第5話 文法を無視してはいけない

 ・中国語は文法が間違ってると通じないor通じにくい


 日本語は文法が間違ってたり正確でなくても、意味が通じてしまう珍しい言語です。私が他に知ってる「文法が間違ってたり正確でなくても、意味が通じてしまう言語」は、チェコ語ぐらいです。チェコ語と互換性のあるスロバキア語も、同じく通じるでしょう。


 例えば、あなたの目の前に金髪碧眼の美女がいて、彼女が


「コンニチハ、ワタシ、かなだジンハきゃしーマス」


 と言っても、「ああ、カナダ人のキャシーさんっていうのね」ってわかりますよね。最後の「です」を「ます」と間違えても、日本人じゃないんだから間違えてもしょーがないよね、って思いますよね。

 これは外国人が話す日本語だからです。

 そして日本語は文法を間違えてても、この様に通じてしまう言語だからです。


 そのせいで、日本人が外国語を勉強する際に


「文法なんてどーでもいいよー。単語並べれば通じるでしょー?」


 と考える人が少なくありません。


 ところが、世界の言語の多くは、文法が正しくないと通じない、または通じにくいという事実があります。

 中国語もその例にもれず、規則に従わないといけません。


「一言一句間違えるな!」という事ではありません。


 規則に従っていれば、少し文法を間違えてても、「外国人だから」と理解しようとしてくれます。

 特に初心者に対しては、「我々の国の言葉を学ぼうとしてくれている」と思い、真剣に聞こうとしてくれますよ(どうやらアメリカ人だけは例外らしいですが……)。


 仮に言い間違えても、ネイティブや先生から、しっかり正しい文法を教わればいいんです、初心者なんだから。


 間違えることを恐れない。これが上達の秘訣。


 とは言え、「適当に単語を並べればいいや」などと思わず、次の項で説明する文法の基礎だけでも、しっかり把握しましょう。




 これだけは外さないで!文法基礎中の基礎


 中国語でも英語でも、一番基礎となる文法で有名なのは、SVOと呼ばれるものですね。


 S = Subject(主語)

 V = Verb(動詞)

 O = Object(目的語)


 これが、一般的な大前提です。


 しかし動詞が「叙述動詞(Discriptive Verb)」というものになった時は、この位置が入れ替わります。ちなみに私が学んだ台湾のテキストではDVではなく、REと書かれていました(DVだとイメージ悪いからですかね?)。


 S + 把 + O + DV


 神田外語大学言語モジュールによりますと、このDVは8種に分類されるそうです。


 神田外語大学言語モジュール 該当ページのURL 

http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/zh/gmod/contents/explanation/068.html


「叙述動詞がわからん! なんだそれは、けしからん!」


 と思った人、説明してなくてごめんなさい。


 叙述動詞というのは、日本語で言えば「持ち帰る」とか「投げ落とす」「使い切る」と言った、前の動作をし、後ろの結果を導き出す、という関係性の動詞が組み合わさってできている動作を表した動詞です。


 両方の文法の例文を挙げましょう。


 まずはSVOから。


 我哥去工作。

(兄は仕事へ行った)


 小王看書。

(王さんが本を読んでいる)


 続いてS+把+O+DV。


 寶貝,你把垃圾倒過去。

(ぼうや、ゴミ出ししてきて)


 妹妹把我的漫畫書拿下來。 (帯下來も可)。

(妹が私の漫画を持って降りてきた)


 把構文は例文の様に、文章が複雑にならないと使えませんが、会話で出せるようになると


「おっ! この日本人できるじゃん!」


 と思ってもらえる文法ですので、是非覚えましょう。




 ・二つ目に覚えてほしい文法は、否定文の位置。


 日本語では否定か肯定か、最後まで見ないと(聞かないと)わかりません。ですが中国語では、否定されている内容の単語の前につけます。


 否定形で使われる代表格は「不」「没」「非」「否」「無」「未」の6つですね。勿論他にも「豈 」等がありますが、歴史映画の中や、学術論文など高度な内容で使う等、日常ではあまり見かけないと言った理由から、ここでは割愛します。


