雨辿結虹―いつか晴れた日に―

🈡 出会いと別れと続く空

　曇天で星が見えない夜空の下を僕らは歩いていた。

　切那（せつな）さんはリュックサックを背負っていて、その口から子犬が顔だけ出していたりする。

　あの後、一心地ついた僕は携帯番号を知る道杖（どうじょう）くん経由で道杖くんと羽代（はねしろ）さんに無事切那さんと再会できた事を伝えた。

　――学園が終わった後も連絡を一緒に待ってくれていたのが、すごく嬉しかった。

　労いと安堵の言葉をかけてくれた二人は、その後電話を替わった切那さんと改めて別れの言葉を交わしていた。

　その時の、切那さんの穏やかで優しげな表情は――見ていて心あたたかになった。

　それを終えて、兄さんにも別れを告げれば――後はもう、行くべき場所に行くしかなかった。

　そうして僕らは家を出て――今ここにいた。

「……それじゃ、夕方頃に家に来てたんだ」

「うん」

　話を聞いてみれば、なんということはなかった。

　切那さんはいろいろな手続きや準備をしていて、それが終わり次第、僕の家に寄るつもりだったとの事だった。

「また明日。そう、約束したから」

　今日、僕を支え続けた言葉。

　それを切那さん自身の口から聞く事で、僕は改めて強く確信出来た。

　切那さんの想いを。

　そして自分の想いを。　

　それをちゃんと信じられるようになる為に、今日の事はきっと無意味じゃなかった――そう思えた。

　まあ、それはそれとして。

「それにしたって……どうして、今の今まで何も言ってくれなかったの？

　あ、いや、責めるつもりは全然なくて、ただの疑問なんだけど」

　もう、今日の事をどうこう言うつもりは全然ない。

　言葉どおりの疑問として問うと、切那さんは俯き加減に呟いた。

「それは……今まで、こんな風にしかやってこなかったから。

　別れを言う必要のある人、いなかったから。

　だから……わからなかったの。どうするのが一番よかったのか。

　話した方が良いとは思って、何度か話そうとしたけど――どうしてなのか、うまく、切り出せなかったの。

　……ごめんなさい」

「……そっか。

　うん、そう言う事なら――気にしないで」

「いいの？」

「うん。むしろ僕が察しが悪くて申し訳ないというかだし」

　ほんの微かな不満が霧散していく。

　そうして謝られると僕からは何も言い様がない。

　そんな切那さんが今日僕の家に来てくれたのは、他ならぬ告げた事の無い別れを告げる為だったのだから。

　でも。

　それでも、あと一つ聞いておかなくてはならない事があった。

「……切那さん」

「なに？」

「どうしても、行かないといけないの？」

　それだけは聞いておきたかった――どうしても自分達は別れなければいけないのか、を。

　躊躇いを殺して尋ねると、切那さんは目に見えないものを追うような、遠い眼差しで告げた。

　それはいつも見ていたあの表情とは似て非なる――強い意志が込められたものだった。

「……うん。行かなくちゃ、いけないの」

　その眼差しには、力があった。

　強い、何かの確信があった。

「……っ」

　そんな切那さんを目の当たりにして息を飲む。

　あまりにも突然すぎる……とは、正直思わなかった。

　本当の事を言えば、それが今日でなければ、多分僕は驚かなかっただろう。

　切那さんは『そういう』暮らしをしていると、昨日この耳で確かに聞いていたのだから。

　今がそうじゃないなんて勝手に思い込んでいたのが僕だった、それだけの事だ。

　それでも――納得なんか出来ない。したくもない。

　我侭でもなんでも、切那さんを引き止めたかった。

　でも、僕は。僕らは。僕ら子供は。

　何かの、誰かの都合に馬鹿みたいに振り回されるしかない。

　まだ一人では生きていけない、か細い存在だから。

