第三十一話 ~故郷に別れを告げて王都へと帰還した。そしてエリックからスタンピードに対する作戦を聞いていった~

 第三十一話





「ごめん。待たせたかな」


 ミルクに別れを告げたあと、居間へと降りると準備を終えたリーファとツキ。それと豪鬼さんが既に俺を待っていた。


「ええそうね。でも構わないわよ。必要な時間だったんでしょ?」

「ミルクはとても辛そうでしたからね。残される者の辛さは理解しているつもりですからね」

「ミルクには絶対に帰ってくることを約束したよ。あとはなるべく早く終わらせて帰って来よう」


 リーファとツキに俺がそう言葉を返すと、豪鬼さんが言葉を放った。


「スタンピードはかなり危険な魔獣災害ですからね。油断は出来ません。ですが私も微力ながら力を尽くすつもりです。この身は好きに使ってください」

「本当に助かります。ありがとうございます、豪鬼さん」




 そして、準備を終えた俺たち四人は屋敷を出て外に集まる。


『それじゃあ兄さん。大変だとは思うけど、身体は十分に大事にして頑張って』

「見送りありがとうラルフ。親父とお袋にも宜しく言っておいてくれ」

『了解だよ』


『私もベルフォード様のご帰宅をお待ちしております。ご武運を祈っております』

「ありがとうございます、レオンさん」


 身内への挨拶を済ませたあと、俺は懐からツバメの翼を取り出す。

 一枚十万Gもする高級品だが使い時をけちってはいけない。

 このアイテムで命を救われた事は一度や二度では無い。


「さて、行こうか」


「えぇ、王都を救いに行くわよ」

「私とベルフォードが居れば解決したも同然です!!」

「このスタンピードを解決したら、王都の観光をしようと思ってます。ふふふ。ラドクリフ氏にはオススメを聞かせてもらいますから」


 頼もしい三人の台詞を聞いて、俺はツバメの翼を起動させた。





 眩い光が立ち上り、身体が浮遊するような感覚に包まれる。


 軽く目を閉じてその感覚に身を任せていると、足元に軽く衝撃をうける。目を開けて外に視線を向けると、転移が終わり周りの風景が変わったことを知った。



「突然呼び出してしまい申し訳ないです、ベルフォード師匠」


 王都の冒険者ギルドのミーティングルームを指定して転移を行った俺たち。

 その目の前にはエリックが既に待ち構えていた。


「別に構わないぞ。先日も言ったと思うが、冒険者は引退したけど縁を切ったわけじゃない。それにこれ程の規模のスタンピードだ。お前だけでは手に負えないだろうからな」

「師匠にそう言っていただけると助かります。それと……もしや隣に居るのは、トウヨウの最優冒険者の剛剣の豪鬼さんでは?」


 俺の隣に視線を向けたエリックは、豪鬼さんの姿を見て驚きながらもそう聞いてきた。

 その言葉を受けて豪鬼さんは一歩前に出て自己紹介をする。


「はい。私がトウヨウの冒険者の豪鬼です。ラドクリフ氏と手合わせを願出てこちらに来ていました。王都に危機が迫っていると聞いたので、微力を尽くしにやって参りました。貴方は有名なSランク冒険者。『聖剣士(パラディン)』のエリックさんですね」

「ははは。聖剣士なんて呼び名は辞めてもらいたいんですがね。まさかトウヨウまで届いているとは。もう諦めるしかないみたいですね」

「私の剛剣も同じですよ。ラドクリフ氏の剣聖と同じように、二つ名には苦労しますね」



 自己紹介を兼ねたそんな会話をした後に、俺たちは椅子に座り本格的に話を聞くことにした。


 そして、会議を始めようかと言うタイミングで部屋の中に二人の女性が入って来た。


「ありがとう、ベル。やっぱり来てくれたのね。貴方が来てくれたのならもう安心だわ」

「ミソラの言うように、タダ働きをしに来たよ」

「ふふふ。こき使ってやるから覚悟しなさいよね」


「せっかく引退したのにすぐに呼び出されるとは運が無いよなおっさん」

「ははは。まぁ必要とされるうちが華だと思って微力を尽くすよ」


 こうしてミソラとシルビアをメンバーに加えて、スタンピードに対する会議がスタートした。


「伝書バードで連絡したように、王都を囲うように位置している四つのダンジョンにスタンピードの兆候が見られました。これはAランク冒険者のルーシーさんが見つけたものです」

