第6話 冒険の仲間は基本的に自然と集まるはず

 急遽予定を変更して、金よりも先に仲間を集めることにした俺たち(二人)。


「肝心の条件についてなんだが」

「……はい」


 レイスが少し顔を強ばらせて、喉を鳴らす。


「今冒険者の中で余り気味な役割ってなんだ?」

「余り気味な役割……ですか。そうですね、一時期冒険者の間で『攻撃こそ最大の防御。アタッカーこそ正義』というものがかなり流行りまして」

「う、うん」


 聞いたことあるようなフレーズだな。


「前衛アタッカーが過剰に増えて、かなりの方が失業なさるという出来事がありました。その影響からか、未だに前衛アタッカーは余り気味な役職ではあります」


 前衛アタッカーというのは一番危険な役ではあるが、魔法の詠唱や魔力の調節などを覚えなくてもいい分、魔法使いに比べてなりやすい、というのも関係しているのだろう。


「ちなみにだが、役っていうのはどれくらいあるんだ?」

「どれくらい……とは?」

「どんな種類の役職があるのかなって」

「なるほど。役職といった呼び方は細井さんに合わせたものですが、基本的には職業と呼ばれますね」

「それってウエイトレスとか商人とかの職業とはごちゃ混ぜになってりしないのか?」

「まぁ、冒険者同士で話す場合の『職業』は完全にこちらの意味になりますし、他の人に訊かれたりしたら、冒険者という大きな括りで答えればいいだけの話なので」

「ふむふむ」


 俺も同じ読みの言葉は文脈で判断するので、「職業」という言葉もそういう感覚で使い分けされてるんだろうな。


「そして、職業の種類についてなんですが、まず大きく分けて二つあります」

「前衛と後衛?」

「その通りです。味方の前に立って戦う人を『前衛』。その後ろでサポートをする人のことを『後衛』と言います。そして、前衛と後衛の中にも細かい役割、職業というものが存在します」


 長くしゃべったレイスはここで一度呼吸を整える。


「先に前衛についてお話ししましょう。一つ目は、前衛として槍を持って戦う職業を『ランサー』。斧で戦う場合は『アシュマン』。小型の剣で戦う場合は『フェンサー』。大剣で戦う人を『エスパドン』と呼びます。そして、これらの職業を合わせて、『前衛アタッカー』と言います」

「な、なるほど」


 まだ「前衛アタッカー」という一つの役割だけでも、すでに四つの職業が出てきた。

 どこかで聞いたことがあるような名前もあるが、学校をサボって家でゲームをしていた引きこもりには中々辛いものがある。


「大丈夫ですか? 分からないところがあれば遠慮なく訊いてくださいね?」

 

 心配そうな顔でこちらを覗き込んでくるレイスに少しドキッとさせられる。

 が、「これが弱みに付け込まれて惚れさせられる人の気持ちだ」と自分に言い聞かせて、何とか高く跳ねていた心臓を押さえつけた。

 そして、極めて冷静に、何事もなかったかのように返答するように心がける。


「わかったよ。分からないところがあったら、そうさせてもらう」

「私たちは仲間なんですから……。気を取り直して! お次は『前衛タンク』についてお話ししましょう。硬い鎧を着て前線に立つ『パラディン』。大きな盾を持って仲間を守る『ウォーリアー』。そもそもの能力が高い人しかなれない、前衛の最高級職である『バーサーカー』。この三つですかね。有名どころのパーティーには入っていることも多いのですが、危険な職業ではあるので、タンクがいないパーティーがほとんどですね」

「まぁ、わかる。俺だったらタンクなんていう自分から危険に突っ込んでいくような職業にはなりたくないし」

「同感です。少し長い説明になりましたが、要は『前衛タンク』の獲得は諦めましょう、ということです」


 他のパーティーも入れていないのならば、俺たちが無理して入れることはないだろう。

 もっとも、仲間が敵に攻撃されてるのをあまり見たくない俺からすれば、ありがたい話なのだが。


「最後に『後衛支援』ですね。こちらは意外とざっくり分かれているので、それぞれを軽く説明していきます」

「よろしくお願いします」

「はい。まずは、細井さんもご存じの『魔法使い』です。主に魔法での攻撃を主な役割としています。そして、『ヒーラー』。仲間の傷を癒すのが主な役割です。パーティーによってはいなかったり、魔法使いが兼任しているところもあります」

「…………ちなみに、レイスは?」

「私は治癒系の魔法を扱えないので無理ですね。もし使えてたら、少しは何かが変わっていたのかもしれませんが」


 そう言って自嘲気味に少し笑ったレイスに俺は声をかけることが出来なかった。

 俺の罪悪感がそうするのを邪魔してきたから。

 しかし、レイスのそんな少し暗いオーラは気づいたら、消え去っていた。


「今はそんな話をしている場合じゃありませんでしたね! それでは、最後の職業で、『バッファー・デバッファー』と言われるものです。役割は名前の通り、味方を強化、敵を弱体化させるといったものですね。とはいえ、ほとんどが魔法によるものなので、これも魔法使いが兼任することがほとんどです」

「なるほどなるほど。これで全部の職業?」

「そうですね。大体の職業は言ったはずです」


 まぁ、前衛の細かい職業の名前などはもう忘れてしまったのだが、なんとなくパーティー編成のイメージはついた。


「うん。魔法使いの枠はレイスでいいから、前衛アタッカーとヒーラーとバッファーを一人ずつ集められればいいな」

「では、細井さんは前衛タンクをするのですか? あの職業はある程度戦闘経験がなければ一瞬で残骸と化しますよ…………」

「最後なんか不穏なこと言ってたけど、俺はタンクなんて危険なことはしないから安心してくれ」

「それでは、一体何を?」


 俺が何を言っているのかまるで解ってないようで、レイスは首を傾げながら、疑うような目でこちらを見てくる。

 もちろんやましいことなどない俺は胸を張って自分の名案を彼女に告げる。


「俺はこのパーティーの指揮官をする!」

「は?」

「だって考えてもみろよ! こんな俺が敵と戦えると思うか? 剣は振るえない。魔法はきっと覚えられない。じゃあ、他にできるのは指揮官ぐらいしかないと思うんだよ」


 俺の熱弁に対して重力よりも重々し気なため息を一つつくレイス。


「先ほど細井さんが言った編成では、前衛一人に対して後衛が四人となってしまいます。これは非常にバランスが悪いパーティー編成です。五人パーティーならば、前二人、後ろ三人。もしくは、その逆が最もバランスが良く常識的な編成だと言われています」

「…………だから?」


 何かを言いたそうなレイスの表情に乗っかてみることにする。

 すると、会ってから一番の笑顔でレイスはそれを告げた。


「細井さんが抜けてあと四人連れてくることができればっ!」

「何を言ってんだお前!?」

「ですが、これは致し方無いことなんです!」

「あ、あの…………」

「知ってるよな!? お前に見捨てられたら俺はそのまま死ぬしかないんだって!」


 これは非常に良くない流れだ。

 俺は立ち上がり、レイスに訴えかけるが、このままでは俺は異世界まで来てニートのホームレスとかいう夢も希望もない就職先に行きついてしまう。


「ですから細井さんは前衛になるしかないんです!」


 レイスも俺に対抗するように勢いよく立ち上がると、やはり変わらない計画を押し付けてくる。


「な、なっ」

「あ、あの!」


 熱くなりきっていた俺の耳に突如として入り込んできた大声に、思わず体がビクッと震える。

 どこから聞こえてきたのだろうかと、後ろを振り返ってみれば、俺よりも少し身長が低いくらいの巫女さんが立っていた。


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