第23話 俺のせい
全力で気配察知を発動させ、本体の位置を探る。
「見つけたっ…」
そして本体の位置がわかった。だが…本体は地下らしき場所にいるようだ。今は時間が惜しい。最短ルートで行くため本体の真上まで全速力で向かい、真上から少し離れた位置で腕を構える。
「威力は抑えめ…あそこまでぶち抜くだけだ…落ち着け…落ち着け俺…」
呼吸を整え、床から地下の方向へ建物が崩れるレベルの重力をかける。メキメキと音がして床が崩れるが、俺の周り以外は崩れていない。よし、調整はうまく出来た。恐らく俺がここを降りればすぐに戦闘になるだろう。本体が動ける状態なら。
意を決して俺は飛び降りる。床の数からして大体地下3階くらいに着地。そして目の前に本体はいた。だが…予想外のおまけがついていた。
本体はベッドに横になっていて、なんだかメカメカした装備を身にまとっている。それ以外なにもないから、恐らくあのごっつい装備にクローンを生み出す何かがあるのだろう。それだけなら良かった。だがそいつの横にはどう見てもお前はバイオのキャラだろう、と言いたくなるような異形の化け物がいた。
人型ではあるものの、大きさは3m程。筋骨隆々どころじゃない筋肉と手には鉄球。よく見ると壁には沢山の武器があった。俺が無音で降りてきたから少しの間は観察できたが…何だこいつは。ほんとにバイオかよ。
「ッ?」
咄嗟に真横に飛び攻撃を躱す。まずいぞ…攻撃速度が尋常じゃない。攻撃範囲を試すため俺は部屋の端まで下がる。だが異形は一歩も動かず鉄球を飛ばしてくる。ブォン、と音がして直前まで俺がいた位置の床が抉れる。これは簡単に終わりそうもない…
とにかく攻撃してみないと話にならない。試しに氷弾を異形の手に向かって数十放つが、全て躱され、そのままの勢いでこちらに突っ込んでくる。
「チッ…面倒な奴だな。」
鉄球を避け、異形のみぞおちに全力で拳を叩きつける。だが、驚くほどに軽かった異形はそのまま俺が飛び降りた高さまで吹き飛び、天井に激突。砂煙が舞い視界が狭まる。
そして砂煙が晴れた時。異形の姿はなかった。
「まさか…」
最悪の予感を感じた俺は仲間の元に戻るため、クローンの本体らしき奴を重力で押し潰し、装備も叩き壊す。本体が動く暇も与えず。
「間に合ってくれ…」
今は本体だとかクローンなんてどうでも良かった。ただ、皆が無事かどうか。腕時計につけた機能の存在すら忘れ、ひとっ飛びで飛び降りた高さまで戻り、ひたすらに走った。だが、現実は俺を逃してくれなかった。先程までクローンと戦闘をしていた位置には、人が数人死んでいてもおかしくない量の血が流れ、腕や足が何本か落ちていた。俺の能力を使って人数を確認しても、一人二人は確実に…
自分の中の何かが壊れそうになる音を聞きながら俺は生き残った仲間の元へ向かう。
「走れ。玄関まで、全力で。」
既に全員満身創痍。それでも俺は全員を走らせた。能力で移動速度をあげ、周囲の攻撃は全て的確な位置に障壁を展開し防ぐ。先程の苦戦が嘘かのように簡単に玄関へと到着し、俺達は外に出る。外には警察や自衛隊が待機していた。
「君たち!止まりな…」
だが血まみれの俺達を見て言葉が止まる。その間に研究所を障壁で覆い逃げられなくした後、助けられなかった二人の遺骸に自分の全神経をそそぎこむ。
「君、何を…」
「黙れ。」
るばあ…俺のせいで腕しか残らなかった…あの鉄球をもろに喰らったんだろう…
りめあ…上半身と下半身が泣き別れに…俺のせいだ…
罪悪感で押しつぶされそうになりながら俺は二人を”あるべき姿”に戻すため力を注ぎ続ける。段々再生して人の姿に戻っていくのは正直気持ち悪い光景だ。だが仲間たちは目をそらすことなくそれを見つめ続けた。そして…
「呼吸が…戻った…」
俺の言葉に皆が泣き叫んだ。目の前で仲間が死んだ。でも生き返らせることが出来た。俺が殺したようなものだから…俺は言葉が出なかった。だから見ていた大人たちに言伝を残し、仲間全員を気絶させ研究所内に戻る。
「片付けてきます。聞くのはそれからにしてください。仲間は一旦全員寝てもらうことにしたので。ここで安静にさせてください。」
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