第44話 嫁作ギャルゲーパート3with義妹 その4
「夏休みに突入しましたけど、こっから入院ラッシュなんですよねー。
ほんと、最後の1週間くらいしか外出てなかったような気がしますね」
「お前が様子見退院するたび、信じられん頻度で大怪我したからだろうが」
「僕らんとこは夏休みがちょっと短くてですね。お盆明けて1週間くらいでもう学校始まってましたよ」
「話を逸らすな」
ヒトエ フタリ/フタリ ヒトエ:やめろ。その大怪我攻撃はオレともう1人の方に効く。
コメント:あっ…(察し)
コメント:一年の夏休みまででこれって、あとの二年半どうなんの…?
コメント:旅行先の旅館の女将に殺されかけたりする。
コメント:↑少なくともそれが確定してるのひどい。
コメント:出席日数とか足りたん?
テラス嫁:足りたで。ってか、絶対安静とか言われて点滴打って寝込んでなあかん状態のくせに、病院抜け出してきて、「出席するんで点ください」って席に座ろうとして、当時担当してた先生らに全力で止められとった。
MAIC:なお、本人の言い分は「留年がヤだったから」という、テメェ自分の命惜しくねぇんかボケと1時間叱りたくなるようなモンだった。
コメント:留年か自分の命かって選択肢で、迷わず留年取るのなんなん?
嫌だろ、高校で留年とか。
自分を人質にしたパワー系交渉術で「入院の間の出席点をどうにかしてくれないか」と教師陣を説得したっけか。
当時はオンライン授業とかなかったから、「授業の資料と通常の三倍近い量の課題渡すから、それこなしたら出席点やる」ってことにして許してもらってたっけか。
見舞いに来た同級生から羨ましがられたが、課題の量見せたら秒で黙ったなぁ。
当時の先生方には感謝してもし切れない。
…まあ、もうちょっと僕より体張って欲しかったとは思うけど。
女の子が4人、1人に関しては2回も自殺未遂を起こしてるんだから。
自殺を図らなかった方も、アイデンティティが瓦解して廃人同然になってたし。
そんなことを思いつつ、僕は様子見退院として病院から釈放された主人公のモノローグを読む。
「モノローグでは空気が美味しいとか思ってますけど、実際は思いませんでしたね。
病院の周り、田んぼが並ぶクソ田舎だったんで、空気はあんまり変わりませんでした」
「そもそも私たちの地元自体が田舎だろ。
カラオケ行くのに車で20分、チェーン店すらもその周辺にしかないような田舎だぞ。
……いや待て。お前、なんでそんな地域であんだけ大怪我できたんだ?」
「僕が聞きたいです」
コメント:田舎は治安がいいイメージあったんだけど、そんなことないんだなぁ(白目)
コメント:コイツの周りだけ時空が捩れてる定期。
コメント:↑そんな定期はない定期。
コメント:なんでそんな地域で銃創なんて出来たんですか?
コメント:なんでそんな地域で刺し傷なんて出来たんですか?
コメント:やめたれ。
コメント:存在自体が自治体泣かせやなぁ…。
治安の良さに田舎とか都会とか、そんなに関係ないのかなぁ。
そんなことを思っていると、画面に1人の立ち絵が浮かんでくる。
嫁だ。あからさまに不機嫌そうな顔をしている。
この時は確か…、なんだったかな。
何かが原因で義妹と喧嘩したと言うのは覚えてるけど、いまいち思い出せない。
隣の義妹に聞こうにも、あまり思い出したくない場面だということを理解したのか、露骨に顔を顰めてる。
少なくとも、義妹に都合の悪いことだと言うのはわかっ…。
『おう、おかえり』
『なんですか、その顰めっ面。
せっかく退院したんですから、もうちょっとマシな顔で出迎えてくださいよ』
『…今は、マシな顔、出来へんなぁ。…ごめん』
「……思い出しました。
君のリスカ見た嫁が止めようとして、言い争いになったとかですよね」
「ばっ、言うな!!」
「せっかく鍛えたのに、守るどころか守られて、アイデンティティが瓦解した結果、リスカに走ったとか…」
「う、ぅう…。だ、だってぇ…」
「僕でも見たらキレますよ。リスカだけに」
「殴るぞ!?!?」
コメント:殴られても仕方ないイジり方やな。
コメント:誰が上手いこと言えと。
コメント:このブラックジョーク、先生じゃなかったら許されてなさそう。
テラス嫁:クソみてぇな親父ギャグであの時の苦労を片付けられた。あとで搾りかすにしたる。
コメント:奥さんガンギレで草。
コメント:こんなもんに草生やすな。
コメント:搾りかす部分に惚気が詰まってるのを俺は見逃さなかった。
ごめんなさい。悪気はなかったんです。
…あと、搾りかすは待ってもらえませ…、いや、いいか。そろそろ孫欲しいって両親も催促してたし。
画面の裏で広がる地獄をよそに、そんなことを思っていると。
画面の中の嫁が、堪えきれずに泣き出した。
そりゃあ双子の妹が、理由もわからずリスカに走った場面だけ見ちゃったんだもんなぁ。
あの時は嫁を宥めるのも大変だったっけか。
記憶の中にある選択肢を選び、嫁から話を聞き出す画面の中の僕。
僕はそのテキストを読みながら、義妹へと目を向ける。
果てしなく気まずそうな顔してる。
そりゃそうだ。自分が1番見られたくないシーンが、全世界に発信されることとなるのだから。
人の黒歴史をほじくり返そうとしたんだ。
お前もその覚悟、できてるよな?
