蝉の死骸
文学少女
夏のあの日
遊具から飛び降りると、目の前に、
銀色の腹は、夏の燃えるような太陽の日差しに照らされて、輝き、死骸というには、あまりに美しく、みずみずしかった。膨らんだ腹の中に、まだ生命力が宿っているように思えた。しかし、蝉は、死んでいた。周りの木々から、騒々しく鳴き続ける蝉達と違って、死んだ蝉は、ただただ静かだった。一寸たりとも、動かない。鮮やかな銀色の腹の裏には、透き通るような透明の羽。僕は、この蝉が死んでいるというのが、とても不思議だった。
僕は、水飲み場に行った。蛇口をひねると、水が真上に勢いよく飛び出し、太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。僕は水の勢いを弱め、水の放物線に口を近づけ、浴びるように水を飲んだ。
水を止めて、足元を見ると、そこには蝶の死骸があった。蝶には、黒い点々とした小さな蟻がうじゃうじゃと集まっていた。その黒い流れは、蝶をじわりじわりと動かしていた。蝶は、死んでいるというよりも、枯れていた。蝉の死骸と違って、みずみずしさはなかった。羽を握れば、ぱりぱりと、破れてしまうのではないかと思った。もう、水分がすっかりとなくなってしまい、枯葉のように、地面に落ちていた。蝶は、軽やかに、ひらりひらりと舞うことなく、触覚をたれ下げ、足をぶら下げ、ただ静かに、蟻に運ばれていた。
死んだ蝉は、騒々しく鳴くことなく、死んだ蝶は、軽やかに舞うことなく、ただ静かに、そこにいた。死というのは、劇的なものではなくて、前触れもなく突然やって来る、静かなものなのだと思った。命というものの弱々しさと儚さを、僕は感じた。
夕焼けチャイムが鳴り響き、景色は
蝉の死骸 文学少女 @asao22
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます