第6話 とにかくたくさん聞いて話す練習を
〇聞き慣れることと、話し慣れる事が大切
いきなりですが、ちょっと辛辣な事を申し上げます。
多くの日本人は、失敗したり間違えることを異常に恐れ、常に完璧でないといけない!という、一種宗教じみた考えに囚われていると思います。
実際に私が留学生だった頃、日本人留学生に多かったのが
「スピーチ課題の時は、完璧に話せる様、完璧な原稿を作っておかなければ不安」
という人です。私はこれが大っ嫌いでした。何故嫌いなのかと言いますと、覚えられないからです。私は記憶力があまりよくありません。ですから、完璧に仕上げた原稿を覚えて、それをそらで話す、という芸当ができませんでした。
※勿論、スピーチ原稿も提出しなければいけない、という事でしたら、話は別です。
勿論スピーチの内容はできていないといけませんから、時間内に話す内容を決める必要があります。
私がスピーチの課題を準備する時に用意していたのは、絶対に話す内容の要点を10~15ぐらい箇条書きにした紙。これだけです。
これ、他の日本人に見られた時、十中八九
「は!? これだけ!? 何話すか書いてないじゃん!」
と言われましたね。
でもスピーチ課題は、「話慣れるための課題」「会話でスムーズに話すための訓練」です。いくら原稿を完璧に作っても、実際の会話には、用意した原稿なんて使えません。
逆に、原稿を用意しなければ不安……などと言っていたら、原稿が無いと話せない人間になります。
勿論スピーチ課題に向けて、話す内容の練習をする必要はありますが、カッコつけて「完璧に話そう」とか「難しい言い回しをして、印象をよくしよう」とか考える必要は、まーっっったく! ありません!
それよりも、スピーチ内容が正確に伝わる様、基本の文法とわかりやすい単語を使って、話す練習をする方が有意義です。
話す内容さえ決まっていれば、あとは会話を途切れさせない様、出てくる単語を規則に従って並べ、おかしくない発音で話すだけ。
中上級クラスにでもいかないと、長めのスピーチはありませんから、そんなに難しく考えなくていいですよ。あなたが一生懸命用意したテーマを、堂々と話しましょう。
間違えてたっていいんです。
もっと言えば、こういう「他人に見てもらえる・聞いてもらえる機会に」間違えないと、間違えている部分に気づけません。
間違えた所は先生がチェックして、後でどんな言い回しをするか、正確な発音はどうか、をきちんと教えてくれます。
間違えたことを指摘され、笑われたらこう言いましょう。
「あー、ごめーん。初心者だから間違えたーテヘペロー」
初心者でなければ、「外国人だから」でOK!
外国人がネイティブより上手いわけありません。
「できなかったら恥ずかしい」
「完璧じゃなければ恥だ」
と思わなくて大丈夫、だってあなたは初心者なんだから。
〇話すスピードはお手本音声で練習
学び始めた時は、誰でも発音に慣れてませんから、ゆっくり話してしまいます。
それを恥じる必要はありませんが、中国語はある程度の早さがないと通じにくい傾向にあります。未だに理由はよくわかりませんが……。
話すスピードに慣れるには、まず単語を何度も発音する練習をしましょう。この時、ただ単にテキストに出てる単語を繰り返し発音するだけでは、あまり意味がありません。
テキストに音声データがついている場合、それを最大限活用しましょう。
まだ学び始めなら、発音練習は基本発音から始めましょう。
単語の発音に慣れてきたら、短文の発音を練習しましょう。
最初は自分で短文を読んでもいいですが、これも音声データにそって行うと効率がいいと思います。
発音練習する短文を、お手本となる音声データと同じスピードで読む訓練です。これはシャドーイングと呼ばれる練習ですが、シャドーイングをすると、会話時の発音で詰まることなく、すらすら話すことができるようになります。
ちなみに、私は台湾人や中国人から「あんたの話すスピード、速いよね……」と言われることが多かったです。
これはシャドーイングの練習をたくさんしたのもありますが、言語交換の相手が、元々結構速く話す人だったから、というのもあります。
もしあなたに言語交換の相手がいれば、その人にチェックしてもらうと、より効果的です。
私が留学生だった頃と違い、今はSkypeをはじめ、MessengerやLINE、ZOOMなどで直接会わなくても、相手と会話できる時代です。是非あなたも言語交換の相手を探しましょう。
〇東大生でもやってしまう、間違った会話法
結構昔に、あるテレビ番組が一般人と東大生を対象に、外国人から英語で道を尋ねられた時、どうやって返答するか、という企画をしたことがあります。
まぁ一般人は、話せる人でもなければ、結果はお察しですよね。わかりませんごめんなさい! って逃げちゃうか、下手でも一生懸命教えてあげようとするか(優しいなぁ……)。