　それが、大人になりきれていない僕らの現実だった。

「悔しいなぁ――っ」

　拳を握り締める。

　切那さんに何処かに行って欲しくない。

　ずっと、ここで、この街で一緒にいろいろな事をやっていきたい。

　馬鹿らしい事、楽しい事、笑える事、幸せになれる事、数え切れないほどの、本当にたくさんの事を。

　でも、それは叶わない。

　僕らではそれを覆せない。

　子供の頃から、なんで我が家は家族が揃う事が少ないのだろうと思っていた。

　父さんや母さんに会う度に、いつも一緒にいられないんだと泣いていた記憶がぼんやりとある。

　だけど、それは家族が生きていく為にきっと必要だったから。

　父さんや母さんは、家族が揃うよりも家族が安心して生きていける、不自由が少ない充実した暮らしを選んだ。

　その選択の権利は僕や兄さんにはなかった。

　正しく判断する程の経験も知識もなかった。

　父さん達を否定して皆で過不足なく暮らしていける手段を提示できるはずもなかった。

　子供には覆せない、大きなもの。

　それが今も僕の目の前に横たわっている。

　どうしようもない、切那さんとの時間を阻む大きな何かが、僕はただ憎かった。

「ふーくん……」

　悲しげな切那さんの声が静かに染み渡っていく。

　それは、ほんの少しだけだけど、僕の怒りを和らげてくれた。

　ふと、思う。

　もしも僕が大人だったら、と。

　大人だったら、切那さんを連れて何処かに逃げていけるのだろうか。

　二人で生きていけるだろうか。

　――いや、多分違う。

　それは……逃げるのは、きっと、まだ子供の発想だ。

　大人というのは、そんな事にもある程度の折り合いをつけながら、自分の世界に根を張って上手くやっていく生き物なんだと思う。

　僕の両親が、そうであるように。

　僕らも、そうならなくてはいけないのだろうか。

　いつかそうなっていくというのだろうか。

　想像も、つかなかった。

　避けようもない別れが来る今この時においてでさえ、納得なんかできそうもなかったから。

「……ここ」

　随分歩いた後、切那さんの言葉に僕は足を止めた。

「ここで待つの？」

「うん」

　この街唯一の駅。

　道路を挟んだその向こう側に僕らは立っていた。

　ここは長距離バスの停留所。

　もう少ししたら、バスがやってくるらしい。

「……」

「……」

　会話がないのが気まずいわけじゃない。

　何かを話したくて仕方がなかった。

　でも、何も思い浮かばなかった。

　……と、そんな時だった。

「あ――」

　思わず声が零れる。

　パラパラと辺りに音を立てながら、雨が降り始めた。　

　持ってきていた傘を差すまでもない小雨だけど――

「最後くらいずっと晴れてくれればいいのにな……切那さん、雨嫌いなんだから……」

　なんとなく、そんな言葉が僕の口から滑り落ちる。

　すると、切那さんが呟いた。

「そうね。私…………確かに、雨が嫌いだった」

「切那さん……？」

　あの出会いの時と同じ様に。

　雨を見据えた雪那さんが淡々と言葉を紡いでいく。

「それは、小さい頃、雨の日に誰かと別れた、そんな記憶があるからだと思う」

「……そう、なんだ」

「うん。だからなのか、いつからか、私は傘を差さなくなった」

「"傘は、雨から逃げているような気がするから"？」

「……覚えてたんだ」

「まあ、その……気になる言葉だったからね。

　他ならぬ切那さんの、事だし」

「……そう、なの」

　はにかんで微かに顔を染める切那さん。

　そんな顔を見る事ができる間柄になるとは、初めて出会った時は想像もしなかった。

　……今は、それがただ嬉しくて、だからこそ別れが悲しかった。

　切那さんは離れてしまった話を手繰り寄せるように小さく頷いてから、再び語りだした。

「だから、私は傘も雨も嫌いだった。

　でも。