そう問うように笑みを浮かべると、義妹は顔を真っ赤にし、視線を逸らした。
『…ウチじゃ、妹を止められん…。
やからさ、その…。退院したばっかでごめんやけど、ウチ来てくれん…?
あんなん、もぉ見てられへん…っ』
「これでNOって言えるような神経してませんよ。
どんだけ深く切ったんですか、アンタ」
「き、緊急搬送されるようなほど深く切ってないぞ。せいぜい、今もちょっと痕が残ってる程度で…」
「痕残ってたらアウトなんですよ普通は。残ってなくてもアウトですけど」
言霊 コトバ:あ、あの腕の線ってリスカの痕だったのね。
コメント:↑いとこに認識されてるくらい痕残ってるってこと…?
コメント:そら嫁さんのメンタルボロボロになるわ。せっかく持ち直したのに。
コメント:先生の行いって、うまく転がることばっかじゃないんだなぁ…。
コメント:MAICの時もうまく転がってはなかったし今更。
MAIC:私の場合、むしろアレが自殺の引き金になってたしね。
コメント:的確に地雷踏むのドウシテ…?
コメント:先生。人の地雷は踏んでも無くならないんやで?
知っとるわボケ。でも、体張ってなかったら無事では済まなかっただろ。
常連の場合は銃殺されただろうし、義妹の場合は死ぬまではいかなくても、刺し傷の痕が残ってただろうし。
嫁に連れられ、嫁の実家へと向かう画面の中の僕のモノローグを最後に、ロードが入る。
暫くすると、懐かしい義妹の部屋の扉が映し出された。
画面の中の僕たちが中に入ると、暫しロードが入ったのち、ぐちゃぐちゃにとっ散らかった部屋が映った。
『………百合ー、入るでー…』
『お邪魔しま…うわっ』
「この時、鍵すらかけてませんでしたよね。
あれ、なんでですか?」
「…お姉ちゃんから逃げてるみたいで嫌だったし」
「そんなふうに考えられるなら、なんでリスカなんてしたんですか?」
「理由知ってるくせに聞くな!お前、性格悪いぞ!?」
「お互い様でしょうに」
「ぐっ…」
恥ずかしそうに目を伏せる義妹と、部屋の隅っこで廃人の如く虚空を見る画面の中の義妹を見比べる。
よくもまあ、ここまで持ち直したものだ。
イラストの表現ではあるが、この感情がぐちゃぐちゃにとっ散らかったような瞳。
あの時のまんまだ。これを描いたのは…、たしか、僕のガワも担当してくれた生徒だったっけか。
表現力がすごいな、と思いつつ、僕はテキストを進めた。
『出てって……』
『無理です。出たら君、またリストカットする気でしょう?』
『……それの、なにがわるいの…。
きみのほうが、ずっと、ずっと…』
『……ちょっと、出てもらえますか?
2人きりで話をさせてください』
嫁を部屋から出し、精神崩壊を起こしている義妹の隣に座る。
座った時の体勢が刺し傷に響いて、めちゃくちゃ痛かったっけか。
まあ、それを表面に出せば、さらにメンタルが悪化するのは目に見えてたから、必死に堪えたけど。
暫くの沈黙が続いたのち、僕は出てきた選択肢の中から、『ストレートに現状を言う』を選択する。
『せっかく鍛えたのに、姉どころか自分の身一つ守れなかったから、そうやって不貞腐れてるわけですか。
姉の自殺を止められなかった、自分が鍛えても無駄だったって無力感に負けてます。
…双子の姉にくらいは、その程度の弱みを見せてもいいと思いますが』
『…………』
『……嫌ですか』
『…いやに、きまってる。ぜったい、きらわれてる…。だから、いわない…』
『嫌ってたら、僕に泣きそうな顔で「とめてくれ」なんて懇願しませんよ』
『………めんどくさいって、おもわれてる。
だから、よんだ…って、おもう』
半分くらい幼児退行しかけていたっけか。
この時のことを覚えているのかどうかは知らないが、義妹へと目を向けてみる。
顔を隠してる。耳まで真っ赤なあたり、相当に恥ずかしがってるのだろう。
こうなるってわかってるんだから出なきゃ良かったのに。
そんなことを思いつつ、僕は会話を進めた。
『…君が悪い理由なんて一つもないです。
この怪我も、あの寂しくつまんねー人生送ってたクソ野郎がつけたものですし、被害に遭いかけた君が責任を感じることはないんです。
君のお姉さんの自殺未遂も、彼女が徹底して隠していたのですから、気づけるはずもないです。というより、僕も追いかけて初めて気づいたくらいです。
だから、君が自分を罰する理由は、一つもないんですよ』
『………でも、お姉ちゃんの大事な人を守るどころか、守られてしまったんだぞ?』
『その分はもう怒られました。
…君のお姉さんは、君が自らを罰することを求めてはいません。
君がいつものように、自分に接してくれることを望んでいますよ』
『………そう、なの、かな』
『ええ。僕も、センチメンタルな君より、ことあるごとに毒を吐く君の方がいいです。
今の君は、なんだか気持ち悪いので』
『……ははっ。一言余計だな、お前は』
月夜に照らされ、笑みを浮かべる義妹が画面いっぱいに映る。
ああ、こんな顔してたっけなぁ。
我慢していたのか、そのまま泣き始める義妹の背をさするのを最後に、ロード画面に入る。
僕は湯気が出そうな程に恥ずかしがっている義妹に目を向け、背中を叩いた。
「痴態を晒したのは君の方でしたね」
「う、ゔがーーーっ!!」
その後、彼女は3日ほど研究室に篭っていたとかなんとか。
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