第42話 嫁作ギャルゲーパート3 with義妹 その2

「退院まで時間飛びましたね。

もう期末テスト、文化祭あたりですか。…なんかハイペースですねぇ」

「お前、3年になるまでは文化祭どころか体育祭もまともにやったことないだろ」

「聞きますけど、この大怪我でまともにできると思います?」


コメント:思わんなぁ。

コメント:【速報】2年でも大怪我が確定。

コメント:行事、軒並み怪我のせいで楽しめてなさそう。

テラス嫁:修学旅行前は怪我しとらんかったで。旅行自体で大怪我しとったけど。

コメント:↑女将が殺人犯だった話か…。

コメント:先生って、なんかそういう「やべーヤツ」を引き寄せるフェロモンを分泌できる新人類なのでは?

MAIC:否定できない。

言霊 コトバ:否定できない。


失敬な。僕は生物学上は普通の人間だぞ。

…自分でもそうなんじゃないかって思う時、結構あるけど。

行事とかで会った人、半分以上が殺人とか麻薬売買とか違法風俗とか、後ろ暗いこと隠してるような人たちだったし。

生徒たちの前で公演してもらうために呼んだ政治家が、その3日後に麻薬所持、使用で逮捕された僕の気持ち、考えたことある?

生徒にも「反面教師として呼んだの?」って揶揄われたし。

…やめよう、このモノローグ。虚しくなるだけだ。


そんなことを思いつつ、僕は当時のことを振り返る。

僕が通ってた高校は1日目が体育祭で、その次の2日間が文化祭というスケジュールだった。

無論、一年の頃は足が全く使い物にならなかったので見学。

嫁も玉入れとか、そういう体力を使わない競技にだけ出て見学してたっけか。

その関係上かはわからないが、体育祭というイベントがまるまるモノローグでカットされ、文化祭当日。

その年は確か、ひたすら業務用冷凍チュロスを解凍してたっけ。

こんなに虚しい時間があるか、と文句を垂れる画面の中の僕に同意しつつ、僕はイベントを進めていく。


『よっす、チュロス解凍機。

よかったらウチとまわらん?』

『なんですか、その蔑称?』

『事実やろ。どーせ店番終わって教室でぼーっとするだけやろうし、一緒にまわったろーかなって』

『……まぁ、いいですよ』

「思ったんですけど、彼女、この頃から僕への理解度高くないですか?」

「私の双子の姉だぞ?

もう一度言う。私の、双子の、姉だぞ?」

「…付き合う前から愛が重すぎやしないですかねぇ」

「お姉ちゃん以外も大概だったろ。私含め」


コメント:あれっ?このイベント、MAICじゃなかったっけ?

コメント:俺の時はフチロちゃんだった。

テラス嫁:↑好感度が1番高いキャラが誘いにくる仕様になっとるで。

コメント:先生、愛が重いって言ってるけど、順調に嫁さんルート進んでるのもなかなかに重くない?

コメント:この夫婦、五年別居するくらいにはドライな関係性に見えて、お互いに矢印がデカすぎる…。

コメント:よく五年我慢できたな。

テラス嫁:五年分甘えとるし。

コメント:この粘度の高い惚気からしか得られない栄養素がある。


その栄養、生きてくのに必要か?

そんなことを思いつつ、射的や輪投げを楽しむ嫁のイラストとテキストを流していく。

たしか、射的は的と銃を安価で済ませて、景品を小型テレビとか、そういう高価なものにしてたっけか。

そのせいか、次の年から景品系の出し物禁止されてたけど。

この時の嫁、こんなにはしゃいでたっけ、と疑問に思っていると。

何かが落ちるようなSEが差し込まれ、画面が暗転した。

数秒のロードが差し込まれると、なんとも言えない表情を浮かべた義妹が、コーヒーをぶち撒けたイラストが画面に映し出された。


「あー…。この時でしたっけ。

君が僕と嫁が付き合ってる勘違いしたの」

「仕方ないだろ。客観的にあれを見て、付き合ってないって思えるか?」

「無理ですねぇ」


コメント:先生にも修羅場があったんだなぁ。

テラス嫁:コイツの場合、毎秒修羅場やろ。

コメント:嫁にも毎秒修羅場とか言われてて草。

コメント:義妹ちゃんの場合、お姉ちゃんが奪われた的なアレだと思われ。

コメント:この虚無と怒りと悲しみをごちゃ混ぜにしたみたいなツラよ。

コメント:マジでこんな脳が破壊されたみたいな顔してたん?

テラス嫁:してたで。あまりにやばいツラしとったから、「あ、やべ」って声出てもた。

コメント:ゲージ減る速度やばくて草も生えん。


うっわ、めっちゃ好感度ゲージ下がってく。

一撃必殺を受けたRPGキャラのHPゲージでも、もうちょっと減り方緩やかだった気がするぞ。

目尻に涙を溜め、去っていく画面の中の義妹を前に、僕は隣に座る義妹へと目を向けた。


「君のことだから捨て台詞でも吐くかと思ってたんですけど、この時ばっかりは何も言いませんでしたね。なんでです?」

「……その、何を言っても負けてしまうような気がしてだな」

「君、そういう感情のセーブは出来たんですね。姉のことが絡んだら構わず暴走するタイプかと思ってました」

「そんな暴走特急みたいな性格で大学教授なんてできるか」


コメント:もしかして義妹ちゃんって、先生が言うよりめちゃくちゃマトモ枠…?

テラス嫁:それ以前に旦那がそれとなーく矯正しとったからやぞ。もし矯正しとらんかったら、就職どころか人間社会での生活自体が無理やったやろうし。

コメント:生活すら無理って言われる矯正前の義妹ちゃんって一体…?

言霊 コトバ:そん時の嫁妹さんに会ってるけど、あれは人間社会に適合できる存在じゃない。キング○ングとかゴ○ラとか、そういう類の生物。

コメント:いとこにすらボロクソ言われてて草。

コメント:ちょい待ち。そんだけ心ブッ壊れてたってことでは…?

コメント:↑なんてことに気づいてんだお前。

コメント:ワイ、義妹ちゃんの心が壊れない理由がないことにも気づいてしまって地獄を味わってるので、皆様にもお裾分けに来た。

コメント:↑来んな。ありがとう。


あー…。コイツ、自殺には走らなかったけど、この日から廃人寸前までに自我崩壊してたっけか。

そんなことを思いつつ、僕は文化祭イベントを終え、ロード画面へと進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る