第23話 俺は心優さんとファミレスに入店する。
「何、見てたの? やっぱりライトノベル?」
「そうですね。だいたい、本屋に行くと最後はそこでラノベを眺めてます」
今日は射手園部長との会話に注力していて、そんなに眺めてはいなかったが、敢えて口にすることでもない。
「分かるなぁ。その好きな物を眺めるって気持ち。私もウィンドウショッピング大好きだから。蒼太君はあんまり好きじゃないよね? 女性のウィンドウショッピングに付き合うのって」
「女性のウィンドウショッピングに付き合ったことがないんで、なんとも」俺は心優さんの思考を読む。「だから今度、心優さんのウィンドウショッピングに付き合ってみて、どんなものなのか知ってみたいという気持ちもあります」
予想通り、心優さんの表情が明るくなった。
「本当にっ? 実は言うと蒼太君と一緒にウィンドウショッピングしてみたいなっていうのがあったらから、今度誘ってもいい?」
「もちろんです」
「やった。でね、もしも蒼太君がこの服いいなとか、この靴私に似合いそうだって言ってくれたら、それ買っちゃおうかなって思ってる」
「それ、すごい責任重大ですね」
「うん。私のファッションは蒼太君のセンスに掛かっている」
元々、ファッションセンスのいい(パジャマは除く)心優さん。
フェミニン系がばつぐんに似合う彼女だから、その系統を外さないアイテムを選ぶ必要があるだろう。
ところで心優さんは両手に買い物袋をぶら下げている。どっちの買い物袋もパンパンで重そうだ。
「それ、俺持ちますよ」俺は心優さんが何か言う前に、二つの買い物袋に手を伸ばす
「え? 一つは持つよ」
「今まで二つ持っていたんですから、今度は俺が持ちます」
半ば強引に買い物袋を受け取る俺。
重っ!
どっちも七、八キロはありそうな重量である。
こんな重い物を両手に持ちながらおくびにも出さなかったのは、俺への遠慮に違いない。その気遣いは嬉しいが、これは気兼ねなく頼んでほしかった。
男女平等を声高に叫んでいる昨今、古い考え方なのかもしれないが、重い物は男が持つべきである。
「ありがとう、蒼太君」
「いえ。これくらいはさせてもらいます」
俺と心優さんは駐車場へと歩き出す。
そのとき、心優さんが思い出したようにこう述べた。
「あ、そういえば本屋の入口ですれ違った子、可愛かったなぁ」
「入口ですれ違った子、ですか?」
ん? それって……。
「うん。多分、高校生くらいなんだけど、ボブカットでボルドーのミニスカートを履いていたかな。颯爽としていてクールな感じで顔立ちも整っていて、可愛かった」
その感想からしてやはり射手園部長だろう。
実際に射手園部長が心優さんのとなりをすれ違ったのを見たのだから、間違いない。
「それは……見たかったですね。心優さんがそこまで褒めるなら」
「うん。見たら蒼太君も絶対、可愛いって思うはず。若くて可愛いって無敵だよね」
射手園部長が可愛いのは知っている。
私服は初めてだったが制服とはまた違った趣もあり、いつもとは違う心情を抱いたものだ。
それはさておき。
「心優さんだって、充分可愛いし若いですよ。それに心優さんには大人の色気もあってそれこそ無敵だと思います」
それとおっぱいの大きさだったら圧勝ですよ。とも思ったが当然、口には出さない秘めたる喝采である。
「……蒼太君ってさ、サラっとそういうこと言ってくるよね。すごく嬉しいけど、もしかして、色んな子にも言っちゃったりするの?」
「まさか。だいたい、色んな子に言えるほど、知り合いの女の子いませんし、いるとしたらラノベ同好会の部長、射手園さんくらいですよ」
「でた。例の射手園さん。蒼太君が多大な興味を抱いている女の子」
「多大じゃないし、心優さんが思っているような興味も抱いてませんってっ」
「昨日の夜、その割にはよく彼女のこと話してたけどなぁ」
小悪魔のような顔の心優さん。
多分、からかってる。あるいは……何か探ってる?
「そのあと、長沼のことだって同じくらいの熱量で話そうとしたんですよ。そしたら心優さん、寝ちゃったから」
「そうだっけ? でも長嶋さん? くん? ってだけだっけ」
長嶋じゃなくて長沼なんだけど、訂正する気も起きなかった。
多分、心優さんにとって――いや、俺にとっても長沼智樹という存在はその程度なんだと思う。なんとなく、あいつに相応しい立ち位置だと思った。
◇
スーパーで買った商品をトランクに乗せたあと、お昼ご飯をどうしようかという話になった。
時刻は一一時三〇分。
充分にお昼時であり、俺の腹は食料を要求するかのように、ぐぅぅぅっと鳴る。
それを聞いた心優さんはフフッと笑うと、
「そこのファミレスで食べていこっか」
とスーパーの横に隣接したファミリーレストランを指さした。
外食産業の大手、スーゼリア。おいしいイタリア料理を低価格で提供してくれる庶民の味方。メニューを脳裏に過らせたら、またしても腹が鳴る。
「いいんですか? 俺は帰ってからカップラーメンとかでもいいんですけど。確かストックがあったと思います」
「一度お腹空いたの意識しちゃうと我慢できない質――じゃなかったっけ。いいんだよ、我慢しなくても」
よく覚えてらっしゃる。
「ではお言葉に甘えて」
「うん」のあとに、心優さんは小声で(夜はマクロン。昼は……誰だっけ?)と独りごちる。
まったくもって意味不明だった。
スーゼリアに入店すると窓際へと案内される。
なんでも頼んでいいよと心優さんは言うが、だからといって無遠慮に注文する気はない。俺はドリアとマルゲリータピザを選び、心優さんはカルボナーラとシーザーサラダを頼んだ。ドリンクバーは二人ともセットにした。
「育ち盛りなのにそれだけで足りるの? ハンバーグステーキセットとチキンのチーズ焼きも足したら?」
いや、大食い選手権じゃないんだから。
「そんなに食べれませんよ。それにあんまり食べ過ぎると、心優さんの作った晩御飯が入らなくなっちゃいますから」
「あー、そっか。そうだよね」
納得してくれた心優さんが店員を呼び出す。
すぐにやってきた店員は、てきぱきとした接客をしたのち一礼して去っていく。
それにしてもファミレスか。
利用するのは、それこそ俺がファミリーの一員として両親と一緒にいたとき以来かもしれない。なんとなく周囲を見渡していると、奥のテーブルの客と目があった。
客は男が二人。一緒のタイミングで視線が合ったわけじゃない。先にその二人が俺と心優さんのいるテーブルを見ていたんだと思う。
なんでいるんだよ。
俺は気づかないふりをすると、その客――クラスメイトの男二人から目を逸らした。
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