第21話 俺は心優さんに布団と枕をおねだりする。
「このローテーブル、良くない? 大きさも丁度いいし色も可愛いかも」
家具コーナーの一角。
無事、ホームセンターに着いた俺と心優さんは、今そこにいた。駐車スペース内で車が斜めになっていたが、どこかにぶつけなかっただけで良しとしよう。
「いいですね。コンビニ弁当とか色々置いたときの窮屈感はなさそうですね」
心優さんが頬を膨らませてムスッとした顔を向ける。
「なんかそれ、今日の晩御飯もまた私が作らないの前提にしてるみたいで、嫌な感じー」
「い、いや、そういうつもりで言ったんじゃないですよ。物の例えですよ。物の例えっ」
「ふふ、ウソウソ。分かってて言ってみた。今日の晩御飯は楽しみにしててね。このローテーブルいっぱいに並べちゃうんだから」
それは普通に楽しみだ。
心優さんが料理が上手なのは、朝ご飯が証明している。
ほかが残念でも、美人でおっぱいが大きくて料理が上手なら別にいいじゃないか。それでも俺には充分すぎる。おっぱいのカップはGでもいいくらいだ。
そんなGではなくHカップの心優さんが、段ボールに入ったローテーブルをカートに乗せようとしている。
「俺やりますよ。軽そうに見えて重いでしょうから」
「ありがとう、蒼太君。やっぱり頼りになるよね。男の人って」
「いえ。これくらいのことはやらせてもらいますよ」
俺みたいな年下の細身の男でも頼りがいがあるのだろうか。
心優さんの筋力がいかほどかは知らないが、肉感的な体をしているわりには、力はないのかもしれない。肉感的な体=力持ちという説を聞いたことはないけれど。
とういうか、このローテーブルで決定なのか。
色が淡いオレンジ色のパステルカラーで女性っぽさ全開なのがアレだが、お金を出すのは心優さんである。彼女のルンルン気分に水を差すのは止めておこう。
それに俺は、心優さんに〝ある物〟を買ってもらう予定なのだ。
気分を害して首を横に振られるわけにはいかない。それはある意味、ローテーブルよりも手に入れたいものなのだから。
――で。その〝ある物〟とは……。
◇
「布団が欲しいの?」
そう、布団である。
「はい、布団が欲しいです。現状、俺の布団に二人で寝てますけど、やっぱり狭いと思うんですよ。寝返りだってままならないし、ぐっすり寝れないんじゃないかって」
「え? 私、ぐっすり寝てるけど」
でしょうねっ。
あんな状況なのに寝つきが異常にいいし、夢も見ているようですから。
「えっと、実は俺のほうがあんまり寝れてなくて……だから、もう一つ、心優さんの布団を買って、別々に寝たほうがいいのかなって」
「えっ!?」
「えっ!?」
心優さんの驚愕顔に驚く俺。
「別々、に……?」
すると心優さんの表情に翳りが見えた。
「はい。別々に」
彼女は暫しの逡巡ののち、
「……嫌だって言ったら?」
「え? ど、どうしても嫌だって言うなら諦めますけど、でも俺もぐっすり寝たいというか……」……心優さんが近すぎて落ち着かないっていうか。
「だったら私が寝かしつけてあげる。子守歌とか歌って」
子供かっ。
というか、寝かしつける前に心優さんが寝てしまうのに一億円賭けてもいい。
「あの、もしかして本当に嫌なんですか? 布団別々にするの」
「うん」と首を縦に振り「やだ」と首を横に振る、心優さん。
子供かっ。
「でもなんでそんなにあの布団で俺と一緒に寝たいんですか? ……ちょっと勘違いしちゃいますよ、俺」
「んん? 勘違いって、なぁに?」
いたずらっぽい笑みを浮かべて俺の顔を覗き込むような心優さん。
余計なことを言ったばっかりに逆に追い詰められる俺。
「い、いや、だって、あんなにくっついた状態で寝てて、それがいいなんて言われたら、そりゃぁ、勘違いしますよっ」
「その勘違いが何か聞いてるんですけどー」
くつくつと笑う心優さん。
なんかちょっと腹が立ってきた。
俺は自分の心の安寧と満足できる睡眠を得たくて、別々の布団はどうかと提案したのに、こんなからかいを受けるなんて。
「答えません。それと布団は俺が自分で買います。心優さんは好きなほうを使ってください」
「あ……」心優さんの表情から笑みがサッと消える。「からかってごめんなさい。布団、買うんだよね? 分かった、買います」
意外とあっさりと引き下がった心優さん。
俺をちょっぴり怒らせてしまったから、自戒の念もあるのかもしれない。
「ありがとうございます」
「でもやっぱり別々は嫌だから、セミダブルにしようよ。ねっ?」
「セミダブル、ですか」
「うん。だってあの部屋にシングルの布団を並べて敷くとすごい窮屈だと思う。ダブルでもほとんど同じだし、だからセミダブル。どう?」
セミダブルと聞くと二人用だと思いがちだが、実は少し広めの一人用である。だが今の布団よりかは幅があるので、窮屈感は軽減されるはずだ。心優さんも少しは離れてくれるだろうし、勘違いを発露させる雑念が生まれることもないだろう。
「いいですよ。セミダブルにしましょう」
「うん。枕は別にいいよね。蒼太君の腕枕があるし」
それじゃ変わらず雑念が生まれる距離っ。
「う、腕枕もいいですけど、枕は買っておきましょうっ。体型にあった理想の枕がいいですね。身体の負担を軽減する効果や眠りの質を高められるメリットが得られますから」
「蒼太君の腕枕が理想だけど。あらゆるメリットを得てると思う」
ああ、この人はもう。
「俺の腕枕とは別に、ですよ。あ、これなんかどうです? 横を向いて寝る心優さんにぴったりのような気がしますが」
「あ、いいかも。自分の部屋で使ってる枕に似てるし。でもどうせだったら、もっと蒼汰君の腕みたいに細いのがいいかも」
「俺の腕枕から思考を離してくださいっ」
「えー、それ、ちょっと私には無理ゲーすぎるかも」
~~~~~っ!
こうして俺は、当初の目的であった布団&枕の購入というミッションを無事? ようやく? 終えることができたのだった。
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