第6話 お医者さんごっこ

俺は道行く男性を捕まえた後、ファミレスで30分ほど話し込んだ。

病気の良くない気を感じる、自分にならその病気を治せる、ぜひ一度見せてほしい――そういったことを、延々と男性に伝えたのだ。

まあ勿論こんな怪しい輩の話は聞いてもらえない――普通なら。

俺は読心スキルを適宜使用し、男性の考えていることをすべて言い当てることで『特別な力がある』ということを男性に信じ込ませることに成功したのだ。


まあ、人の心が読めることと病が治せることは別な訳だが――特別な力を見せることで、その人の抱えている難しい問題にも一縷の希望を持たせた、といった感じだ。


とても信じられないことだが、この人ならもしかしたら、と。


そして今。


「この部屋だ」


俺は男性に連れられ、扉の前に立つ――俺はいま、その男性の自宅で『患者』と会おうとしていた。


「入る前に――来てもらった手前こういった説明をするべきではないのかもしれないが――娘は、非科学的なものをあまり好まないんだ」

「あまり良い態度ではないかもしれないが、許してほしい」


「それは勿論、大丈夫です。…まあ、私もそういった扱いは慣れていますから、なんでもありません」


俺は今、超能力者よろしく悩める通行人の悩みを看破し、そのノリでお家にお邪魔している。


この男性が考えていたこと――『病気』の心配。おそらく家内の。


俺が態々街を歩き回って探していた『シナリオ』は、『難病を患う人間、又はその家族』だった。

具体的には、読心スキルで考えていることを看破し、スピリチュアルな方向性での信用を得た上で、現代医学では解決できない事柄を治癒スキルで治す――というものだ。

別に、突然人道支援に目覚めた訳じゃあない。こういったシナリオを選んだ理由、それは『確実に、安全に、あまり目立たず金になるから』だ。


俺が持つ力で金を稼ぐためのシナリオは様々だ――だが、金が稼げて、安全で、競合相手がおらず、名声も得られるものは意外と少ない。

特に、人間の枠を超えた力であればより稼ぎやすいが、大抵のケースでは悪目立ちしすぎる。

だが、逆に普通の人間でも出来る範囲に収めると…はっきり言って『面倒くさい』。

競合がいるのもそうだが、より稼ぎやすい手段がありながらもそれをしないというのは不満が溜まりそうで、俺には合っていない気がしたのだ。


とはいえ、力を使いすぎて悪目立ちするもの良くない――だが、持っている非凡な力を十分に使いつつ、悪目立ちしづらい方法が存在する。


まあ所謂、『木を隠すなら森の中』というやつだ。


というわけで、俺は絶賛『怪しい民間療法を売り込むお兄さん』になっている。

こういった胡散臭い輩は信用されないことが殆どだが、俺にはカリスマスキル、読心スキルがあった。

今回のこの訪問でも、この男性と話したのはせいぜい30分程度――たったそれだけで、既に相手の家に上がることに成功している。

使用したのはカリスマスキルと読心スキルだけな訳で、危ない橋は一切渡っていない。にも関わらずこれだけのことが出来ている訳で、やはりスキルは使い方次第である。


この男性も俺の言うことを完全に信用している訳ではないだろうが、しかしそれでも――『自分の考えていることが次々当てられた』という奇跡体験が、俺の発言への信用を生んでいた。


男性はノックをする。


「入るぞ、あかり――」


男性に続いて、俺も部屋の中へ入った。

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