多分皆さんの興味は、東大生の反応でしょう。
当時の実験結果に限ってですが、東大生は一応ほとんどの人が答えていました。
レポーターが回答してた東大生に「相手の方が何を言ってるかわかりましたか? 返答する時、どの様に英語を話しましたか?」と尋ねると、回答が二分されました。
1. 「英語で訊かれたので、英語で返しただけです」
2. 「相手が何を言っているのか聞き取り、求めていることを把握してから、間違いが無いように返答しました」
1の回答をした人は、帰国子女だったり、英会話教室に通った「英会話ができる人」です。このタイプの人は、話せるのが前提ですから、気を付けたことは特にありません。
この人たちには、「英語脳」がありますから、英語で訊かれたことを英語で考え、英語で答る習慣ができています。
では2の回答をした人はと言いますと、「文章でならわかるけど、会話はあまり慣れてない人」です。勿論この回答をした人たちは東大生、我々一般人とは頭の出来も、語彙力も文法力もけた違い。
その膨大な知識の中から、訊かれた内容に合致する単語や文法を素早く探し出し、何を言ったのかを理解し、回答に合致する単語をあてはめ、素早く構文して回答した、ということ。
この作業、東大生の様に膨大な知識量があり、なおかつ知識が整理されていて、素早く文を組み立てられる人でないと、かなりしんどい作業です。我々一般人がこんなことをやったら、会話が行き詰ってしまい、結局答えられない、という結果になりがちです。
多くの日本人が外国語を長年学んでいても話せない理由は、これなんです。しかも我々一般人は、語彙力も文法力もあまりありませんよね。
ただでさえ勉強中で語彙力・聴力(この場合の聴力は、発音を聞き分ける能力)、文法を学んでる最中なんですから、焦って聞いた外国語を日本語で考えてしまうのは、わからなくはありません。
が、それをやっていると、永遠に話せないままです。
そのため、外国語会話で必要とされるのは、その言語の脳を作り上げる事です。
相手の言葉をいちいち日本語に翻訳しない。
相手への返事をいちいち日本語で考えない。
中国語で話しかけられたら、中国語で考えて中国語で返す。
確かにこの作業、最初のうちは、とても難しいです。
その為に、毎日少しでも多くの外国語に触れ、一言でも多く聞いて話す努力が必要になります。
そうすれば語彙力が多少足りなくても、「ねぇねぇ、今の単語なんて意味なの? どういう字を書くの? ついでに発音も書いて」と中国語で訊けて中国語で教えてもらうことだって可能で、どんどん会話の練習が積み重なっていき、そう遠くない未来に、話せるようになっていますよ。
〇言語交換の相手選びとコツ・注意点
言語交換は、たくさん話してたくさん聞き取る、とてもよい練習になります。また、相手に日本語を教えることにより、自分自身も日本語の文法や表現について考える様になり、
「ここって日本語だとこういう解釈をするし、こういう理由でこう表現するんだな。中国語だとどういう解釈でどんな理由なのかも訊いてみよう!」
という風に、学習意欲がわきやすく、より
「たくさん学ぼう!」
というモチベーションを保つことができます。
そこで、言語交換の相手選びとして、参考にしてほしいことがあります。
勿論相手のレベルも考慮するのは大前提ですが、それ以上に考慮しなければいけないことがあります。
それは「価値観が近いか」です。
ただしここで、宗教観や政治観を持ちだしてはいけません。
これは諍いの元になります。仮に相手が日本に対して好意的であっても、政治的・歴史的・宗教的な話は避けるのが無難です。
個人的な感想ですが、口角泡を飛ばす勢いの外国人相手に、一切怯まず、確固たる根拠と信念を以て議論できる日本人には、あまり会った事がありません。
そもそも相手からちょっと言われて、引き下がる程度の知識しかないのであれば、政治的・歴史的・宗教的な話は避けましょう。
それでも、どうしても述べたいのであれば、客観的事実についてのみにしましょう。
相手の国について、自分の国が絡まない内容を訊くのは問題ありません。例えば三国志について、春秋戦国時代について、蒋経国の10大国家事業について、など。
近い価値観というのは、あくまで個人的なものについてです。
例えば、「コーヒー派か紅茶派か?」「犬派か猫派か?」という程度の可愛いものにとどめましょう。
勿論、好きなものを称えるのは問題ありません。
が、そうでない物をくさす発言や態度は、慎みましょう。相手も同じ考えかどうかわからないうちは、特にその点に注意してください。
これは言語を学ぶ以前の、最低限のモラルです。
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