第三十二話 ~決戦に向けての準備。王都で過ごす大切な時間~ その①
第三十二話 その①
「それでは豪鬼さん。俺が懇意にしている刀鍛冶師の所へ向かいましょうか」
「私としてはとてもありがたいのですか、ラドクリフ氏は奥様方と過ごさなくても良いのですか?」
会議室を出たところで豪鬼さんと話をしていると、リーファとツキがそのことに対して軽く言葉を寄せる。
「私とツキは一緒に王都を回ってくるわ。だからベルは好きにしてていいわよ」
「そうですね。私とリーファは『とても大切な予定』がありますから。行動を共にしていくことになってます」
……とても大切な予定。何なんだよ。
凄く不穏なセリフを聞いて、背中に嫌な汗が流れ落ちるのを感じた。
「二人の予定が気になるところだけど、まぁたまには別行動も必要だからな。それじゃあ好きに過ごしていこう」
俺はそう言うと、リーファとツキに別れを告げ、豪鬼さんと共に鍛冶師の居る武器屋へと向かった。
『武器屋』
王都の端にある小さな武器屋。大手の武器屋は広々とした店構えをしているが、ここは知る人ぞ知ると言った形の店だ。
そしてガルム王国で屈指の実力を誇る鍛冶師。リィンさんが務めているのがこの武器屋だ。
『ふむ……この鞘は気に入りました。ようやくまともな鞘を用意して貰えて私は安心してますよ』
『……ふぅ。ツキにそう言って貰えて一安心だよ』
今、月光を納めている鞘はリィンさんに作ってもらったものだ。
かつてダンジョンの奥地で、俺が月光を手にした時には古びた鞘に収まっていた。
ツキが最初に言ってきたのは、新しい鞘に納めて欲しいだったからな。
そして彼女の為に色々な鞘を用意したが、全部突っぱねられてしまった。
そんな中でリィンさんの話を聞いて、彼に鞘の作成を依頼することを決めた。その時のリィンさんは王都では無く辺境の町にいた。
認めた人にしか仕事をしない。そんなリィンさんに1ヶ月間。毎日頭を下げて鞘を何とか作ってもらうことが出来た。
彼が作った鞘でようやくツキのお許しが出た形だ。
そんな、伝説級のわがままお嬢様の希望に応えたリィンさんなら、豪鬼さんの大剣の代わりを用意することも出来ると考えた。
「ふむ。この店の佇まいからわかりますよ。かなりの手練の方がいらっしゃいますね」
「ははは。そうですね。本当なら辺境の街にいらした方なんです。ですが俺がどうしてもと頼み込んでここに移転してもらったんですよ」
俺は豪鬼そう言ったあと、武器屋の扉を開ける。
「こんにちは、リィンさん。本日はいつもとは違うお願いがあって来ました」
「…………ラドクリフか。それで隣に居るのはトウヨウの豪鬼だな」
「はい。私が豪鬼です。本日はガルムでも屈指の鍛冶師のリィンさんに私の大剣を用立てて貰いに来ました」
豪鬼さんがそう言うと、リィンさんは彼の頭から足の先まで品定めをするように視線を巡らせた。
そして、軽くため息をついた後に言葉を放つ。
「本来ならば一見は断っている。そこに居るラドクリフは鞘一つ作るのにひと月頭を下げさせた。依頼者の本気を見るためだ」
「ははは……懐かしい思い出です」
「あの町を出てここに来ることには、ラドクリフに一年間頭を下げさせた。さて、トウヨウの豪鬼よ。お前の『本気』を見せて貰えるか?」
リィンさんがそう言うと、豪鬼さんはニヤリと笑みを浮かべた。
「わかりました。この私が貴方の剣を振るうに値する人間かを示せば良いのですね」
彼はそう言ったあと、軽く目を閉じて息を整える。
…………わかる。彼は『扉』を開くつもりだ。
月天流では『
紅蓮流を極めた末の『
『紅蓮流
豪鬼さんがそう言うと、彼から金色の光が立ち上る。
ははは。こんなものを手合わせの時に使われていたら、俺なんか一太刀で死んでいたな。
流石は一対一では無類の強さを誇る剛剣だ。
そんな彼を見たリィンさんは目を細めて納得したように首を縦に振った。
