第43話 嫁作ギャルゲーパート3with義妹 その3

文化祭から一夜明け。

2日目の三年生によるクラス対抗の演劇が開催される公民館へ向かうモノローグが始まり、僕は顔を歪めた。


「あー…。そういやこの日だったなぁ」

「…あまり思い出したくはない日付だな」

「視聴者の方にわかりやすく言うと、この日、背中ぶっ刺されたんですよ。

なんでも、『1人で死ぬのが嫌だ』っていうクソぼっちおじさんが凶行に走ったらしくて。それで義妹が狙われてたんで庇ったんです。

おかげで臓器移植です。どことは言いませんけど」


コメント:ヒェッ…。

コメント:ネタバレすんなって言いたかったけど、この地獄を前に言う気も失せた。

コメント:先生、なんで生きてるの…?

コメント:獅子ノ座夫婦すら「その傷でなんで生きてるん?」とか言うわけだ…。

コメント:ワイ、こないだの件でサボりがバレたくせに性懲りも無くサボってる警官。そん時の通報も受けたわ。

コメント:↑おいこら。

コメント:市民を守るのが仕事だろ。

コメント:守るべき市民がこんだけ身を張って女守ってんのに、こいつときたら…。

コメント:しかも、少なくとも16年は警官してるベテランくさいの、ホント終わってる。

テラス嫁:クビにしろこんなやつ。

コメント:↑こればっかりは同意する。

コメント:残念。来週にゃ定年退職やで。

コメント:ほんまコイツ…。


あなたは残り1週間の職務を全うしてから僕の配信を見てくれ、頼むから。

「血税がサボりに吸い取られてる」ってキレる人、多分めっちゃ出てくるぞ?

そんなことを思いつつ、僕は松葉杖をつきながら、会場に向かうことの苦労を語る画面の中の僕に、苦言をこぼす。


「大変なことを語彙力振り絞って表現してるの、なんなんでしょうね。

この時の僕、『うわきつっ』くらいにしか思ってませんでしたよ」

「車とかで送ってもらわなかったのか?」

「それなりに治ってきてたんで、自分で行くって駄々捏ねたんです。

まぁ、次の日には病院のベッドで寝るハメになったんですけどね」

「笑えんぞ」


コメント:駄々をこねんかったら義妹ちゃんに刺し傷出来てたわけか…。

コメント:ファインプレーというべきか、もっと自分を大事にしろというべきか…。

テラス嫁:こん時の旦那、自分が生きてることに意味感じとらんからな。自分の命を道具かなんかやと勘違いしとった。

コメント:そうなっても無理のない人生送ってるって理解してる分、地獄味が増すなぁ(白目)

コメント:嫁さんが告白前にメンタルケアしたって理由もわかった。確かにケアしないと不安なメンタルだわ。

言霊 コトバ:尚、ケアしても自分のことを真っ先に切り捨てる思考回路は変わらなかった模様。

コメント:↑生徒に尽くして過労5回行ってる時点でそうやろなとは思うけど、実際に言葉にされると重みが違う。


だって、土壇場で僕が払えるものなんてそのくらいしかないし。

そんなことを思っていると、画面が暗転し、ロードが差し込まれる。

それが終わると、虚ろな顔で歩く義妹のそばに、刃物を持った男が迫るシーンが映し出された。

それを認識した画面の中の僕に選択肢が現れるが、僕は迷わず「松葉杖を捨てて走る」を選択。

幸いというべきか、あまりの痛みに走れないとか言うほどひどくはなかったので、僕は彼女を庇うことに成功した。


『んぶっ…!』

『っ、邪魔すんなぁっ!!』

『なっ…、おまっ、はなれろっ!!』

「あー…。この時って、僕の背中の刃物が抜けないよう、犯人を引き剥がしてくれたんですか。

痛すぎて気づきませんでした」

「私は恩知らずでもなければ、無知でもない。この状態で刃物を抜けば危険ということはわかってた」


犯人を引き剥がし、地面へと押さえ込む彼女。

無論、それを見ていた周りの人が通報したことにより、あとは僕に応急処置を施すだけ。

と。そこで嫁が駆けてきて、僕の肩に手を当てた。


『なっ…!?大丈夫か!?

