第三十話 ~豪鬼さんとの手合せに決着が着いたあと、王都から呼び出しを受けた~
第三十話
ゴトリ……
という音と共に、俺の足元に金属の塊が落ちた。
「……なるほど。互いの奥義をぶつけ合ってこの結果なら納得ですね」
「武器の性能の差が出た。そういう結果ですね」
『ふふん!!私がただの鉄の塊に負けるはずがありませんからね!!』
互いの奥義をぶつけ合った結果。豪鬼さんの大剣が中央から折れて足元に落ちた。
俺の月光は『永遠不滅』の力を遺憾無く発揮して折れるどころか、刃こぼれ一つ無かった。
「私の大剣もそれなりの業物なんですがね。ははは。流石に伝説級の刀には劣りますね」
「このような結果になってしまい申し訳ないです。私の方からの提案なのですが懇意にしている武器職人が王都に居るんです。良ければ繋ぎの武器を用意させて貰えませんか?」
「ありがとうございます。トウヨウに帰れば専属が居るのですが、ラドクリフ氏の言葉に甘えさせてもらいます」
そんな会話をしていると、手合わせを見学していたリーファが歩み寄って来た。
「勝負は着いたみたいね。流石はツキと言ったところね」
「ははは。彼女のおかげでこの結果に持ち込めたってのが大きいよ」
俺がそう言うと、月光が光輝きツキの姿へと変化した。
「私の力もありますが、ベルフォードの実力が大きいです!!彼あっての私ですからね!!」
「彼女の言う通りですね。流石は理に至った剣聖です。それに最後の一太刀は紛れもなく『剛』の太刀でしたからね」
「ははは。貴方の指南書を読んだおかげですかね」
終の型 狂月の夜は、自分の中に封印してある『力』を呼び起こす技。
人には使ってはいけない力がある。それを時間制限をつけて使うものだ。
普段は使えない『剛』の太刀が使えるのもその為だ。
だが、あまり長時間の使用は出来ない。
身体が壊れてしまう危険性があるからだ。
まぁ諸刃の剣と言った感じだな。
そして、辺りに少しだけ和んだ空気が流れている時だった。
『ピーーーー!!!!』
「伝書バードじゃないか。どうしたんだ?」
「王都からの知らせみたいね。何かあったのかしら?」
白い鳥が俺の元まで飛んできたので、手を伸ばしてそこに停める。
脚には手紙が着けられていたのでそれを広げて読むことにした。
「……エリックの文字だな」
『ベルフォード師匠へ』
という言葉と共に始められた手紙には驚くべきことが書いてあった。
「…………なるほどな。これは大変なことになったな」
「どうしたの、ベル?かなり神妙な顔をしてるわよ」
「エリックさんからの手紙の内容を伺っても良いですか?」
俺はリーファとツキに手紙の内容を話すことにした。
「王都の四つのダンジョンに『
「な、なんですって!!??」
「そんなことがあるんですか……」
「本来ならありえない話だ。でも遠見の魔法と探知の魔法を得意にしているルーシーさんが見つけたらしい。彼女の魔法精度を考えれば間違いや勘違いでは無いと思う」
「彼女が見つけたなら納得ね。オークの群れに囲まれたのを貴方に助けられてから、彼女は遠見と探知の魔法を磨いてたからね」
「それで、ベルフォードはどうするんですか?」
「エリックからの手紙にも書いてあるけど、手を貸して欲しいようだ。当然だけど助けに出るよ。四つのダンジョンが同時にスタンピードなんて起こしたら王都にとっては大打撃だからな」
俺がそう答えると、今まで沈黙を貫いていた豪鬼さんが口を開いた。
「ラドクリフ氏。もしよろしければ私も微力ながら力をお貸ししますよ」
「え?良いんですか、豪鬼さん」
俺がそう聞くと、彼は笑顔を浮かべながら首を縦に振る。
「はい。ちょうどラドクリフ氏から繋ぎの武器を用意して頂けるそうですからね。その代金くらいは働かせてください」
トウヨウの最優冒険者を繋ぎの武器一つで雇うのは申し訳ないが、彼が手を貸してくれるなら百人どころか万人力だ。
「ありがとうございます、豪鬼さん。お言葉に甘えさせていただきます」
「なに、困った時はお互い様です。トウヨウで何かあった時に、もしかしたらラドクリフ氏にも助力を願い出るかもしれませんからね」
「ははは。その時はぜひ声をかけてください。何を置いても駆けつけますから」
そして、俺たちは一度屋敷へと戻り王都へ戻る準備をしていく。
ここから王都へは『まともな移動手段』を使えば一日近くかかってしまう。
だが、ことは急を要する。なので『奥の手』を使うことにした。
「準備が終わったら居間に集まろう。そして全員が揃ったらこの『ツバメの翼』を使って一気に王都へと戻ろう」
『ツバメの翼』は定員五名を任意の場所へ一気に移動させる魔道具だ。これはとても高単価の
俺は一旦自室へと戻り、身支度を整える。
リーファとツキは別室で支度を整えていた。
それと、ツキには俺の家にある衣類なんかを少し渡していくことになったらしい。
するとコンコンと言う音が部屋に響いた。
「この気配は……ミルクだな。鍵は空いてるから開けて入っていいぞ」
俺がそう言うと、扉がガチャリと開いて感じた気配の通りミルクが部屋の中へと足を踏み入れる。
支度の手を止めて、俺が振り向いて彼女の顔を見ると、何やら思い詰めたような表情をしていた。
「どうしたんだ、ミルク。なんだか思い詰めたような顔をしてるぞ?」
俺がそう言うと、ミルクは黙ったまま俺の身体を抱き締めた。
「……また、貴方は王都に行ってしまうのね」
「まぁ……冒険者は引退したとは言っても、王都は俺にとって大切な場所だからな。俺に出来ることがあるなら、その為の力は振るいたいと思ってる」
俺がそう答えると、ミルクは俺の身体をさらに強く抱きしめる。
「行かないで欲しい。なんて言わないわよ。私はあの頃とは違うわ。子供じゃないのよ。大人のレディーなのよ」
「…………そうだな。とても成長していて、ミルクは綺麗な女性になったよ」
「なら、キスをして欲しいわ」
涙目で上目遣いでそう言うミルクに、俺は唇を重ね合わせる。
少しだけ震えていた彼女だったが、少しづつその震えが治まってきた。
そして、俺が唇を離そうとすると、首元に腕を巻きつかてそれを拒否した。
「……まだ……だめ……んぅ」
ミルクの甘い吐息を耳に感じながら、彼女と舌を絡め合う。
大丈夫。俺は帰ってくるよ。だから心配しないでくれ。
そんな気持ちを込めて、俺はミルクとキスを交わした。
そして、どちらともなく唇を話すとミルクはふわりと頬笑みを浮かべながら俺に言う。
「私は貴方をここで待ってるわ。だから絶対に帰ってきてね」
「あぁ、約束するよミルク。絶対に帰ってくる。だから心配しないで大丈夫だ」
俺がそう答えると、ミルクは笑いながら言う。
「あはは。ベルはバカよね。心配しないのは無理よ。たくさん心配するわ。不安にもなるわ。多分、貴方が居なくなれば泣いてしまうわよ」
「……ミルク」
「それでも私は貴方を待つわ。だから早く帰って来てね」
「わかった。早く帰ってくる」
「行ってらっしゃいベル。貴方の無事と活躍をここから祈っているわ」
そう言うミルクを部屋に残して、俺は居間へと向かった。
自室の扉を閉めると、中からミルク泣き声が聞こえてきたけど、俺は振り返らずにその場を後にした。
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