　昨日、この子と私でふーくんの傘の中に入った時、思った。

　私は、ずっとずっと雨が嫌いになった昔を見てきただけで、今を見てなかったんだなって」

「……」

「そんな少しのこだわりを捨てたら、あんなに楽しい気持ちになれるんだって、私はじめて知った。

　私にとって遠い世界だと思っていたものが、探せばすぐ側にあるものなんだって、やっと気付いたの」

　切那さんはそう呟くと、雨を受け入れるように両手を広げた。

　それは、まるで雨と戯れる子供のようだった。

「……そっか」

　そこで僕はふと思いついた。

　ほんのちょっとの、ささやかな、思いつき。

「切那さん」

「なに？」

「これ、あげるよ。

　僕から君への、プレゼント」

　そう言って。僕は握っていた傘を切那さんに差し出す。

　切那さんはそれを不思議そうに眺めてから呟いた。

「どうして？」

「……僕もさ。昔、雨が嫌いだったんだ。

　と言っても、切那さんみたいに理由があるわけじゃなくて、なんとなくだったんだけど」

「……」

「そんな事を思うようになってたある日にね。

　雨の日に憂欝そうな顔をしてたからかな。

　出張から帰ってきた父さんが土産にこの傘を買ってきてくれたんだ。

　滅多に会えない父さんが買ってくれたものだからさ、子供心にすごく嬉しくて。

　その日から、雨が待ち遠しくなった。

　んで、そんなに雨が嫌じゃなくなってた。

　まあ、今では随分その効果も薄れちゃったけどね。

　だからさ、今度は切那さんにこの傘を差して欲しい。

　差して、僕の代わりに雨の日を楽しんでくれないかな？」

「大事な――お父様との思い出の品じゃないの？」

「いいんだ。父さんは話したら納得してくれると思うし。

　なんというか――君だから、持っていてほしいんだ。

　雨の日に出会った、僕達の思い出として」

　切那さんはしばしその傘を見詰めた。

　やがて、傘に恐る恐る手を伸ばしていく……。

　そこで、クラクションを鳴らしながらバスがやってきた。

「……っ」

　クラクションの音に微かに身を震わせ、切那さんは伸ばしかけた手を引いた。

　ゆっくりとカーブを曲がってきたバスは、そんな切那さんの真後ろにぴたりと停車した。

　パシュ――と音を立ててドアが開く。

　―――残念だけど、タイムアップだ。

「……ごめん。

　僕がうろちょろしてなきゃ、もう少し話が出来たのに」

「謝らないで。

　ふーくんが、私を探すために今日ずっと走り回ってくれてた事――

　ふーくんの話と、ふーくんの家で会った時に息遣いや汗のにおいですごく伝わってきたから。

　……込められた気持ちが、本当に嬉しいから。

　だから、話さなくてもきっと私達にはそれで十分だと思う」

「……！！！」

　切那さんはそう言って――――微笑んだ。

　微かで、とても小さいけど、僕がはじめて見た切那さんの確かな笑顔。

　それは――どうしようもなく、綺麗だった。

　ずっと、叶うならずっとずっと見ていたいと思うほどに。

　でも、それは叶わない。

　……多分、だからこそより綺麗に見えるんだ。思えるんだ。

　そしてだからこそ、記憶（思い出）に残るんだ。

「――それじゃ」

　呟いて、背を向ける切那さん。

　そうして、切那さんはバスのステップ最初の一段に足をかけた……と思いきや、振り返ってこちらへと手を伸ばした。

　その意図がわからず、僕はただ切那さんを見つめた。

　そんな視線を受け止めて、切那さんは言った。

「……ふーくん、よかったら――あなたの傘を」

「え？」

「私、傘を差す。ふーくんと歩いた事を忘れたくないから」

「……うん……！」

　力と心の限り頷いて、僕は黒い傘を切那さんに差し出した。

　切那さんは、フワリ、とそれを受け取ると僕に――僕の気持ちに応えるべく頷き返してくれた。

