生まれ出てくるモノ。

 自分達の営みの中で少しずつ少しずつその数を増やし、力を蓄えていくモノ。

 そして、いつか必ず、自分達と取って代わってしまうモノ。


 それが十分恐怖に値するという事は、僕にさえ理解できる。


 自分の体に正体不明のウィルスが潜伏したとする。

 "ウィルス"は一体どうやれば消えてくれるのかはおろか、有害か無害かさえもさえ分からない。


 当たり前のように刻一刻と”ウィルス”は拡がっていく。

 そしてその対応を考えている間にも、如何なる形にせよ自分を食い荒らし、さらに繁殖していく……これが怖くないわけがない。


 だから、第四世代の存在を知った第三世代は第四世代を滅ぼそうとする……そういう認識であり、その為の組織も存在しているのも事実である。


 それに対し、第四世代が第三世代を殺す理由。


 まず、一つは"先を行くもの"としての古きものの排除。


 それは、太古よりずっと続いていた現象にして現実。

 第四世代に至る長き道程の中で、繰り返されていた事実。


 選民思想というものがある。

 自分達こそ神に選ばれた人間、もしくは真に優れた人種であるという意識の事を指す。


 "先を行くもの"たちに刷り込まれているものは、それとは似て非なるものである。


 それは、優れた知性体のみこの星に存在を許されるべきだという思考。

 何もそれは弱者を淘汰する思想からのみ生まれたわけではない。


 この地球に存在する、生物……人類が必要とする資源には限りがある。

 それが枯渇してしまえば、文明に頼った"抵抗力"のない人類は死に絶えてしまう。


 限りある資源に依存する惑星上でより永く人類を存続させるためには、不必要なモノは削られなくてはならない。


 第四世代が保持する能力が"抵抗力"に値するか、あるいは第四世代が『不必要なモノ』じゃないかどうかはわからない。

 だが、少なくとも第三世代よりも様々な状況に対応できる力……より優れた能力の数々を身につけているのは確か。


 そんな第四世代に対し、未完成にして脆弱。

 そして、この星に住むという事を本当の意味で認識する域にすら達していない第三世代にはこの星の恩恵を受ける資格が無い。


 ゆえに、不必要。

 ゆえに、滅ぼさなければならない。

 第四世代こそ今代を生き残り、先へ進むべき人類だ……第四世代はそう思っている。


 そして、もう一つ、第四世代が第三世代を殺す理由がある。

 それはむしろ前者の理由よりも大きいのかもしれない。


 それは自身の防衛と生存のため。


 第三世代は第四世代を殺そうとする。恐怖ゆえ、自己保存ゆえに。

 それは手段や状況、時や場所、対象を選ばない場合、状況もある。


 自身が殺されそうになって黙っていられる人間がいるだろうか?

 自分の友人や家族を殺されそうになって放っておける人間がいるだろうか?


 自分の大切な人を殺されて、何もしないでいる事のできる人間は、いるのだろうか?

 

 そしては自分達が滅びるまで繰り返されるという。

 冗談じゃない……そう思うのが当たり前ではないだろうか?


 だから、殺される前に殺すしかない。

 だから、滅ぼされる前に滅ぼすしかない。


 しかし、そうして相手を害する事は同じ理由を第三世代に与える事に他ならない。

 だから第三世代も第四世代を殺すしかない……そう考える。


 殺し、殺され。

 それがループし続ける。

 互いに終わる事なく終わるはずなく繰り返していく。


 この構図はまるで。いや、まさしく――


「戦争、じゃないか……」


 自分で形にしたその言葉に、背筋が凍った。


 二つの立場が、お互いの主張を押し通すために最終的に力をふりかざし衝突する。

 それは、戦争に他ならない。


 しかも、これはその中でも最悪の形だ。


 互いに歩み寄ろうという意志が見えない。

 互いの立場を理解しようとする気すらない。

 ……いや、理解をしてもなお、戦いを続けるんじゃないだろうか。


 まるで底無しの沼にはまってしまった人間が、生き残る為の術がなくてもあがく様に。


 そして、僕は――――今の所、二つの立場の真ん中に立たされてフラフラしている、ただの、そしてたった一人の人間だ。


 そんな僕に。


 一体何ができるのだろうか?

 一体何をすべきなのだろうか?


 そんな答が出ない疑問を考え込んでいるうちに、僕の意識はゆっくりと眠りに誘われていった――――。

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