第三十二話 ~決戦に向けての準備。王都で過ごす大切な時間~ その②
第三十二話 その②
リィンさんの武器屋に豪鬼さんを残し、俺はその場を後にした。
「さて、この後はどこに行こうかな」
たいした当てもなくふらふらと歩いていると、少し遠くにある広場に人溜まりが出来始めていることに気が付いた。
人々の話を聞いていると、どうやらスフィが演説を始めると言うことがわかった。
「ちょうど時間も余ってたからな。スフィの話も気になるし、聴きに行くか」
俺は行き場を広場に決めてそこに向けて歩いて行った。
『広場』
王都の広場は有名人が演説をしたりするのに使う場所だ。
許容人数もかなり多く、また演説台もしっかりとしたものが用意されている。Sランクを拝命した時はあそこで抱負を語ったりしたからな。
懐かしいことを思い出しながら台を見ていると、しっかりとした服装に身を包んだスフィが現れた。
普段のお忍びの服装ではなく、王女としての正装だった。
そして、その隣には護衛としてシルビアを連れていた。
演説台からはかなり距離があったので、スフィは俺の事に気がついて居ないようだったが、シルビアは目敏く俺を見つけてニヤニヤと笑っていた。
俺の存在をスフィに伝えるのかな?とも思ったがそんな事はしなかったようだ。
まぁ……変な緊張とかされても嫌だからな。静かに聴いていることにしよう。
そう思っていると、スフィの演説が始まった。
『皆さんこんにちは。ガルム王国 王女のスフィアです。本日は突然の案内の中、こうしてたくさんの人にお集まりいただけて嬉しく思います。ありがとうございます』
『私がこうしてこの場に立ち、皆さんにお話をすることには理由があります。それは『
スフィがそう言うと、集まっていた民衆がざわつきを見せる。
『この王都には、東西南北を囲むように大規模なダンジョンが存在しております。このダンジョンがあるからこそ、ダンジョン産の資源などを活用してこの王都は発展を遂げました。ですが、今回この四つのダンジョンにスタンビートの兆候が確認されました。まさに未曾有の大災害。本来ならば王都が滅亡してしまうかもしれない事態ではございます』
彼女がそう言うと、民衆のざわつきが強まった。
この王都は大丈夫なのか?死にたくない。そんな声が各所から聞こえてきた。
そんな民衆にスフィは凛とした表情で言葉を続けた。
『ですが皆さん。安心してください!!』
彼女のその声に、民衆の視線が一気に集まった。
そして、それを確認するしたところで話を続ける。
『まず最初に、この事態を事前に知れたことが非常に大きいです。Aランクパーティの一人。ルーシーさんの遠見と探知の魔法により、これを知ることが出来ました。ですので、私たちはこうして事前に対策を打てるのです』
スフィの言葉に、少しずつ民衆の表情が安心したものに変わっていく。
『そして、当然ではございますがこの大災害に対して、王都の冒険者全てが力を合わせて立ち向かいます。殲滅部隊には先程も話をしたAランクパーティの『パーピーの羽根』また私の後ろに控えるシルビアも所属するSランクパーティの『月ノ
月ノ守人は若い時に俺が考えたパーティの名前だ。
なんて言うか若かりし頃の思考回路による『少し痛い名前』だからあまり公には言いたくない名前ではあるんだよな……
『更にはこの王都には頼もしい人が駆け付けてくれました。トウヨウの最優冒険者 剛剣の豪鬼さんです。彼はベルフォード・ラドクリフ氏を慕い、このガルム王国を訪ねて来ていた所でした。そしてこの王都の危機を知り、国の垣根を越えて力を尽くしてくれるとのことです。素晴らしい人柄に感謝します』
剛剣の名前はこのガルムでも有名だ。
豪鬼さんの名前が出た瞬間に、驚きと共に安心の感情が強くなった。
『皆さん。この王都の危機に立ち上がってくれた方はこれだけではございません』
スフィはそう言ったあと、息を整えてから言葉を放つ。
『先日。引退を発表したSランクパーティの冒険者。ベルフォード・ラドクリフ氏もこの危機に立ち向かってくれることを表明してくれました!!』
その言葉に、民衆の声が一段と高まった。
『ベルが来てくれたのなら安心だ』『これで王都は安泰だ』
そんな言葉に紛れて『今日は家で祝杯をあげるか』なんて言葉も聞こえてきた。
引退したおっさんにそんな期待を寄せられても困るが、この民衆を裏切る真似は出来ないな。
西の門。ミソラと共に任された場所は絶対に死守しなければ。
『冒険者は引退したけど、困ったことがあれば王都の為に力を振るうよ。ラドクリフ氏はそのように語ってくれました。冒険者を引退しているので報酬などは支払われません。ですが、そんな彼の献身的な姿勢に、この大災害を乗り越えたら勲章を用意しています』
スフィのそのセリフに周りからは『異議なし!!』との言葉が溢れてきた。
『この王都を襲う未曾有の大災害ですが。明日の早朝が予想されております。この気に乗じて犯罪に手を染める者がいるかも知れません。ですので、本日は家の戸締りをしっかりとして、不要不急の外出は控えていただくようよろしくお願いします』
スフィはそう言うと、民衆に対して頭をしっかりと下げて懇願をした。
王族が、次期国王と呼ばれる人材が、民衆に対して頭を下げる。これ程の行為に、全員が言葉を失った。
そして、静寂に包まれる中一人の人間が拍手をした。
それを皮切りに広場は大きな拍手に包まれた。
その光景にスフィは安堵の表情を浮かべながら一つお辞儀をして、
『それでは、これで私の演説を終わりに致します。ご清聴ありがとうございました』
そう言って演説台を降りた。
いつまでも、いつまでも、いつまでも、スフィの演説の素晴らしさを称えるように、拍手は鳴り止まなかった。その光景を見た俺は確信した。
「彼女の国王としての器が見えた。ははは。これならガルム王国も安泰だな」
そして、スフィの言うように今夜は不要不急の外出を避けるために民衆は一人、また一人と広場を後にして行った。
最後まで広場に残っていたのは俺と……
「途中からベルフォードさんの姿に気が付きました。聴いていたんですね?」
「私は最初からおっさんの姿に気が付いてたけどな」
立派に演説を終えたスフィとニヤニヤと笑うシルビアだった。
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