3話・少女と存在感
部活が休みの曜日な為、今日も今日とて4階にある生徒相談室へと足を運ぶ。
授業中に起こったある出来事が予知夢に次ぐ能力ではないかと目を輝かせながら足取り軽く階段を登ってゆく。
生徒相談室の扉前へと到着すると、コンコンコンコン、といつもより多めに扉を叩く。すると中から「はいはーい中村さんですね、入って来ていいですよ」と声が聞こえる。気持ちが昂ぶるあまり勢いよく扉を開けてしまった。
「失礼します」
「おや、いつもより元気そうで、何かいいことでもあった?」
「さすが先生、分かりますか」
表情の変化が乏しい叶夢だが、今日は目に見えて気分が高揚しているのが分かる程のオーラが出ているようだ。
素早く鞄を机の横にかけ椅子に座る。話す準備を万端にする。
「良いこともありましたが、それよりもこれは予知夢に続く能力ではというものを思いつきました」
「それは楽しみだ、ぜひ聞かせてほしい」
透も椅子に座るのを確認した後、叶夢は早速話を切り出した。
「まずはですね、今日あった良いことを。授業中に順番に指されるという嫌な時間があったのですが、先生は自分を1つ飛ばして当てられなかったのです。指されずにすんだのです。良い事がこれです。そしてですね、そこから、これが漫画等によくあるあの能力ではないかと思ったわけです」
普段より声高に流暢に話す叶夢。透は「うん」と相づちを打ちながら聞いている。
「人に気づかれない影の薄さ!これは予知夢に続く能力ではないかと思ったわけです!」
「影の薄さ?」
「はい、気づかれない影の薄さです。お店の自動ドアに反応されず頭をぶつける程度の力はあります」
透はうーんと少し悩んだ後、初めて訪れた時のように解説をし始めた。
「確かに、それは予知夢と同じ君の個性だね。それと、前と同じように持論込みの説明をしてもいいかな?」
「どうぞ」
「影の薄さっていうのはいか空間に溶け込みやすいかって事だと思うんだ。そこにいて当たり前のような、かといって目立たない」
「いて当たり前・・・」
「そう、そして中村さんはここではよく話すけど教室ではあまり話さず静かにしてるんじゃないかな?プラス身長が高くもなければ動きも少ない、身体も表情もね」
確かにその通りであった。叶夢は、基本的には受動的な人間の為、自ら率先して話に行くことがあまりないのだ。そこに加え表情の固さが空間に溶け込む影の薄さを作り出しているのではないかと透は考えた。
「予知夢が頭脳からくる能力だとしたら、影の薄さは中村さんの身体の動きからくる後天的な能力じゃないかな?」
「流石の洞察力ですね先生」
「でしょ?伊達に
分かりやすい説明に叶夢は感服し、伝えたいことが伝わった気持ちで心が満たされていた。
「これが聞いてほしかった事です。予知夢と空間に溶け込む影の薄さ、これからはこの2つの能力を活かして生活してみせます!」
「うん、頑張って」
「今日はありがとうございました!また来週に来ますね」
「待ってるよ」
そう言うと、一礼をし鞄を手にして教室を後にするのであった。
夢見る少女は未来を識る 蔵密 りす @kujaku02
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