　もう、十分だった。

　切那さんから、僕は今受け取るべき全てを受け取る事が出来た。

　だから、悔しいのに、悔いはない。

　……ややあってバスが走り出す。

　それに合わせて足が動く。

　速くなっていくバスに追いつこうと、ただ、動かす。

　そんな中窓に寄り添って、切那さんが顔を見せてくれた。

『……連絡、するから』

「返事、書くよ！　絶対に！！」

　互いの声は、ハッキリとは届いていない。

『あなたにもらったものは、みんなみんな、大事に、するから』

　でも、分かる。

「ああ！　わかってるよ！　子犬と仲良くね！！」

　なんとなくだけど、確信してる。

『……うんっ……』

　確かに、言葉は届いていると。

「身体に気をつけて――！　夏バテにもね、それから――！！」

　何故だろう。

　何でさっきまでは思いつかなかった言葉が。

　今こんなにも溢れ出すんだろう。

　動かす足は限界の速さで。

　それでもバスに追いつく事なんか出来なくて。

　――――――――――――――――――――――――もう、届きもしないのに。

「……切那さんっ！　またね――！！」

　バスが消えていった道の彼方。

　ライトの灯さえ、他の車のライトに紛れて消えて、もう見えることはない。

　それでも、僕はその向こう側を見つめていた。

　未練かもしれない。

　余韻に浸りたいだけかもしれない。

　そして――ただ、焼き付けておくために。

「……………………………………忘れない」

　その姿も。

　その声も。

　その微笑みも。

　確かに焼き付けよう。

　すべては、いつか――――迷いなく出会うために。

「僕は、君を、絶対に忘れない…………」

　だから僕は。

　馬鹿みたいに流れ続けている涙を拭わない。

　ただ、決意を言葉という形にして、今この時に刻み込んだ――。

「……暑いなぁ……」

　汗を拭う。

　学園から家まで帰るのがこんなにも辛い。

　こんな天気が続くと、梅雨は梅雨でよかった事もあったんだな、と改めて思ったりしてしまう。

「本日も快晴なり、か」

　……あれから、切那さんとの別れから、一ヶ月経った。

　切那さんがいなくなっても日々はそう変わらない。

　そんなに大袈裟に変わったりしない。

　ただ、時間だけは確実に流れて、遷り変わっていく。

　梅雨が明け、夏がやってくる。

　それだけは、いつもどおりだった。

　正味の話、雨が降らないのは今となっては少し寂しい。

　雨が降った日の新たな楽しみが出来たからだ。

「傘、使ってくれてるかな」

　言って、自分で笑った。

　結局、雨が降ろうと降るまいと同じ事を考えている自分が、ただ可笑しかった。

「晴れてても……日傘の代わりにはなるかな？」

　そんな事を呟いて、僕は家路を急いだ。

　とりあえず、今を、今生きる事を頑張っていこう。

　いつかまた出会うとき、不甲斐ない自分は嫌だから。

　少しでも賢くなって、少しでも強くなって、少しでも大人になって。

　そうして、いつか。

　一緒にいられる場所を見つけて、そこに向かって歩いていこう。

　晴れの日も、雨の日も、揺らぐ事がない空の向こう側。

　同じ様に歩いて、きっとそこで待ってくれている、一人の女の子に再び出会うために。

　うだるような夏の日々。

　背の高い男が、玄関先に散らばっていた手紙を拾い上げた。

　その殆どは広告だ。

　だがそれにまぎれて、一枚の封筒があった。

「……ふむ」

　封筒を裏返し差出人を見て、男は頷いた。

　そして、男はその手紙をある部屋の机の上に置いた。

　気付いた時、どんな顔をするのだろうか我が弟は――――そんな事を思いながら。

　机の上。

　そこには、一枚の封筒。

　そして、その中には。

　快晴の空の下、黒い傘を差す少女と、その足元を走っている子犬の姿が映った写真が入っていて。

