13 化け物と信じたい気持ちと一時共闘
「やらなくちゃ……やらなくちゃいけないことがあるんだよっ!」
恐怖を越える決意を固めて僕・
彼女と言葉を、意志を、気持ちを交わす、その為に。
まず一匹目……!
僕は加速して、自分の目の前に着地したバケモノの横をすり抜けた。
その際、バケモノも必死に手を伸ばしていたが、その軌道は鋭敏になった感覚の予測通りだったので、難なく避けた。
続いて二匹目……!
そいつは着地したかと思うと、左右に手を広げた。
その幅は予測よりも広く、脇から通り抜ける手は使えない……!
――なら道は一つだけだ。
僕は渇いた地面を蹴って、大きく跳躍した。
今の高まった身体能力なら相手を飛び越える位は出来る――少なくとも屋上から飛び降りるよりは簡単だ。
バケモノは両手を空中に伸ばすが、いかんせん判断が遅かった。
その両手が交差する間を抜けて、僕はバケモノの頭を踏み台に、もう一つ、跳躍した。
最後の三匹目……?!
三匹目をどう躱そうかと状況確認した僕は、思わず息を飲んだ。
僕のこれまでの行動を読んでいたかのように、僕の着地地点に最後のバケモノが待ち構えていたから。
しかも、空中では方向転換のしようが無い……!
こうなったら……!
破れかぶれで持っていた傘で殴り付けようと、握り締めたその時だった。
その三匹目のバケモノを、不可視の衝撃波のようなものが弾き飛ばした。
その攻撃には見覚えがあった。
昨日、僕に放った"あの"攻撃と同一のものだ。
どうにか無事に着地した僕は『目的地』である、攻撃を繰り出した存在に告げた。
「
「……」
御礼の言葉に対して、彼女は無言だった。
表情も変わらない。
でも、その表情は昨日のように虚ろではなく、視線も僕をここに存在しているものとして認識してくれているようで、こんな状況だと言うのに僕は嬉しかった。
「……どういうことなのか、説明してる暇は、ないよね」
「ええ。……………どうして、来たの?」
体勢を立て直しつつある、三匹のバケモノを油断なく見据えながら彼女は問うてきた。
"どうして"。
そう真っ直ぐに問われると正直答え難かった。
僕の理由は、自己満足やら、偽善的な判断やらそういうものが混ざり合っていたから。
でも、強いて言うのなら。
「多分……放って置けなかったから。それが一番の理由だよ」
そう。
こんな事件を放って置けなかった。
情けない自分を放って置けなかった。
そして、いま自分の横に立つ、この女の子を――放っては、置けなかった。
「……馬鹿。
私は、あなたを殺そうとしたし、いずれ殺すわ。
それでもいいの?」
なんでもない事のように彼女はとんでもなく恐ろしい事を言ってのけた。
でも。
「今は、どうでもいいよ。
君と一緒にここを切り抜けてから考える」
切那さんはさっき、知らぬ間に危機的状況にあった女の子を助けた。
わざわざ駆け抜けていく方向を反転して……体勢を崩す危険を冒してまで助けたんだ。
それを見た以上、僕はもう切那さんを信じるしかなかった。
僕を殺そうとした事も、何か事情がある。
そう確信してしまった。
客観的じゃなかろうとも知った事じゃない、そう思えるほど強く。
だから、今はそれでいい。
「……あなたは、おおばかもの、なのね」
僕は必死にバケモノの動作を見逃すまいと注視していたのでその表情は分からない。
ただなんとなく、いつもの――感情の色が薄いままの顔で呆れているのだろう、きっと。そう思えた。
それを思い浮かべて、僕の顔は自然に苦笑気味になっていた。
こんな時だと、言うのに。
「たぶんね。さあ、それはともかく、僕は何をしたらいい?
僕は、第四世代らしいから少しは手伝えると思うよ」
僕がその言葉を言ったか言わないか……その瞬間に、一匹のバケモノが大きく跳躍して、僕らの背後を取るような位置に着地した。
慌てて後ろを向いて傘を構える。
武器としては間抜けこの上ないが、他に持ち合わせはないので諦めるしかない。
そんな僕に、切那さんは僕とは反対の方向を見据えたままで言った。
「私が目の前の二体を倒すから、あなたは逃げ回って時間を稼いで。
二体を倒したら、すぐにそっちも倒すから。
戦おうと思わないで。あなたは素人に過ぎない」
「うん、わかった」
悔しいが、彼女の言う通りだろう。
頷いて、僕はバケモノを睨みつけた。
「あと、あれは人間が変身してたりは、しないよね?」
それは気がかりな事だった。
あれがどういう存在で何故彼女と戦っているかは分からないが、人殺しだけは嫌だったから。
だから、考えられるあらゆる可能性を考えておきたかった。
「大丈夫。少なくとも今相手しているこれは違うから。
擬似鏡界を仕込まれた、操り人形みたいなものよ」
「わかった」
操り人形のようなもの――だとすればありがたい。少なくとも遠慮はいらないのだから。
今は、切那さんの言葉を信じよう。
「じゃあ、気をつけて」
「うん」
視線の代わりに言葉を交わしを、僕らは同時に地面を蹴った――――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます