第三十二話 ~決戦に向けての準備。王都で過ごす大切な時間~ その③
第三十二話 その③
「それじゃあ邪魔者は退散するから、あとはおっさんとスフィア王女の二人でよろしくやってなよ」
「おいおい……邪魔者ってそんな言い方しなくてもいいと思うけどな」
ニヤニヤと笑いながらそんなことを言うシルビアに、俺は少しだけ眉をしかめながらそう返す。
「まぁ、私もこの後にギルドに行って王都の中の警備について話し合いをしないといけない。ってのもあるからね。スフィア王女の護衛はおっさんに引き継いで起きたいってのもあるんだよ」
「あぁ……そういう話なら納得だな」
「王女を王城に送り届けてからギルドに行こうと思ってからね。それにおっさんなら安心して任せられるよ。じゃあ後はよろしくな」
シルビアはそう言うと、小走りでギルドに向かって行った。
そして、広場には俺とスフィだけが残される形になった。
夕暮れになり、少しだけ肌寒さを感じてくる気温だな。
そんな中、肩を出した洋装のスフィが軽く肩を震わせたのが見えた。
「良かったらこれを着てくれないか。護衛を務めておきながら、スフィに風邪なんかひかせたら大変だ」
俺が肩に羽織っていた上着を彼女に渡すと、スフィは少しだけ頬笑みを浮かべながらそれを受け取った。
「ありがとうございますベルフォードさん。直ぐに帰ろうか?と言わずにこれを貸してくれるという事は、私とお話をする時間を作ってくれるということですよね」
「そうだな。立派な演説を終えたスフィを労いたいという気持ちもかなりある」
俺はそう言うと彼女と共に広場の端にある四人がけのベンチへと向かう。
そして二人で並んで腰を下ろしたところで軽く話を始めた。
「ベルフォードさんは何時からここに居らしたんですか?」
「最初からだな。俺のことはシルビアが既に気がついてたみたいだけどな。とても立派な演説で感動した。スフィの成長を感じて嬉しかったよ」
「ふふふ。ありがとうございます。ベルフォードさんにそう言って貰えるととても嬉しいです。頑張った甲斐があったと思います」
スフィはそう言うと、ホッとしたように表情を緩めた。
彼女は小さい時から何度も何度も城下町に来ていた。
一応は『お忍び』とはなっていたが、誰もが彼女が王女だと言うのは知っていた。
俺も護衛として同行することも非常に多かった。
そんな民衆と一緒に成長してきた彼女だからこそ、あの演説は人々に届いたんだと思う。
「あのスフィが立派な大人になったと安心したよ。次期国王としてもう少し落ち着きを持って欲しいとは思ってたけど杞憂だったみたいだな」
「そ、そこまで褒めてもらうと照れますね……ですが、そうですね。もし良かったら『昔のように』褒めて貰えませんか?」
「……え?」
昔のように褒めて欲しい。
マジで言ってるのか……
あれは彼女が子供だったから出来たことで、今のスフィに同じことをするのは些か問題があると思うんだけど……
「ダメ……ですか?」
上目遣いでそう言うスフィ。なんて言うかさっきまでの凛とした表情とは違い、子供の頃を思い出してしまうようなものだった。
「……わかったよ。まぁ、良くやってたのは事実だし、労ってやりたいと思ってたのも本当だからな」
「あ、ありがとうございます!!嬉しいです!!」
スフィはそう言うと、目を閉じて俺に頭を差し出してきた。
俺はそんな彼女の頭をそっと撫でてあげた。
肩口まで伸ばされた銀色の髪の毛はきちんと手入れがされていて、サラサラとした感触がとても気持ち良い。
彼女が子供の頃に、悪いことをしたらデコピンをしていた。
そして、良いことをしていた時にはこうして頭を撫でていた。
「えへへ……とても嬉しいです」
「そうか。それは良かったよ」
一国の王女の頭をこんなおっさんが撫でている。
相手は次期国王なのにな。
こうしているのと、昔に戻ったような気持ちになってくる。
そして、もう十分かな?と思って手を離すとスフィは少しだけ寂しそうな表情をしてこちらに視線を向けた。
「もう、終わりですか?」
「まぁあまり長居をすると時間も遅くなって危険だからな」
名残惜しい気持ちになっているのは俺も同じだが、それを表には出さないようにした。
「そうですね。不要不急の外出は控えて家に居ましょう。と私が言ったのですからね」
「あはは。確かにそうだな」
そんなやり取りをした後に、俺とスフィは広場を後にした。
彼女共に王城へと向かって歩いて行く。
他愛のない会話をしていると、特に誰かに襲われるとかそんな問題も無くすんなりと目的の場所に着いてしまった。
「送って頂いてありがとうございます。ベルフォードさんと一緒に歩けて嬉しかったです」
「ははは。そう言って貰えるなら嬉しいよ」
城門の前でそんな話をしていると、スフィが少しだけ不安そうな表情をする。
「スタンピード……とても大変な事態だと言うことは理解しています。どうか……無事で帰って来てくださいね。無理だと感じたら逃げてしまっても……」
「あはは、大丈夫だよ。引退はしたけどまだまだ身体は動くつもりだからな。それに、俺が逃げたら国民に危険が及んでしまう。そんな真似は出来ないよ」
「そ、そうですよね。で、でしたら……ご武運を祈ってます」
スフィはそう言うと、俺の頬に唇を押し当てた。
「す、スフィ!!??」
「ぜ、絶対に生きて帰ってきてくださいね!!」
彼女は顔を真っ赤に染めながら城門をくぐり抜けて走り去って行った。
『私は何も見てません!!』
『私も何も見てません!!』
城門を守る衛兵の二人が視線を逸らしながらそんなことを叫んでいた。
「そ、そうか……気を使わせて悪かったな……」
スフィからキスをされた頬が熱を持っている。
あはは……本当に、彼女にはしてやられたな。
そして、絶対に生きて帰らなければならないし、彼女を危険に晒す訳には行かないな。
俺は決意を新たにして、城門の前を後にした。
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