バッドエンド1 見ない事が招くのは

『………ぁ……』


 音が、響いた。


「……? なんだ……?」


 水が叩きつけられるような音と何か、いや、誰かの声……?

 よく分からなかったが、そんな印象を受ける”それ”が響いた。


 遠くから聞こえているのに、すごく近いような、おかしな音の伝わり方が耳に――いや、僕・伏世ふくせゆうの中に直接届いたような、そんな気がした。


 その奇妙な音はすごく気になった。

 様子を見に行くべきかもしれない、そう思いもした。

 だけど――気軽に触れていいものかどうかも不安だった。


「――やめておこうか」


 だから僕は、あえて声に出して呟く事でその不思議な音への興味を断ち切る事にした。 

 このところ、近くで殺人事件が起こってもいるのだから必要以上に警戒してもおかしくはないだろうし、間違ってない筈だ。


 そうして僕は音を感じた方向とは逆の方へと足を向けて、そのまま帰路についた。

 どこかすっきりしない――後ろめたいというか、自分らしくないというか、消化不良を感じながら。




 それから、僕は普通に生活していった。

 それなりに楽しい事がある日常を享受していた。

 そして、それがずっと続くと思っていた。


 ――そうではなかったのに。




 それは、梅雨が終わりつつあった、ある夜の事。


「――う、ぅぅ」


 その日は妙に寝苦しくて、僕は自室のベッドの上で、半分眠りながら起きているような不思議な感覚の中にあった。


 起きるべきか眠り続けるべきかを誰かに問い掛け続けられているような、そんな焦燥感もあったけれど――僕は構わず眠る形を取り続けた。

 

 眠れない理由を探す事も、起きて気を紛らわせる事も、今更のような気がしていた。

 行動する事がどこか億劫になっていた。


 そうして布団を頭からかぶって微睡んでいると――――突然に、激痛が走った。


「あ、がぁぁっ―――!?」


 痛い痛い痛い痛い―――何かが、僕を殴り続けている。

 いつしか僕を包んでいた布団ごと、僕はボロボロになっていて。血塗れになっていて―――穴だらけになっていて。


 いつしか、僕を殴るモノはいなくなっていたけれど、もう全ては手遅れで。


「―――――え?」


 混乱と痛みと止むを得ずで、目を開くと―――暗闇の中、何故か、そこには……境乃さかいの切那きりなさんがいた。


 何故彼女が僕の部屋にいるのか、何故こんなにも視界は暗いのか、何故手足が動かないのか、何故何故何故何故―――。


 疑問の嵐の中、声も出せずに口をパクパクさせる中で、彼女は無表情にこちらを見下ろして、呟いた。


「ごめんなさい。私には、もう、これしかできることがないから」


 次の瞬間、僕は―――――――。




 ――――――バッド・デッド・エンド

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