第四章『師弟』
第56話『力の確認』
街道を歩きながら俺は取り込んだキメラの力を確認した。獅子や山羊や蛇といった魔物の部位は手に入らなかったが、代わりに新たな変身が可能となった。
種族 キメラ(レベル3) 名前 クー
頭 アレス 首 アレス
右肩 アレス 右肩 アレス
胴体 アレス 背中 アレス
心臓 キメラ 翼 アレス
右腕 アレス 左腕 アレス
腰 アレス 尻尾 アレス
右足 アレス 左足 アレス
任意スキル 青の証
自動スキル 青の望・魔力消費軽減(中)・魔力自然回復(中)・自然治癒(中)
特殊スキル 眷属召喚
大きな進化点は『心臓』が使用可能になったことだ。攻撃を受けやすい外部に本体を配置しなくてよくなり、色々な危機を未然に防げるようになった。
次点は『翼』の項目だが、こちらは該当する魔物がいないので微妙だ。一応魔物の部位自体は配置可能であるため、攻撃手段の増加は期待できそうだ。
「…………あと気になるのは、やっぱスキルの方か」
自動スキルには『魔力消費軽減と魔力自然回復』が追加されている。これはキメラのレベル上げで入手したものではなく、アレスが持っていたスキルだ。
どちらも有用性が高く扱いやすいスキルだが、使用には一つ問題があった。どうも人間の部位は『最低五箇所』配置しなければ能力を使えないのだ。
(戦闘中に使うなら頭に首に胴に背中に腰、ここいら辺に配置する感じか。防御力はかなり下がるが、それだけの部位を割り振る価値はある)
昨夜使用していた攻撃魔法には『燃費』という問題点があった。水レーザーと氷の盾は強力だが、暴風十数発分の魔力を一回で消費してしまう。まともに青の勇者の力を利用したいなら人型形態の使用は必須だった。
(……それでも戦闘中じゃ三・四回程度しか使えない。攻撃が回避された時のことも考慮すると、基本はキメラの身体を使っていくことになるか)
使用可能な戦闘系の魔法は水レーザーと氷の盾、加えて身体強化魔法のみだ。
攻撃以外の魔法だと念話魔法・治癒魔法・修復魔法が挙げられるが、どれも使いこなせているとは言い難い。治癒魔法は自然治癒付きの粘液を傷に塗布した方が効果的だし、修復魔法は破損した衣服を修復するのがせいぜいだ。
(……空間収納魔法とかも使いたかったんだが、それは当分お預けだな)
現状の戦闘スタイルとして思いつくのは『青の勇者の姿による速攻』と、『キメラの姿で敵の体力を削り切ってから魔法で仕留める』の二つだ。
一見弱そうな相手でも隠し玉を持っている危険があるため、基本はキメラの姿で様子見をする必要がある。二角銀狼と武人カマキリと白いキメラと、もう俺は三回も敗北している。これ以上はただの一度も負けられなかった。
「…………さて、自分に関する状況整理はこんなもんか」
俺は上着として着ている革製ベストに手を入れ、一枚の紙を取り出した。それはこの国の地図で、名は『ガルナドル』と記載されていた。
「アレスから聞いてはいたが、やっぱ近隣にイルブレス王国の名がないな……」
時代が時代だからか、地図の完成度は目に見えて低い。国境線はぼやっとした感じで描かれており、主要都市と一部の地名しか名が載ってなかった。
一応イルブレス王国は南にあるそうだが、ガルナドル国の北には『帝国』があるとも知らされていた。騎士団長が警戒していた国であり、数百年先もイルブレス王国と敵対している歴史がある。一度行くべきだろうか。
(まぁ色々気にはなるが、やっぱり最初はイルブレス王国だな)
長い逡巡の末にそう決断し、広げた地図を懐にしまい直した。
「…………ガルナドル国は三百年後も存在してたのかな」
ふとした疑問を浮かべて歩いていると、遠方から騒音が聞こえた。
小高い丘を登って見たのは、草原を走る三台の荷馬車だった。
「あれは……」