　それを手紙の受取人が見て、満面の笑みを浮かべるのだが。

　それは、あと十数分後先のことである。

　雨が降り続けている。

　そんな雨音が響いてくる図書室の中央に一人の少女が座っていた。

　彼女は読んでいた本を丁寧に閉じ、その本を積み上げた本の群れの一つに置いて、顔を上げた。

「こんにちは、エトだよ。

　切那の表側の話、どうだった？

　――――多分、何の変哲もない、青春の１ページに見えたんじゃないかな。

　その感想は至極正しいのよね。

　運良く、というか切那自身が気をつけていた事もあって、憂から見る切那は『不思議で魅力的な少女』で収まっていたから。

　憂自身の基本的には他者に踏み込まない性格も相まって、二人は良き青春の一時を過ごす事が出来た。

　刺激ある物語を求める人にとってはきっと、退屈だっただろうけど――――幸せな日々だったのよ。

　それで終わる事が出来たなら――本当に良かったと思う。

　でもね、人が他人と一緒に生きていく中で、都合の良い、見栄えの良い一面だけを享受する事はすごく難しいわ。

　ああ、勘違いしないでほしいんだけど、それはそれで悪い事じゃないんだ。

　どちらかあるいはどちらも見せない努力をしてるって事だからね。

　誰に迷惑をかけるでもなく、お互いに幸せなら、それもまた幸せの形だと私は思うよ、うん。

　ともかく、運が良ければそれを貫き通せるかもしれないけれど――基本的にそうはならないのが人生なんだろうね。悲しいけれど。

　まして憂は――切那に踏み込んだ。

　彼女と共にある為に、彼女をよく知りたいと、勇気をもって彼女の側へと足を踏み出してしまった。

　ここまでなら、それでもよかったんだけどね。

　でも、そうした踏み込みを彼女との関係と共に続けていけば、その先にあるのは―――――――――」　

　それは、夏の終わり。

　僕は、家の仕事の都合で近くに来る事が出来たという切那さんと会う約束をしていた。

　久しぶりに子犬とも一緒に遊んで、楽しい時間を過ごすつもりだった。

　だというのに――――何故、こんな事になってしまったのだろうか。

「ふーくん――貴方は、見えているの？」

　駅近くの、中心街の裏路地。

　そこは、赤く赤く染まっていた。

　赤さの理由は、行き止まりの前に散らばっている――人だったものの残骸。

　そこから噴き出たであろう血が、路地裏を赤く染めていた。

　いや、それだけではなかった。

　その前で立ち尽くす切那さんの足元には――――！

「なんで、なんでこんな――！　どうして――ソイツを……？！　なんでなんでナンデ――！！」

　膨れ上がっていく何かの感情が心を駆け巡ッテ、フクレアガッテ、ボクは思わズ駆け出してイテ――

「ごめんなさい。

　全ては、私のミス。私が見逃してしまったせいで、私のせいで、この子も、貴方も――」

　振り返った切那さんは――全身が血塗れだった。

　そんな切那さんの顔を、頬を伝う血は……涙のように、ボくには見えた。

「こんな事なら―――――」

　そう呟いた瞬間、切那さんの姿が消えテ――――――僕の視界は回転しタ。

　あれ、どうしてだろう？

　なんで、僕は、僕の身体を、倒れていく背中を見る事が出来てるんだろう？

　まるで、僕の頭が身体から――

「貴方と、出会わなければよかった」

　でも、よかった。

　最後に切那さんに抱きしめられて。

　でも、よくない。

　切那さんの顔は、どう見たって悲しんでいて――そのままにするわけにはいかないのに……僕は何も出来ない。　

　動かせるのは、パクパクと金魚のような挙動を繰り返すばかりの間抜けな口だけ。

　全てが黒く染まっていく中、僕はただ、切那さんの頬を伝うものを拭えなかった事が無念でたまらなかった――――――。

　END & Start recalculation