第25話 俺は心優さんの口からマクロンからショルツに変更と聞く。
スーゼリアからの帰り。
行き同様に俺がナビゲーター役を買ってでたこともあり、心優さんはわき見運転で事故を起こすことなく目的地にたどりつくができた。
しかしカックンブレーキは健在だった。
よって俺は時間貸し駐車場に着いたあとも、気持ち悪さから助手席から降りることができなかった。
「すいません、心優さん。ちょっと酔ったみたいで、休んでからいきます。心優さんはさきに行ってください。要冷蔵の物もあるだろうし。ローテーブルと布団は俺が持っていきますので。おえ」
「ごめんね、蒼太君。私、運転下手だから酔っちゃったんだよね。じゃあ、鍵渡しておくから先に行ってるね」
「はい。お願いします。おえ」
俺は心優さんから車の鍵を受け取る。
彼女からロックのボタンを押せばいいと説明された。
あの重量感の荷物を二つも持たせるのは、忍びないが、俺が持ったところで、途中で足が止まってしまうだろう。最悪、無理をしたせいで吐しゃする恐れだってある。
窓を開けて車の中にとどまっているのは最適解だろう。
しかし、万が一のこともある。吐いてしまったときのことを考えて袋を用意しておいたほうがいいかもしれない。
袋か。袋なんてあるのだろうか。
最小の動きで確認できるところからと、俺は〝心優さん、開けさせてもらいますね〟と心中で一言声を掛けると、グローブボックスを開けた。
グローブボックスの中にはナビの説明書や布のペンケース、あとはB6サイズのノートやポケットティッシュが入っている。どうやら袋はないようだ。
あれ? これはなんだろう。
ノートの下に手を入れると、一枚のちょっと硬めの紙の感触。
俺はそれを引き抜く。
写真だった。
そこには心優さんと一人の男性(年の頃、二七、八の短髪イケメン)が仲睦まじく映っていた。
男性のほうが右手で心優さんの肩に手を回して左手でピース。心優さんは両手でピースしている。二人とも笑顔を浮かべていて、それは誰がどう見ても恋人同士にしか見えなかった。
二〇分ほど車の中で休んだあと、俺は部屋へと戻った。
すると心優さんが、心配そうな顔で「もう、大丈夫?」と聞いてくる。
「はい。万全ではないですけど、なんとか」
心優さんは俺が車から持ってきたローテーブルと布団を居間に持っていく。
「でも、本当にごめんね。ゆっくりブレーキを掛けようって心がけてるんだけど、なんか力んじゃって。それでガックゥゥンッ、ガックゥゥンッって」
カックンです。
ガックゥゥンッだと、間違いなく車の中で吐き散らかせいています。
「いわゆるサンデードライバーとか運転が久しぶりの人には多いそうですからね。だからやっぱり慣れなんじゃないでしょうか」
「慣れかぁ。あんまり車乗ろうとしないし、慣れるまで先が流そうだよね。――あ、そうだ」
「どうしました?」
「いっそのこと、ぎりぎりになってから急ブレーキ踏むっていうのはどうかな? そうすればガックゥゥゥンッは一回で済むと思うんだけど」
改善策がダメ過ぎてびっくりした。
「尚更、ダメですよ。そのギリギリの判断を間違えたら、例えば前に止まっている車に衝突しますよ」
「だよねぇ。やっぱり慣れるしかないかぁ」
その慣れるにしても、一人で運転させるわけにもいかないだろう。後部座席の怪しげな安全祈願コーナーを正直、俺は信用していない。あってもなくても、頻繁にナビに目を向ける心優さんは事故を起こしやすいと思えた。
今まで大きな事故を起こさなかったのは運が良かっただけかもしれない。
ところで、スーパーで買った食料品などは冷蔵庫に仕舞ってくれたのだろうか。
俺は冷蔵庫のドアを開けようとする。あんな大量の食材が138リットルの冷蔵庫に入るのかという疑問を抱きながら。
すると――
「あっ、だめぇぇっ」
と心優さんの制止の声。
冷蔵庫を開けるなということか? しかし俺はすでに冷蔵庫を開いていた。
ドシャシャシャシャァァッ。
冷蔵庫の中から物が落ちていく。
「うわわっ! え、ええぇぇ…………」
間違いない。
心優さんはキャパオーバーを承知で、強引にすべてを食材を冷蔵庫に詰め込んだのだ。だから開いたら不安定な材料が落ちた。当然の帰結である。
「ごめんなさい。なんとか全ての食材を入れたくて、そうしちゃったの」
「その気持ちが分かりますが、にしてもちょっと入れすぎだったみたいですね」
俺は落ちた食材――野菜に手を伸ばす。
そこへ心優さんもやってきて、同じように野菜をかき集め始めた。
「うん。でもね。どうせ落ちた分くらいの量は今日の晩御飯用に使い切っちゃうんだ。だから晩御飯を作る際にボストンバッグを開いておいて、それから冷蔵庫を開けて落ちた材料をキャッチする予定だったの」
そんな奇抜な事後対策を用意したうえで冷蔵庫に物を突っ込むの、心優さんくらいだと思いますが。
「でもそれだと晩御飯まで冷蔵庫開けられませんね」
「そこだよね。即席で思いついた方法だったけど、安易だったよね」
はい。めちゃくちゃ。
実際その方法は驚きだったが、なんとなく心優さんらしいなと思っている俺がいた。残念系であるがゆえに。
「また適当に突っ込んでも、俺が忘れて開けかねないので、これらは台所に置いておきましょう」
俺は心優さんと協力して赤ピーマンやトマトにセロリ、黄色のパプリカやズッキーニを台所へと置く。台所自体も狭いので、料理する際にはまた別の場所に移動することになるだろうが、とりあえず。
それにしても野菜の種類が多い。別に野菜嫌いとかじゃないのでいいのだが、一体どんな料理を作るつもりなのだろうか。
「あの、心優さん、聞いてもいいですか?」
「なぁに?」
「今日の晩御飯って何なのかなぁって思って。野菜をふんだんに使った料理ですか?」
「うん、そうだけど……え? もしかして蒼太君、野菜とかダメな人?」
心優さんの表情が曇る。
「いやいや、そんなことないですよ。普通に食べれます。ただ野菜が多いんで気になっただけです」
「良かったぁ。もし蒼太君が野菜嫌いだったら、マクロンからショルツに変更で材料ないから十文字腹で自死してたところだよ。はぁ、良かったぁ」
マクロンからショルツ!?
そこが意味不明で、十文字腹に突っ込めないんですがっ??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます