第二十三話 ~故郷に到着した俺はリーファとツキを長に紹介することにした~
第二十三話
『やはりベルフォードのお手入れは最高ですね。私はとても満足です!!』
「ははは。そう言って貰えると嬉しいよ」
リーファの結界の中で休息を終えた俺たちは、故郷のササンドラに向けて歩き始めた。
頭の中では俺の手入れに満足して貰えたツキが、幸せそうな言葉を言っていた。
『今は刀の身体ですが、いつの日か人の身体でもベルフォードにお手入れをしてもらいたいですね』
「そ、それは結婚をしてからかな……」
「どんな会話をしてるのよ貴方達は……」
ツキの声はリーファには聞こえない。
だが、俺よ返事の声だけで彼女はジトリとした視線を俺に向けて来た。
『リーファには味わえない気持ちの良さを、私だけが堪能出来る。ふふふ。これはとても優越感です!!』
勝ち誇ったようなツキのセリフを聞いていると、懐かしい集落の景色が見えてきた。
ササンドラ。俺が十五まで育った故郷だ。
冒険者になる!!と言ってこの集落を飛び出してからは一度も帰ってくることは無かった。
正直な話をすれば、帰って来たら故郷の優しさに甘えてしまうと思ったからだ。
年に一度は無事を知らせるために手紙を出す事にしていた。
だが、Sランクを拝命してからは忙しさにかまけてしまい、出せないこともあったけど……
特別な才能を持った人間では決して無い自分。
甘えを持っていては絶対に成功出来ないと感じていたからだ。
幸いなことに、冒険者になると言って集落を出ることに反対する人は『一人を除いて』居なかった。
その一人だけは最期まで反対してたけど、思い返せばあの娘に認めて貰いたくて頑張っていたのもあるよな。
そんな気持ちを持ちながら、俺たちは故郷の門を潜り抜けた。
『ササンドラ』
「ここが俺の故郷だよ。まずは長(おさ)に帰って来たって挨拶に行こうか。その後は実家に顔を出そうと思う」
「疲れはそれほど無いけど、辺りも暗くなって来たわね。今夜はベルの実家に泊めてもらえるのかしら?」
気の利いた宿場。何てものはこの集落には無い。
客人をもてなすのは、呼んできた家が行うことになっている。
当然だけどリーファは俺の家に泊める予定だ。
「もちろんその予定だよ。俺の実家は加工品を売る仕事をしてるから、商人を招くこともあってそれなりに広く出来てるからな。客人の一人や二人なら泊められる」
「ふふふ。それなら安心だわ」
「私だって今夜もベルフォードと一緒に
刀の姿から人の姿へと変化したツキも、俺の右腕を抱きしめながらそう言葉を吐いた。
「そうね。それじゃあ今夜も三人で寝ることにしましょうか」
「…………また理性との戦いを俺に強いるのか」
そんな会話をしていると、長の家の前までやって来た。
「集落の長。とは言ってもそれ程大きな家に住んでる訳では無いのね」
「他の方の家と余り変わりがありませんね。言われなければわかりません」
「ははは。清貧を良しとする人でな。長だからと言って無駄に大きな家に住むことは嫌がったんだよ」
商家の俺の実家の住まいの方がでかいかも知れない。
さて『あの娘』はまだこの家に住んでいるはずだ。
あれ以来姿を見せることは無かったけど、元気にしてるかな?
俺は長の家の扉をノックする。
少しすると、中から使用人が扉を開けて俺たちの前に現れる。
『こんばんは。どうかされまし……おや、これは珍しい方がやって来ましたね。ラドクリフ家のベルフォード坊ちゃんでは無いですか』
「お久しぶりです、シルフさん。お元気そうでなによりです」
初老の女性。使用人のシルフさん。
子供の頃からお世話になった方だ。
この歳になってベルフォード坊ちゃんはやめて欲しいとは思うけどな。
『凡そ二十年ぶりですかね。ふふふ。どれだけ歳をとっても目もとは変わりませんね。坊ちゃんだと言うのは一目でわかりましたよ』
「あはは。もういい歳なので、坊ちゃん呼びはやめてもらいたいと思いますがね……」
『ふふふ。私にとっては何歳になっても、貴方は可愛い坊ちゃんよ』
シルフさんはそう言った後、俺の隣に居るリーファとツキに視線を向けた。
『あらあら。もしかしてここに戻ってきたのはお嫁さんを連れて来たのかしら?』
「そうですね。二人の紹介を兼ねてここに来ました」
『それならいつまでもこんな所に立たせてしまっては失礼ね。それでは中へどうぞ』
シルフさんはそう言うと、俺たちの前に人数分のスリッパを出してから家の中へと案内した。
「今履いているものはここで脱いでいく感じで。家の中ではスリッパと呼ばれる履き物に履き替える感じでよろしく」
「わかったわ」
「了解です」
玄関。と呼ばれる場所で外履きは脱いでいく。
家の中は靴厳禁だ。
俺たちはシルフさんの出してくれたスリッパを履いて家の中を進む。
「とても綺麗な家。掃除が行き届いてるわね」
「使用人の方の意識の高さが見て取れますね」
「シルフさんはここに務めて40年になるからな。俺が産まれる前から働いてる人だよ。本当にあの人には頭が上がらない」
そんな話をしながら廊下を進み、居間と呼ばれる場所に辿り着く。
扉を開けて居間の中に入るとシルフさんは台所でお茶の準備をしていた。
そして、テーブルの前には長が椅子に座って待っていた。
「お久しぶりです、レイドさん」
俺はそう言って長のレイドさんに一礼をした。
『久しぶりだね、ラドクリフ家のベルフォードくん。冒険者になると言ってここを出てから二十年かな?元気そうで何よりだよ』
レイドさんはそう言うと、優しく頬笑みを浮かべながら俺たちを出迎えてくれた。
『もうすぐシルフさんがお茶の準備をしてくれる。椅子に座って待っていてくれ』
「ありがとうございます、レイドさん。お言葉に甘えます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺達はそう答えると、用意された椅子に座った。
少しすると、シルフさんは濃い緑色の茶と茶請けを持ってやって来た。
『昨日の事よ。隣国のトウヨウから坊ちゃんを訪ねて客人が来たのよ。その方からの頂き物で『
「俺を訪ねて、ですか。それにしても抹茶とは珍しいですね」
隣国から俺を訪ねて。一体誰がどんな用事だったのだろうか?
まぁ、詳しい話はこの後聞いてみるか。
そんなことを考えていると、抹茶を見たリーファとツキが興味津々と言った感じで言葉を紡いでいた。
「ベルが蒸らしをミスった緑茶よりも色が濃いわね」
「ふむ……と、とても苦そうな色をしてますね」
『ふふふ。このままだととても苦いのよ。でも甘いお茶請けを用意してるから、それと一緒にどうぞ』
そんなやり取りをしてると、居間の扉がバン!!と開いた。
「ちょっと!!ベルが帰って来たって本当なの!!??」
その女性を見たリーファとツキの目が細くなった。
『敵を見つけたわ』
そんな意味を持ちそうな視線に、俺の背中に嫌な汗が流れた。
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