「うん。手紙を見た時から思っていた事だけど、彼女の言うことなら信頼出来る。それでエリックとしてはどうするつもりだ?」


 俺がそう尋ねると、エリックには既に腹案があったのだろう。すんなりと話を始める。


「はい。まずは王都の東西南北の門に高ランクの冒険者のパーティを配置します。このパーティでダンジョンから溢れ出した魔獣を殲滅して行きます」

「悪くない。少数精鋭にすることで王都の内部に人員を残すことが目的だな?」


 俺のその言葉にエリックは首を縦に振る。


「はい。そうです。殲滅部隊では無い冒険者は王都の内部の警備に当たります。市民の混乱を鎮める役割と、どさくさに紛れて犯罪に手を染める者を捕らえる役目です。あとは万が一殲滅部隊を突破してきた場合の補助戦力になります」

「完璧な考え方だ。それで戦力の分散はどう考えている?」


 エリックにそう尋ねると、彼はそれについても考えていたようだった。

 詰まることなく俺たちに腹案を話していく。


「北の門にはルーシーさんが所属するAランクパーティ『パーティの羽根』を配備します。オークの集団がやって来ることが予想されます。彼女の成長を見せてもらいましょう」

「ははは。あれから彼女はかなりオークに対して敵愾心を燃やしているからな」


「彼女たちはこの場にいませんが、既に話はしてあります。やる気は十二分に感じられました。そしてこの場にいない冒険者たちに作戦の概要を説明してもらう役目を担ってもらってます」

「なるほどな。既にそこまで動いていたとは。成長したな、エリック」

「恐縮です」


 そして、エリックはスタンピードに対する話を続ける。


「南の門にはトウヨウの豪鬼さんが当たってください。ここは単騎で強力な魔獣が来ることが予想されます。超大型のオーガです。弱く見積ってもA++……下手をすればSランクレベルです。一体一なら無類の強さを誇るトウヨウの最優の力を存分に発揮してください」

「了解した。必ず撃滅することを約束しよう」

「本来ならこの場は師匠にお願いしようかと思いましたが、師匠には違う場所を担当してもらうようにしました」


 チームワークを必要としない場所に豪鬼さんを配置するのは悪くない。それに、超大型のオーガか……倒すとなるとかなり手を焼いていただろうな。


 終の型を使うことは必至だっただろう。


 さて、となると俺はどこになるかな?


「東の門には自分とリーファさんが担当します。ここは高ランクの魔獣が複数体。パーティを組んでやって来ることが予想されます。範囲攻撃が出来る自分とリーファさんが適任と考えました」

「了解よ。私の詠唱の時間はエリックが確保してくれるのよね?」

「当然です。師匠の奥様には指一本触れさせません」


 エリックは『魔法剣まほうけん』と呼ばれる剣の使い手だ。

 これは彼が苦悩と血のにじむような鍛錬の末に習得した技だ。


 魔力を有していたため、当初は魔法使いを目指していたが、魔法を上手く飛ばすことが出来なかったエリック。

 そのことを悩んでいたところ、俺が剣に魔法を纏わせて攻撃する知識を授けたことで、覚醒した。


 魔法剣で華麗に戦う姿から『聖剣士パラディン』と呼ばれている。


 さて、そうなると俺が担当するのは残っている西の門だな。


「そして西の門を師匠とギルドマスターのミソラさんに担当して貰います」

「あら?私まで使うのかしら?」

「ははは。冒険者を引退した人間同士、タダ働きと行こうじゃないか」


 俺が笑いながらそう言うと、エリックは少しだけ申し訳なさそうな顔で理由を話す。


「西の門が一番過酷なんです。何せ千体近い魔獣がやって来ることが予想されます。ランクは低い魔獣ですが、膨大な数がやって来ます」

「なるほどな。つまり俺が全力で時間を稼いで、ミソラの『極大殲滅魔法きょくだいせんめつまほう』でケリをつける作戦か」


 俺がそう言うと、ミソラがヤレヤレと手を広げながら言葉を放つ。


「あれを使うと疲れるのよね。キチンと私のことをベルが介抱してくれるなら構わないわよ」

「ははは。久しぶりにミソラを背負うことになりそうだな」


「引退した方や他国の方を使う形になり申し訳無いです。そしてシルビアには王都の内部で冒険者をまとめる役割を頼みたい」

「へいへい。そうだと思ったよーー。王都の中のことは私に任せておきなよ」

「ははは。頼もしいな、ありがとうシルビア。これで俺たちも安心して戦えるな」


 こうして、俺たちはエリックからスタンピードに対する作戦を共有した。


「恐らくですけど、スタンピードで魔獣がやってくるのは明日の早朝です。今日はゆっくりと休んで明日に備えましょう」

「了解だ。それじゃあ解散しようか」


 俺がそう言うと、各自椅子から立ち上がり会議室を後にした。

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