第12話『伝説の魔法』
歌魔法の力を受けてか、二角銀狼は表情を歪ませる。どうやらこの力は味方を強化するだけじゃなく、敵を弱くすることも可能なようだ。
二角銀狼
攻撃D- 魔攻撃B-
防御D- 魔防御E-
敏捷B- 魔力量B-
キメラ(ウルフスライムプラント)
攻撃D+ 魔攻撃D+
防御D+ 魔防御D+
敏捷C+ 魔力量D+
総合力では未だ劣っている自覚があったが、それでも差は縮まってくれる。あれだけ強大に見えた二角銀狼の姿が、今は少しだけ小さく見えた。
(これ以上ない援護だぜ、リーフェ。二人でこの戦いを決めるぞ!)
互いの距離は遠く離れていたが、「うん」と返事が聞こえた。
俺は威嚇の咆哮を上げ、回復した魔力で岩砲弾を発射した。その速度と連射力はこれまでと比較にならず、相手の回避力を上回って一発が胴体に着弾した。
「――――ガッ!!?」
まさかダメージを受けるとは思っていなかったのだろう。二角銀狼は痛みによる鳴き声を上げ、初めて身を退いた。ここで逃げるのなら追う理由はなかったが、強者の矜持かその場に留まって威嚇してきた。
例え歌魔法があっても俺みたいな雑魚には負けない。そう告げられた。俺も不敵な笑みで応え、渾身のひと吠えを返した。
一歩二歩と慎重な足取りで進み、互いに視線でけん制し間合いを計る。
夜の森にリーフェの歌声が響き渡り、穏やかな曲調は次第に変化していく。まるで長きに渡る戦いの決着を演出するように、声に重さと勢いが加わり始めた。
先手を取って仕掛けてきたのは、なわばりの支配者たる二角銀狼だ。ドンッと大地を蹴り上げ、大口を開けながら暴風を放ってくる。俺は射線から外れるように横っ飛びし、増した加速力で追撃の爪を振り切ってみせた。
「――――――ギィ、ガウッ!!」
反撃としてツタを鞭のようにしならせ、二角銀狼の胴体に巻き付ける。
その状態で木々の間を巡り、身動きできないように縛り上げた。
二角銀狼は爪を振るってツタを切り裂くが、身体の構造上すべてを外すのは不可能だ。だがとどめを刺そうとした瞬間、二角銀狼は足元に暴風を撃った。自傷覚悟で邪魔な拘束を外し、目に殺意を浮かべて飛び掛かってきた。
俺はリーフェの力を信じ、真正面から受けて立った。
「――――ギッガラララアアァァァ!!!」
「――――ゴルッグアアァァァァァ!!!」
ザシバシと爪と牙がぶつかり合い、辺り一帯に血と毛が飛び散っていく。この距離なら暴風は放てず、決定打に掛ける決死の削り合いが続く。
通常なら先に力尽きるのは俺だが、今は耐久力が上がっている。初期装備の自然治癒スキルも良い効果を発揮してくれた。
(――――これでっ!!)
ゼロ距離岩砲弾をお見舞いし、その巨体をよろけさせた。間髪入れず頭突きを喰らわせ、体勢を崩して地面に転ばせた。
二角銀狼はすぐ立ち上がるが、顔を上げた先に俺はいない。背後に回り込んでツタを絡ませ、渾身の力で茂みの先に投げ飛ばした。
投擲方向にはあの急斜面があり、二角銀狼は勢いを殺せず落ちる。だが向こうもやられたままでは終わらず、ツタをもの凄い力で噛んで引っ張ってくる。結果俺も二角銀狼と同じく斜面へと滑り落ちた。
位置関係は俺が上で、二角銀狼が下だ。滑走状態ではなかなか攻撃が当てられず、斜面の中腹まで岩と風の弾丸による撃ち合いが続く。
このまま下まで落ちて戦いを継続するか、答えは否だった。
(急斜面が壁になってリーフェの歌声が聞こえない。俺に掛かっていた強化も消えている。勝負を決めるのはここ、一か八かに賭けてやる!)
即座に身体を変身させると、二角銀狼が驚愕した。
地鳴りを響かせ転がるのは、横倒しになった岩石巨人の腕だ。
全力の回転によって勢いが生まれ、岩の腕は雪崩のように斜面を下っていく。満足な移動ができない状態でこの攻撃範囲を回避するなど不可能、二角銀狼は焦りを浮かべて暴風を放った。
(――――お前とはこれで終わりだ! 潰れろぉぉぉぉ!!)
渾身の叫びを上げ、必殺の一撃を二角銀狼の身に当てた。
肉体は月明かりを浮かばせて宙を舞い、まっすぐ地面に落ちた。
遅れて岩石巨人の腕も三層へと落下し、凄まじい轟音と土煙が上がる。すぐに変身を解いて二角銀狼の傍まで近寄るが、ピクリとも動かなかった。
こうして長い長い夜の戦いは幕を下ろした。
…………次に目を覚ました時、辺りは明るくなっていた。遠くからは小鳥のさえずりが聞こえ、遠方の山々からは陽光が差し込んでいる。
酷い疲労感と全身の激痛を感じながら身を起こすと、自分の姿が二角銀狼となっていることに気づいた。遅れて思い出したのは昨夜の戦闘で、すぐ横にある血だまりをぼうっと見つめた。
(……そうか、俺は勝ったのか)
あの後二角銀狼を喰らい、そのまま眠りについた。無防備な状態だったのに他の魔物に襲われなかった幸運に感謝し、心の中で手を合わせ拝んだ。
いちいち魔物を弔う趣味などないが、二角銀狼とはライバル的な関係があった。一方的な思い込みだとしても、あの戦いには個人的に敬意を払いたかった。
一分ほど目を閉じ、顔を上げて二層を見つめた。
(そういや俺が気を失っている間に、リーフェはどうなったんだ?)
あれほどの戦いをして、広範囲に響く歌魔法を使って、飛行船がリーフェを見逃すことなどあり得ない。だがもしもという思いはどうしてもよぎった。
二角銀狼の首元からツタを生やし、ゆっくりと急斜面を登っていく。そして二層へと足を踏み入れ、イヌ科の嗅覚を頼ってリーフェを探した。
そうして見つけたのはスライムを喰った雑草広場に停泊している飛行船だ。外には軽装の金属鎧を着た一団がいて、周囲を警戒しつつ何か調査を行っている。
一人一人大人たちの顔を見ていくが、悪そうな連中には見えなかった。そう見えただけの可能性はあるが、ひとまずは安心した。
ふと奥にテントを見つけ、リーフェがいるのを確認した。
近くには白衣を着た男性の他に、同じ年頃の女の子がいる。髪は燃えるように赤く、気が強そうな顔立ちをしている。身に着けている装備は一団と同じものだ。
薄っすらと二人の声が聞こえるが、仲睦まじそうな雰囲気だった。
(あれがリーフェの友達か? そうか、再会できたんだな)
友人の一人として嬉しくなり、このまま去るのもいいかと考えた。あの一団の前に魔物の俺が姿を現すのは危険だし、病の脅威が去るのならば目的達成とも言える。最大の課題だった歌魔法も使用できた。
ずっと一緒に居ようと決めたのはあくまで俺だけ、約束はまだだ。踵を返して森の中へ戻ると、耳にリーフェの声が届いた。まさかと思い振り返った。
「――――魔物さん! 待って、行かないで!」
周りの大人の静止を振り切り、リーフェは俺の元へと駆け寄ってきた。
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