「良いだろう。トウヨウの最優冒険者、剛剣の豪鬼の本気を見せてもらった。ちょうど一本だけ『本気で打った大剣』がある。それをお前に用立ててやる」
「…………ありがとうございます。リィンさん」
金色の光を収め、軽く息を吐いた後に豪鬼さんはリィンさんにお礼を言った。
そして、リィンさんは大剣を取りに部屋の奥へと姿を消した。
「紅蓮流の秘奥義を見せてもらいました。ははは。あんなものを使われていたら、私なんてひとたまりもありませんよ」
「ははは。ご謙遜を。ラドクリフ氏には『もう一つの扉』があることはわかっていますよ」
…………なるほど、やはり見抜いていたか。
それに、そうは言っても豪鬼さんにも『もう一段階上』があるだろう。
ははは。世界は本当に広いと思う。
そんなことを考えていると、リィンさんが一本の大剣を持ってやって来た。
「…………ヤバいですね。あれはとんでもない代物です。私が使っていた大剣よりも数段上のものですよ」
「俺も見ただけでわかりましたよ。あれは伝説級レベルの大剣ですね」
リィンさんの持ってきたとんでもない業物の大剣に、俺と豪鬼さんが息を飲む。
そして、そんな俺たちの前に彼は大剣を横たえる。
「銘は『ソハヤノツルギ』と言う。SSSランクの討伐魔獣。スターダスト・ドラゴンの牙を使って打ったものだ。この大剣は使い手を選ぶ。生半可な人間が使えば……死ぬ」
「……え?そ、それってどういう意味ですか」
俺がそう聞くと、リィンさんは軽くため息をつきながら話す。
「この鞘から抜くと、この大剣は使用者の生命力吸い上げる。その吸い上げた力の分だけ力を発揮する。まぁ『妖刀』と呼ばれるものだな」
「なんでそんなものを打ったんですか!!??」
「若い頃の作品だからな。あの頃はこんなものばかりを作っていた」
俺の言葉にリィンさんは特に悪びれもせずに答えた。
「その、リィンさん。申し訳ないですが他の大剣を……」
「いえ、ラドクリフ氏。私はこの大剣が気に入りました」
「……え?」
豪鬼さんはそう言うと、ソハヤノツルギに手を伸ばす。
そして柄の部分をしっかりと握りしめて、一気に鞘から抜き放つ。
漆黒の刃を携えたソハヤノツルギ。その刃が妖艶な輝きを放つ。
「……ぬぅ!!」
「ご、豪鬼さん!!」
ソハヤノツルギは生命力を吸い上げるという妖刀だ。
今まさに豪鬼さんの力を吸い上げているのだろう。
だが、彼は体験の柄から手を離さずに一気に力を込める。
「はぁ!!!!俺に従え!!ソハヤノツルギ!!」
その瞬間。ソハヤノツルギの漆黒の刃が、満点の星空のような輝きに変化した。
「……ふぅ。これで無尽蔵に力を吸われることは無いですね。どちらの『格』が上かを示しましたから」
「さ、流石ですね……」
豪鬼さんのその言葉に俺はかなりの畏怖を感じていた。
そして、この人にとんでもない大剣を渡してしまったと少しだけ後悔をしてしまった。
一体どれだけ強くなったのだろうか……
「ふむ。命を削りながら振るう。そう思っていたが、格の違いを見せつけるレベルだったか」
「素晴らしい大剣をありがとうございます。おいくらを支払えば?」
「金なんかいらない。そのソハヤノツルギは眠らせておくものだったからな。使い手が見つかって喜んでるくらいだよ」
リィンさんのその言葉に豪鬼さんは頭を下げる。
「ありがとうございます。それではこれを使って王都の危機を救います」
「そうしてくれ。それじゃあラドクリフはもう何処かに行ってろ」
「……わかりました。豪鬼さんに合わせた形に微調整をするんですね」
俺がそう聞くと、リィンさんは首を縦に振った。
「そうだ。お前にはこのあともやることがあるだろう。そっちに行けばいい」
「ラドクリフ氏。ありがとうございました。おかげで素晴らしい大剣を手にすることが出来ました」
「ははは。豪鬼さんにそう言っていただけて良かったです」
こうして、俺は武器屋に豪鬼さんを残して店を後にした。
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