荷馬車の後ろには全身を甲殻で覆ったイノシシ魔物の群れがいた。完全に荷馬車を頭突き壊す狙いのようで、ゴフグフと鼻を鳴らして距離を縮めている。
一台の荷馬車には魔法を放って抵抗している人物がいたが、かなりの苦戦を強いられていた。俺はただちに身構え、足に魔力を送り込んだ。
「――――せっかくの機会だ。今回はアレスの身体で行く」
身体強化魔法を発動させ、ドンと土を踏み込んで疾走した。そのまま一歩二歩と加速力を上げていき、全力の跳躍を行った。着地位置は荷馬車とイノシシの魔物の間で、落下の勢いのまま先頭の一頭を蹴り飛ばした。
「――――ゴフッ!? グフゴフ、グッフ!!」
群れは乱入者の俺に驚き、急停止して草原の上を滑った。
逃げるなら見逃す気だったが、怒りをあらわに突進してきた。
「悪いが、襲ってくるなら容赦しない」
右腕を前に突き出し、大きな氷の盾を出現させた。それで初撃の頭突きを防ぎ、盾を四枚に分裂させて右左から回り込んできた二頭を弾き転ばせた。
実力差はこれで十分に示したはずだが、イノシシ魔物は構わず攻撃を仕掛けてきた。俺は瞬時に水レーザーを照射し、三頭を一気に始末した。
「…………仲間は死んだが、まだやるか?」
別に言葉が伝わったわけではないだろうが、残った二頭は去っていった。
早速と腕から生やした八又蛇で捕食を行うと、荷馬車が俺の方に戻ってきた。
「助けていただき、誠にありがとうございます。わたしはこの行商団の長、名はハリンソ・トルスカと申します。以後お見知りおきを」
「俺はクーって言います。ひとまず無事そうで何よりです」
ハリンソの背は高く、全体的にさっぱりとした見た目の青年だ。いかにも敏腕商人といった感じで、『行商団の長』という肩書がしっくりきた。
「冒険者の方でしょうか、とても優秀な魔法をお使いになるのですね」
「そんな大したものじゃありません。上には上がいますから」
「……その実力でご謙遜ですか、お若いのに大したものです」
「ただの事実ですよ。あまり褒められた戦績じゃないもので」
そんなこんな会話していると、ハリンソはイノシシ魔物を買い取りたいと言ってきた。俺としては一頭を喰った時点で用済みで、処分は任せることにした。
提示された代金は金貨二枚と銀貨五枚だ。日本円換算だとおおよそ五万円程度の価値だが、魔物自体の相場が分からないので適正価格かは不明だ。ここは顔を売っておくのも良いだろうと考え、ハリンソの提案を呑むことにした。
「ハリンソさん。近場の町まで行きたいんですが、案内を頼めますか?」
「えぇ、構いませんよ。あなたほどの魔法使いなら大歓迎です。むしろこちら側から護衛依頼を申し出たいところでした」
俺たちは護衛と道案内の契約を相互に交わし、握手をした。
行商団を守れる位置で立っていると、俺に近寄ってくる人影があった。その人物は小柄な少女で、つばの広い三角帽子に紺のマントを纏っている。さっき荷馬車の上から魔法を放っていた相手で間違いなかった。
「あ、あの! 凄い素敵な水魔法でした。あれほどのキレに威力、生まれ故郷の村でも町でも見たことがありません! 感無量です!」
「…………えっと、君は?」
「あっ、そうでした。最初は自己紹介でした。すいません!」
その声には聞き覚えがあり、まさかと動揺した。少女の肌は透き通った白さで、短めの髪はサファイアのように青く、目元は元気そうに愛らしかった。
見れば見るほどに見覚えがある顔立ちで、半信半疑に目を瞬かせた。そして一陣の風が吹き抜けた瞬間、ハッキリとした声でその名が告げられた。
「――――ボクはイルン・フェリスタと申します! よろしくお願いします!」
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