第85話『巨竜と巨獣』
俺が業火を噴射すると同時、ダブラが鎌を水平に構えて突っ込んでくる。直撃で大量の爆炎と火花が舞い、熱風が空洞全体に荒く吹き荒れた。
クー(キメラギドラ改・陸戦特化)
攻撃A+ 魔攻撃S
防御A 魔防御A
敏捷B 魔力量A
白いキメラの肉片で強化されたダブラの魔法防御は高く、黒鱗のワイバーンの業火すら耐えた。だが首一つ分の噴射で巨体を押し返すことができ、一射目終了と同時にもう一つの首から二射目を撃って有利な距離を維持した。
「おぉぐおっ……、ぶるおぉぉぉぉぉぉ!!!」
このままではなぶり殺しにされると察したのか、ダブラは突進を諦めて足元の大岩を抱えた。それを盾にして業火を防ぎ、両手の大振りで投げてきた。
岩石巨人の片腕で大岩を叩き落とすと、すかさずダブラが急接近してきた。俺は振るわれた鎌の斬撃を紙一重で避け、続く二撃目を岩石巨人の腕でいなし、繰り出された頭突きに頭突きで応え、至近距離で睨み合った。
「ひぎょうものめっ! もうにがざねぇだ!!」
『使える部位を使うのがキメラだろ。洞窟内じゃなかったら今頃飛んでるぜ』
「ぜっだいごろず!! おでだぢにはむがっだごど、ごうがいざぜでやる!!」
『やってみろよ!! 巨竜と巨獣、良い実力勝負じゃねぇか!!』
そう言って左右の首を動かし、二方向から業火を浴びせた。ダブラはたまらず逃げようとするが、鎌を掴んで動きを封じた。辺りには絶叫が響き渡った。
このまま終わってくれればと思うが、そう楽な話はない。ダブラは鎌の部位を消して身を離し、再び猿型魔物の腕を出した。さらに土魔法か何かで巨大な棍棒を作り出し、業火を払いながら攻撃してきた。俺は炎弾を撃ちながら後退した。
(…………何だかんだ言っても、このタフさは厄介だな)
現時点の魔力総量では水レーザーを撃てない。魔物の部位での攻撃なら魔力消費を大幅に抑えられるため、キメラとしての戦い方で勝機を探る必要がある。
いっそ高度を上げるか……と思った時、上でいくつもの閃光が煌めいた。マルティアとミルゴは高い位置で戦っているらしく、細かい瓦礫が落ちてきていた。下手に戦場を移すと邪魔になるため、地上戦でダブラを打倒すると決めた。
『……まぁこの程度で苦戦してたら、世界なんて救えないよな』
独り言をつくと同時、棍棒の横薙ぎが来た。俺は地に這いつくばって攻撃を回避し、飛び掛かりの勢いでダブラの身体に組み付き、巨体を地面に転ばした。
起き上がる暇を与えず拳を打ち込むが、相手からも反撃の拳がきた。黒鱗のワイバーンの左首がへし折られ、お返しとばかりに闘牛の角を砕いた。俺とダブラは破損した部位を修復し、また殴り合った。決死の削り合いが始まった。
「ギウ、ギガウッ!!」
「おご、ぐるらっ!!」
「ギウガァ、ギギルガァァァァ!!」
「ぐるごぉ、ぐらごるらぁぁぁ!!」
叫びが鳴動し、血が飛び散り、肉が弾けて落ちる。
戦いの様相は苛烈さを増し、人語を発する暇すらなかった。
俺は渾身の力でダブラを叩き倒し、業火を放とうとした。ダブラは鎌を使って間合いを離し、身体を重々しく起き上がらせた。これまでの焼き直しのように接近戦が再開されるが、余力の差で先にダブラがよろけた。
「ギウッ、ガガウ」
「ごるっ……がぁ……」
強気に笑って見せるものの、俺も消耗が酷かった。新たな部位を生やすことはできそうになく、ここで勝負を決めることにした。
『白いキメラの肉片、そんな物があると知れて良かった。村の人を喰われたことは許せないが、お前たちと戦えたのは幸運だった』
「まだだぁ、おでは……おではまだぐいだりねぇ!」
『たくさんの人を喰ったんだ、もういいだろ。お前はそろそろ眠ってろ』
「ぶざげるなぁ!! まだ、まだおわらねぇどぉ!!」
ダブラは体勢を立て直し、両腕を大きく広げて鎌を振るった。
俺は残った魔力をすべて注ぎ、三つ首から業火を一斉に噴射した。
ついにダブラの肉体は限界を迎え、巨体が赤黒い炎に包まれて焼け焦げていく。途中でこっちの魔力が尽きるが、ダブラに変身する力は残ってなかった。
残骸から出てきたのはキメラの本体である黒い球体で、瓦礫に紛れてこの場から逃げようとした。だがキメラギドラと球体では体格差があり過ぎるため、首を伸ばしただけで捕まえることができた。俺は命乞いを聞かずに捕食した。
『……そういや白いキメラの肉片を喰ってたよな? 大丈夫か、これ?』
不安になって立ち尽くすが、これといった異常はなかった。魔力を回復させるためにもアレスの姿に変身し、安全な場所に移動してステータスを確認した。
種族 キメラ(レベル4) 名前 クー
頭 アレス 首 アレス
右目 アレス
右肩 アレス 右肩 アレス
胴体 アレス 背中 アレス
心臓 キメラ 翼 アレス
右腕 アレス 左腕 アレス
腰 アレス 尻尾 アレス
右足 アレス 左足 アレス
今回は部位一つだけの発現だった。場所も『右目』と戦闘力の上昇が見込みづらく、今までと比べると微妙な強化だ。眷属召喚も使えなかった。
「まぁまだミルゴもいる。悲観することは……っと」
突然頭上に影が落ち、何かが甲高い金属音を発して落下した。
よく見るとそれは巨大剣の魔導具で、刃の真ん中から先がへし折れていた。劣勢なのかと思って上を見上げるが、暗くて何も見えなかった。
「援護に行きたいが、まだ魔力が足りないな」
どうにかできないかと思い周囲を見渡すと、天井付近で光が発生した。
まるで空洞内に太陽が現れたかと思うほどの輝きで、その発生源を注視した。
まばゆさの中心にいるのは黄金と白銀色の甲冑を身に纏った騎士だ。右手には全身を覆えるほどの分厚い盾を持ち、左手には岩盤を貫けるような長さと分厚さの槍を構えている。甲冑全体の見た目には神聖さと高貴さがあった。
兜の後ろからなびくのは藤色の縦巻きロール髪で、騎士の正体がマルティアだと分かった。神々しい出で立ちを呆然と眺めると、凛とした声が聞こえた。
「――――ここまで手こずらせてもらって礼です。わたくしマルティア・フォン・ルドラ・イルブレスタの全力をお見せしましょう」
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