できない俺に、できない仲間が寄ってくる!
高坂あおい
第1話 始まりはオヘヤから
今日は一体何曜日だったっけ?
一昨日が確か……日曜日か。
今日は火曜日だから、明日は一週間に一日の登校日だな。
「そもそも学校に行く必要なんてあるのか?」
そう言うと、何かがストンと落ちたような気がした。
なぜ一週間に一日も学校に行かないといけないのか?
いいや、別に行く必要はない。
思えば、小学校の頃から俺は何一つ変わっちゃいない。
運動はもちろんできない。
バットにも足にもボールは当たらないし、大きくても小さくてもボールは投げられない。走ればコケる。泳げば沈む。
勉強は別に嫌いではなかったが、成績は最悪だった。
中学の時に樹立した「テストの総合成績十五回連続最下位」は学校が廃校になるまで打ち破られることはないだろう。
中三になって初めて最下位を脱出した時は、家で大はしゃぎしたのを今でも覚えている。
ただ、幸い顔は悪くなかった。
初対面の人だと、最大二十分までならこの最悪の中身を隠しておくことができた。
この世界は「中身よりも外見」だと思っていたのに、全然そんなことはない。
中身がなければ、そもそもダメなのだということに気が付いたのは、高校一年生の時だった。
でも、今更中身を作ることなんてできっこない。
つまり、俺の人生なんてものはすでに「詰み」状態だったんだ。
よくある「陰キャから陽キャに!?」や「成り上がり人生!」なんて夢のまた夢。
この状況からそれができる人がいるなら、是非俺に教えてほしい。
「はぁ……また嫌なことを思い出しちゃったな。今日はシヴィでもするか」
もうどれだけ付けっぱなしか分からないデスクトップで、開いていたブラウザ画面を閉じようとしていたその時。
「『あなたの住む世界を変えてみませんか?』 住む世界を変える、って珍しい売り文句だな」
さっきまであんなことを考えていたせいなのか、気づけばマウスのカーソルをその広告に合わせていた。
「こんなのに少しでも釣られてる時点で俺はもうダメなんだよなぁ」
そして、カーソルを右上に移動させ、させ……させ…………。
「なんで動かないんだ?」
昨日の昼頃に電池を変えたばかりで、もう切れたなんてことはありえないはず。
しかし、どれだけマウスを動かしても、小さいカーソルは大きな岩のように動かない。
試しに机に何回か叩きつけてもみたが、それでも効果はなかった。
「長く使ってたし、もうそろそろ買い替えの時期が来たのかなぁ」
カチ。
「ん? え? あーっ!」
一瞬カーソルが固まっているという状況を忘れて、マウスを少し動かして左クリックをしてしまった。
もちろんだが、カーソルは一切動いてないので、謎の広告を開いてしまったことになる。
「いや、待てよ。マウスが今まで反応してなかったってことは、クリックしても無駄ぁぁぁぁぁぁぁ」
ロード中を示すマークが出てきたことによって、俺のわずかな希望は灰になった。
そして、画面が切り替わり、映し出されたのは。
「あー。これで無事俺のパソコンもウイルス入りになったのかよ」
何も書かれていない一面真っ白の画面。
ウイルス確定だ。
「どうせこれはゲーム用だからいいけど、それでもダルいなぁ」
そして、消し方も分からない真っ白な画面と向き合い続けること数分。
「もうやめだやめ。カップ麺でも食うか……ん?」
一瞬画面が切り替わったような気がした。
何が映ったのかは分からなかったが、何かが映ったように見えた。
「なんだなんだ? 俺の脳みそをパンクさせようとでもしてんのか?」
再度画面と睨みあいをすること一分。
「うおっ! 森? いや本当になんだこれ?」
分からなさすぎて怖い。
こんなことなら大人しく学校に行ってる方がましだ。
映っていたのは、森の中を歩く一人の少女。
明らかに俺よりも年下で、一目でサイズが合ってないとわかるコートらしきものと、とんがり帽子をかぶっていた。
「ドローン撮影でもしてんのか? なんでだ?」
知らない森を一人歩いている少女……。
「ネグレクト!?」
つまり、俺のパソコンを乗っ取った奴は、親に捨てられたこの子を救ってくれと俺に訴えているのだ。
「今すぐ助けに行きたい! でも、ここがどこか分からないから行きようがないんだよなぁ。せめて、このドローンが位置情報を送ってくれればいいのに」
『そなたの声しかと聞いたぞ』
「ひぇぇぇぇぇ! キモっ!」
スピーカーから聞こえてきた正体不明の声。
声質的には、少し歳をとったおじいさんのような感じ。
「初対面なのになんて失礼な奴だ」
「自分のパソコンから急に声が聞こえてきたら大体そういう反応になるよ!」
しかも対面してないし。
「言葉遣いから言いたいことは色々あるが、まぁいい。お前の願いは叶えてやろう。感謝するがいい」
俺も言いたいことはたくさんあったが、喉までにとどめる。
「あ、ありがとうございます?」
「うむ。では行ってこい!」
「は?」
準備をする時間も与えられないままに、俺の視界からゴミだらけの部屋が消えた。
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