第2話 森の中の魔法少女
消えた俺の部屋の代わりに現れたのは、さっきまでパソコンに映っていたような森。
「どこだ!? 何が起こったんだ? どういう原理で俺は部屋からここまで移動してきたんだ? もしかして、俺が部屋から出ていない間にワープの技術が発明されたとか? というか、さっきのアホみたいなおっさんは誰なんだ!? 金もスマホも持たさずに『行ってこい』とか舐めてんのか!」
確かに「あの女の子を助けたい」とは言ったが、俺まで帰れなくなっては意味がないだろう。
というか、せめて家用のジャージから着替えぐらいさせて欲しかった。
「そうだ! あの女の子はどこに?」
ここがどこだとか、帰り道がどこだ、とか言うのは女の子を見つけてからでも遅くはない。
とりあえず周辺をざっと見渡してみると、少し離れた木と木の間にそれらしき影が見えた。
「いた!」
急いで女の子を追いかける。
確かに離れてはいたが、相手はゆっくりと歩いていた少女なので、割とすぐに追いつくことができた。
「ちょっと君。待ってくれないか?」
「敵!?」
「うおっ!」
声をかけた直後に、振り向きざまに女の子が突き出してきたものを避けれはしたが、そのままバランスを崩して地面に尻をつく。
一方で、とんがり帽子の女の子は俺の姿を確認するなり、構えていた杖をゆっくりと下した。
「なんだ……人でしたか」
「うん。俺はれっきとした人だよ」
「すいません。つい反射的に杖を出してしまいまして……お怪我はありませんか?」
「大丈夫。ちょっと服に土がついただけだよ」
申し訳なさそうに差し出してきた女の子の手を取って、俺は立ち上がる。
青いジャージのズボンについた土を掃うのを待ってから、改めて女の子が口を開く。
「にしてもなんでこんなところに人が?」
「それはこっちのセリフだよ。君こそ、なんでこんな森の中に来たんだい?」
「え?」
女の子は一瞬フリーズしたかと思うと、急に慌てだした。
「ままままさか……珍しいというか、見たことが無いような服を着ているからまさかとは思いましたが、やっぱり知らないですよね!?」
「えっとー何が?」
「やっぱり!」
俺の返答一つで目を白黒させる女の子。
「先に自己紹介しておきますね! 私はレイスです。魔法使いです!」
「レイス? 魔法使い? 君……中二病?」
「何馬鹿なことを言ってるんですか⁉ いや、今はそれどころではありません! ここは危険ですから、早く街へと帰りましょう!」
「この近くに街があるのかい!?」
「あります! ありますとも! ですから、おとなしく私についてきてください!」
「わからないけど、わかったよ」
レイスが何に焦っているのかさっぱりだが、おとなしく従うことにした。
二人で草むらをかき分けながら、森の中を進んでいく。
「そういえば、なんでこんな森にいたんですか?」
「んー。俺もよくわかってないんだけど、自分の部屋にいたら、急に君の姿がパソコンに映し出されてさー。顔も見せてくれないおじさんに誘導されて、気づいたらここにいたんだ」
「何を言っているか分からないですけど、ここに来るまでの記憶はないということでいいんですか?」
「なんて言えばいいんだろうなぁ。あー、言うなら、瞬間移動させられちゃった感じかな」
「はぁ?」
いまいち理解できていなさそうな声で返事をしてくるレイスだが、仕方ない。
俺ですら、自分の身に何が起こったのか、わかってないから。
「逆に質問するけど、ここは何県なの?」
「けん? けん、とは何ですか?」
「は?」
「え?」
レイスが一度止まって、俺のことを見てくる。
もちろんのことながら、見つめ返したが、レイスは思い出したようにすぐにまた歩き始めた。
「もしかしたら、あなたは遠い国から来たのかもしれませんね」
「もしかして、県を知らないの?」
「はい。というか、この国に『けん』なんてものはありません」
「でも、それっておかしくないか? なんで国が違うのに同じ言葉でしゃべってるんだ? もしかして、日本語を勉強……いや、それだったら県ぐらい知っているか」
「しっ! 静かに」
唐突に肩を押さえつけられて茂みの中に入らされる。
草と草、枝と枝の間から見えるのは獣の足のようなもの。
「なんだ? イノシシか?」
「いいえ、あれはスノットリングですね」
「スノットリング? 聞いたことない生き物だなぁ」
「生き物……生き物ですか。まぁモンスターと呼んだ方が正しいでしょう」
「そんなに凶暴なの?」
「凶暴というより、単純にうざいですね……ええい! もう倒してしまいましょう!」
そう叫んで立ち上がったレイスとともに、俺も茂みから出る。
「な、なんだあいつら……」
スノットリングとやらは決してイノシシとは一緒にしてはいけない見た目をしていた。
何人もいるそいつらは、緑色の肌で、ニキビができた痕のようにデコボコだらけ。
さらに、少し窪んでいる目とは対照的に飛び出た口が気持ち悪さを増長させていた。
「危ないですから、屈んでいてくださいよ! ブルデュッフ!」
「お、おう。うわわっ!」
俺が屈むのと同時に、スノットリングに向けられた杖からいくつかの炎の塊が飛んで行く。
そして、それらの火玉は緑色の集団の間に着地した。
異形の怪物どもは、その熱さを受けて散り散りになって逃げていった。
それを見届けたレイスは、広がりかけている火に近づいていく。
「オーパラベル!」
火の玉同様、杖の先の方から放たれた水が消火していき、焦げた草とバーベキュー後のような焦げ臭さが残った。
「奴らが仲間を呼んでくるかもしれないので、少し急ぎましょうか」
「りょ、了解です」
「なんで急に敬語を使うんですか……?」
「俺まであんな魔法みたいなの使われたらたまらないなと」
「あれは、れっきとした魔法ですよ……はぁ、馬鹿な事を言っておらずに、早く行きますよ」
れっきとした魔法使いらしいレイスとともに、俺は街へと向かった。
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