第30話『ワーウルフリザード』

種族 キメラ 名前 ワーウルフリザード

総合ステータス

攻撃B  魔攻撃B

防御B  魔防御C

敏捷D  魔力量B

部位

頭  二角銀狼 首 スライム

胴体 蜥蜴男  背中 斑煙茸

右腕 蜥蜴男  左腕 蜥蜴男

腰  蜥蜴男  尻尾 キメラ

右足 蜥蜴男  左足 蜥蜴男

任意スキル 風魔法レベル4・スタミナ消費軽減(大)・遠隔索敵(中)・威圧の咆哮・消化酸・煙幕胞子・外殻強化・武器装備・筋力増加(中)

自動スキル 危機察知(中)・風属性ダメージ軽減(中)・物理攻撃力上昇(小)・防御力上昇(大)・物理軽減(微)・自然治癒(中)・反射力上昇(小)

特殊スキル 眷属召喚


 肉体の中心となるのは特異個体の蜥蜴男だ。胴体・腕・足は堅牢な鱗と棘の外殻で固め、背中に目くらまし用の斑煙茸を採用する。首元にスライムを纏わせて全体の防御を底上げし、尻尾には本体となるキメラを配置した。

 暴風発射能力がある二角銀狼を顔にセットしたため、『狼男(ワーウルフ)』似の外見になる。細かく動かせるようになった手を開き閉じ、真下に手を伸ばした。


「――――ギウ、ガァァウ!!」


 地面から掴み取ったのは二本の大剣だ。昨夜のうちにココナから騎士団長へと使用申請を送ったもので、かなりの威圧感と重量感がある。転生前は一般人なので剣の心得はないが、蜥蜴男の武器装備スキルのおかげで手に馴染んだ。


「ほう、元の魔物も武器を使っていたが、君もいける口か」

「ギウゥ……」

「違うと言っているのかな? 何と言っているのか分からぬのが残念だ。さて武器を扱う魔物と戦う経験は早々ない。どれほどのお手並みか試すとしよう」


 そう言って騎士団長は剣を軽やかに振るった。虚空を薙ぐ剣筋にはまったくのブレがなく、素人目でも美しいと分かる。深紅のマントに白い軽装鎧といった装備も様になっており、いかにも物語の主人公といった雰囲気だ。


(……まるで俺は退治される魔物だな。ま、面白れぇじゃねぇか)


 内心で呟くとまた銅鑼の音が鳴った。審判を務める男性が魔石を宙に投げ、地面に接触すると同時に光が瞬く。――――ついに戦闘が開始された。

 俺は様子見などせず、初手で大口を開けた。

 キィンという耳鳴りが闘技場全体に響き、生徒たちが一斉に耳を覆う。

 狙いを定めて暴風を発射するが、騎士団長は涼やかな笑みでその場に留まった。回避しなければこれで終わり……、そんな甘えた考えは一瞬で吹き飛ばされる。

 騎士団長は剣を縦横無尽に振り、重ねた斬撃で暴風をかき消した。よく見ると騎士団長の剣の鍔には魔石が装着されており、刃全体に薄っすら魔力が灯っている。どうやら魔術の力で斬撃を飛ばしたようだ。


(はっ、ファンタジー上等な技じゃねぇか!!)


 俺は瞬時に攻撃手段を切り替え、風の弾丸を連続発射した。

 一発でも当たれば勝利というルール上、この攻撃方法が一番理に適っている。だが騎士団長は風の弾幕をかすりもせず避け、少しずつ間合いを詰めてきた。そして直撃コースの弾丸を切り払い、剣を突きの体勢に構えた。


「――――その程度かな? ではこちらから行くとしよう」


 その声が聞こえると同時、騎士団長が突っ込んできた。俺は反射で大剣を振るうが、ギリギリ防御が間に合わず肩関節を切られる。ただの蜥蜴男ならば動きを封じられるところだったが、物理軽減スキルのおかげで耐えられた。


「……固いな。防御を抜くにはもう少し威力を高める必要があるか」

「ギオゥ! ギウガ!」

「失敬、様子見は失礼だったな。ではさらに速度を上げるぞ!」


 言葉の通り移動速度が何段も上がった。俺も反射力上昇や危機察知のスキルを駆使して立ち回るが、なかなか騎士団長を捉えられない。

 一度応戦の途中で暴風を放ち、騎士団長を後方に退かせる。再度風の弾丸を撃って動きを封じ、連射しながら一歩ずつ歩き寄る。そして一定の距離で突っ込んだ。


「ギガァァァァァァァァ!!!」

「ほう、ここで攻め込んでくるか、面白い!」


 決して考え無しの攻撃ではない。猛進の理由は後方のリーフェを守るためだ。

 未だ歌魔法は発動しておらず、幾分時間を稼ぐ必要がある。一応ココナが護衛についていてくれるが、騎士団長相手では分が悪いどころの話じゃない。

 渾身の力で大剣を振り下ろし、闘技場の地面を叩き割った。同じ攻撃を何度も繰り返し、反撃の隙を与えずに追い詰めていく。斬撃が命中する気配はないが、それで良い。逃げるほどに足場が不安定になるからだ。


(このまま行けば騎士団長の機動力を封じることができる。行けるぞ!)


 しかし数度目の大振りを繰り出した瞬間、反撃を受けた。

 騎士団長は俺が行った上段からの振り下ろしに合わせ、剣のすくい上げで手首を切り落としたのだ。無事な片手で剣を横薙ぎに振るが、斬撃の隙間を縫われて肩口を深く切られてしまった。


「悪くない動きだったが、気が抜けたな。これでは迷宮の焼き直しだぞ」

「………………」

「それで終わりではないのだろう? もし終わりだと言うのならば、この剣が大切な主を切り裂く。命を賭して、王国最強の騎士を討ち取るがいい!」

「ギィィ、ガラアァァァァァ!」


 俺は切られた腕部分に亀魔物を生やした。広く厚い甲羅は盾に、大きな口は指の代用として使い、落とした剣を拾い上げる。怒号を響かせ切り掛かった。

 このまま戦闘を続けてもジリ貧だが、ようやく準備が整った。後方からリーフェの清らかな声が響き、身体の奥から沸々と力が湧き上がってきたのだ。


(――――さぁ見せてやろうぜ、リーフェ!)

 勝利への布石がすべて揃う。俺は全力で騎士団長と対峙した。




 …………クーちゃんが激しい戦闘を繰り広げている間、『私』は目を閉じて周囲の音に耳を傾けていた。重なり合う鉄の甲高い音、地面に転がる石の落下音、生徒たちの期待と不安が入り混じった歓声、すべてをこの身に刻み込んで馴染ませた。


(…………トン、タン、タンタン、トン、タン)


 身体を揺らしてリズムを取り、この場で紡ぐべき歌の曲調を探る。クーちゃんの音は押され気味だが、決して焦らずに歌魔法発動に意識を割く。心の奥底に眠る魔力の蓋をゆっくり開け、全身に力の奔流を行き渡らせた。


(これが騎士団長の音、そしてこれが大切なクーちゃんの音)


 周囲の音すべてが自分のモノになっていく。全能感すら覚える感覚のまま口を開くと歌詞がスラスラ出てくる。奏でるのは仲間を想う戦いの歌だ。


(――――待たせたね、クーちゃん。今行くよ)

 三百年前に失われた伝説の魔法。古の力が今、諸人の前で解き放たれる。

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