何があって…、こんな…!?』

『その、応急処置…、頼みます…。

あ、これ、抜かないで、ください…。死ぬので…』

『……ごめん…。ごめん、お姉ちゃん…。

私が、私がしっかりしてなかったせいで…。

ごめんなさい…!本当にごめんなさい…!』

『謝ってる暇あんなら手伝え!コイツ殺したいんか!?』

『……っ、わ、わかった…』

「…聞きますけど、落ちたのここじゃないですよね?」

「違う。この時は申し訳なさと疑問…、あと、お姉ちゃんとお前への心配だけが頭に残って、訳がわからないまま応急処置してた」

「一応は心配されてたんですね」

「あ、当たり前だ…。

その、中学の時にいた男どもとは違って、信頼できるやつってのはわかってたし…。

って、恥ずかしいこと言わせるな…っ!」


白百合 スノウ:義妹ちゃんのデレ可愛い。

コメント:画面は地獄なのに2人の会話に砂糖が発生している…?

コメント:義妹が義兄への恋心めっちゃ引き摺ってるけど、そこんとこどうなん、嫁さん?

テラス嫁:別にええで。この後のこと知っとるさかい、「こらぁ引き摺ってもしゃーないな」って思っとる。

コメント:後にも地獄控えてるのか…。

コメント:応急処置、的確すぎない?なんで知ってたの?

テラス嫁:ヒント。ウチら、中学で一回刺されたことある。痕にはならんかったけど。

コメント:↑それもう答えなんよ(白目)

コメント:治安どこ…?ここ…?


あー…。あれだけ病むわけだ。

刺したやつは取り敢えず、めちゃくちゃ苦しんだ挙句に死んで欲しい。絶対に口には出さないけど。

僕は言動に責任を持つことを信条にしているが、決して非の打ち所がない聖人君子を演じているわけではない。

死んで欲しいって思うやつの1人や2人は存在する。

…いや、1人や2人じゃ済まないけど。

自分も大概引き摺ってるな、と思いつつ、僕はテキストを進めた。


「はい、お馴染み入院シーンでございます。

術後、2日くらい寝込んでたそうです」

「お馴染みにするなそんなもん」

「仕方ないじゃないですか。怪我するんですから」

「怪我しに行ってるんだろ、お前の場合」

「僕のために必要な怪我ですし」

「その言い訳やめろ。

お姉ちゃん、どうやってもお前を止められんって病みが再発しかけたんだぞ」

「知ってます。ケアしたの僕です」

「誰かコイツを叱ってくれ。私じゃ無理だ」


コメント:俺らでも無理。

コメント:カウンセラーの方居ますかー?

コメント:私、有給取った現役カウンセラー。今、どう足掻いても治せなさそうな自己犠牲の塊を前にして絶句してるの。

コメント:カウンセラーにすら見放されてて草も生えん。

コメント:嫁さん、大丈夫?コイツ、またやらかしたりしない?

テラス嫁:せやから弟くんとその周りゴリラにしたんやろうが。

コメント:説得力がすごい。

コメント:ゴリラまだ居たん…?

テラス弟:おかげでここ数年、兄貴狙いの事件に対処する羽目になってる。誰かたすけて。

コメント:↑無理。

コメント:見捨てるの秒で草。

コメント:コイツの場合、兄貴よりも無傷で済みそうって安心感ある。

コメント:鉄と人肌の強度を比べるな。

コメント:↑草。


ここ数年平和なの、もしかしなくても弟が割を食ってたからか。

今度、友達ともどもラーメンでも奢ってやろう。

そんなことを思いつつ、僕は入院イベントを進める。

と。普段に比べ、しおらしい態度の義妹が、見舞い品を手に病室に訪れた。

「入ってもいいか?」と、叱られた後の子供のような声で呟く彼女を前に、選択肢が表示される。

迷わず「いいですよ」を選ぶと、画面の中の義妹は、ベッドに体を預けた僕の隣に椅子を持ってきて座った。

数秒の沈黙を長ったらしい文章が表現したのち、彼女が頭を下げる。


『………その…、ごめんなさい』

『謝ることないですよ。僕が勝手に怪我しただけですし』

『それでもだ。…鍛えていたくせに、全然気づけなかった。

鍛えてたくせに、お姉ちゃんが好意を寄せているお前を守れなかった。

……私に出来ることなんて、お前に謝罪するくらいしかない』

『謝られたって困りますよ。

僕が怪我した理由は、人生語れば2行で終わりそうなクソジジイです。君じゃない』

「これ、本気で言ったよな、お前。

少しは当たって欲しい私の気持ち、全ッ然汲み取らなかったよな」

「僕は汲み取る必要がない気持ちは汲み取りません」


この時の君、汲み取ったら汲み取ったで、余計に精神歪みそうだったし。

そんなことを思いつつ、僕はテキストを進めた。


『………これで、失礼する』

『あ、はい』


この時、死ぬほど空気が重かった記憶がある。

姉みたく、もう少し明るい性格だったらよかったのに、と思いつつ、僕は次の日付へと進めた。

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