「不要」「没有」「非常」「否定」「無奈(※)」「未定」など、どれも後ろに来ている文字の意味を否定しています。

 ※無奈は文語のため、あまり日常会話では出てきませんが、「無意味・無価値・ゴミみたいなもの」と言った、よくない意味で使います。




 ・三つ目に覚えてほしい文法は、「的」の濫用回避。


 1つの節に「的」は1つで、どうしてももう1つつけなければいけなくなった時は「之」を後ろにつけます。


「的」の数を削る時は、前を消します。その節で最後の「的」だけを残しましょう。例えば次の様に。


 誤:這位先生我的爸爸的學長。


 正:這位先生我爸的學長。

  (こちらの男性は私の父の先輩です。)


 この様に「的」の濫用を回避することにより、落ち着いた文章になります。読点で区切られた後や、センテンスが変わる時なら、また「的」を使ってOK。


「的」は使いすぎると、稚拙な印象を与えるので注意。




 ・四つ目に覚えてほしい文法は数量詞の位置。


「数字+数量詞」なのは日本語と同じなんですが、日本語は「名詞+数量詞」で使うのに対し、中国語では「数量詞+名詞」で使います。


 街中でタピオカを買う時の例を挙げましょう。


 日本語「タピオカミルクティー2つください」

 中国語「給我兩杯珍珠奶茶」



 ……あれ?

 ここでもう一つ厄介な問題が出てきます。

 数字の「2」の中国語は二つあります。

 しかも使い分けに慣れるのは、結構時間がかかります。


 2そのものの場合、この2が何で使われているのかによって、読み方が「二」なのか「兩」なのかが変わります。

 回数や順位、日付・日数なら「二」、数量・時間なら「兩」。


 二 → 第二次、第二屆、第二名…

 兩 → 兩位、兩杯、兩張…


 数字そのものを読む時も注意。


 12       → 十二

 20       → 二十

 200      → 兩百

 2000     → 兩千

 20000     → 兩萬

 120000    → 十二萬

 200000    → 二十萬

 2000000    → 兩百萬

 20000000   → 兩千萬

 200000000  → 兩億

 1200000000  → 十二億

 2000000000  → 二十億


 このように、「12なんとか」「20なんとか」の時は「十二」「二十」で読みます。この法則は「12と20の時は二、それ以外は兩で読む」という原則だけ覚えてください。


「12が十二なら、22や32なんかは?」


 と訊きたくなるでしょうが、そもそも22だの32だのは、「◎十二」ですよね?ですから、22から92まで全部、◎十二読みします。


 日本語も数字の読み方で、特殊な読み方をするものがありますから、残念ですがそれと同じだと思って、覚えるしかありません。




 ・中国語の文法は英語と同じ? とんでもない!


 結構勘違いされているところがあります。

 確かに基本中の基本文法である「SVO」においては、英語と中国語は並べ方が同じです。

 しかし、では英語と中国語の文法は全く同じか? と言われたら、それは誤解だと言わざるを得ません。


 まぁ日本語でも英語でも中国語でも、「主語+述語」の順番なのは変わりませんが、述語の部分で並び方に差が出ています。


 日本語も中国語も、述語の並べ方の共通点が存在します。

 それは「概念の大きい物から順に並べる」。


 時間 → 場所 → 物・人がどうだ・どうした


 時間 … Time Word / TW

 場所 … Place Word / PW


 この並びは全く同じです。

 最後の「物・人がどうだ・どうした」の並べ方で違いがありはしますが、この概念は東洋的な思想だな、と感じました。


 中国語は英語との共通点としては、動詞を先に言う。

 日本語との共通点としては、概念の大きい物から並べる。

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