第41話 嫁作ギャルゲーパート3with義妹 その1

「…マジで捕まったんですね。実感無っ」


翌日。新聞を広げ、大見出しに写る写真を見て、そんな言葉を吐き出す。

弟がゴリラで良かった。下手したら、また命賭けなきゃいけないとこだった。

10代ほど体動かないんだから、僕の家族を変なことに巻き込まないで欲しい。

そんなことを思っていると、向かい側に座っていたコトバさんが呆れを吐き出した。


「ザマァとか言わないあたり、本気で無関心だったんですね、先生…。

一応は敵みたいな存在なのに…」

「他人を恨むことに意味を感じないだけです。僕の場合、際限なくなるんで」

「あー…」


もちろん恨んだ時期はあるけど、それも長続きはしなかったっけか。

そもそも、恨む対象が多すぎるし。

僕の後遺症、半分以上が人災なんだぞ。

肩の銃創もそうだけど、腹や背中なんてナイフが刺さった痕が何箇所か残ってるんだからな。

…まぁ、全員捕まってるから、別に恨む必要もないんだが。

今回のも「どーせいつか捕まる」と思ってたし、驚きはあったけど、消化不良感とかは全くない。


「まあ、何はともあれ…。これで心配事はなくなりましたね!」

「キミの留年の危機も心配事なんですが」

「うぐっ」


おい。大丈夫だよな、今期?

卒業必要単位数どころか、必修科目も取れてないってことないよな?

僕がコトバさんに半目を向けていると。

疲れ切ったマネージャーさんが、へろへろと僕たちの元へ向かうのが見えた。

あー、多分これ、アレだ。駆けつけてきたマスコミにもみくちゃにされた顔だ。

僕は申し訳なさから、おぼつかない足取りのマネージャーさんに頭を下げた。


「どうも…、すみません」

「い、いえいえ…。うちの稼ぎ頭を守るのもお仕事ですし…」

「マネさん。そんな死にそうな声で言われても、申し訳なさしか感じないよ」


そういうのは思っても言うんじゃありません。

コトバさんを半目で睨め付けつつ、僕は疲れ切ったマネージャーさんを椅子に座らせる。

前職の同僚もこのくらい真面目だったら、僕の負担も減ったろうに。

そんなことを思っていると、マネージャーさんは「次の配信ですが…」と声を上げた。

…頼むからちょっとは休んでくれ。


「特別ゲストとギャルゲー配信、お願いしますね…」

「それはいいですけど…、特別ゲスト?」

「今は応接室に…、あ、来た」


マネージャーさんの視線に沿うように、僕たちが一斉に視線を向ける。

そこには、嫁によく似た雰囲気ではあるが、顔つきがキツい女性が立っていた。

どう見ても義妹である。しかも、めちゃくちゃキレてる。

何か粗相をしたかな、と思っていると。

義妹の怒りを込めた視線が、コトバさんに向けられた。


「今回はコイツと配信をしようと声をかけたのだが…、私の出した課題をすっぽかして2週間のバカも一緒にいたとはな」

「ヒェッ」


コトバさんの喉から変な声が漏れる。

何を隠そう、義妹は大学教授。生物学を専門にしており、新聞にも載るし、教育番組にも出てくるレベルの知識を収めている。

…にしても、コトバさんって文系の学部じゃなかったけか?生物学取れるっけ?

そんなことを思っていると、コトバさんがぼそぼそとこぼす。


「い、いや、一応はいとこだし、甘く見てくれ…ないかなぁ…って思って…、履修しました…はい…」

「見るわけないだろバカ」

「そんなぁ…」

「コイツ、キミの授業で単位落としてるんですか?」

「これで3回目だ」

「うっわ…」


そんな甘い考えで履修したとはいえ、3回も同じ授業で単位落とすなよ。

しかも今回も落としたのかよ。もしかしなくても留年確定してないか、それ?

教え子の落ちぶれっぷりに戦慄いていると、義妹が僕へと視線を向けた。


「お前が甘やかし過ぎたんじゃないか?

ここまで思想も思考もなにもかもが甘いとそう思いたくなってくるんだが」

「むしろ厳しくしてましたよ。

もうかつてないくらいみっっ…ちり勉強見ましたよ」

「そのザマがこれか。…お前のバカさ加減だけが浮き彫りになったな」

「ストップです。コトバさん死んでる」


仮にも生徒になんて事言うんだコイツ。

大学教授なんてそんなもんか、と思いたいところだが、コイツが特別口が悪いだけだと思い直す。

その上、一応は身内だからな。

遠慮の必要がなくなった場合、コイツの口は絶好調になる。

3回も自分の授業を履修して単位を落とす親戚なんて、遠慮の「え」の字も要らないだろうし。

義妹はため息を吐くと、空いた席に座った。


「キミもVtuberになったんですか?」

「お前と一緒にするな。今回は『ギャルゲーヒロインとギャルゲー実況』という企画を持ち込んで、そこの彼に交渉しただけだ。

お前のおかげで割とスムーズに行ったぞ?」

「フッた相手と関係深めていく過程振り返るの、気まずい事この上ないんですけど」

「それが狙いだ。お前の困り顔が見たかった」

「性格悪っ」

「お互い様だろうに」


それで自ら傷口抉るような真似をしに、わざわざうちの事務所に話通したの?

すでに決定事項であるために逆らえない僕は、「わかりましたよ…」と、項垂れるように頷いた。


♦︎♦︎♦︎♦︎


「えー、前回の配信事故からめちゃくちゃ事務所にマスコミ来るようになりました。

正直言って死ぬほど迷惑してます、陽ノ矢 テラスと」

「特別ゲスト、ギャルゲーヒロインで言う双子の妹に当たる義妹だ。こうして配信という形でマイクの前に座るのは、大学のオンライン授業以外ではやらないから不慣れだが…、まあよろしく頼む。

…あ、受ける方じゃないぞ。むしろ私は授業をする側の人間だ」


コメント:待ってた!

コメント:ヒロインと実況とか最高にテラス先生が気まずそうで飯がうまい。

コメント:↑見なさい。これがどっぷり浸かったテラス民だよ。

コメント:浸かるって表現草。

コメント:義妹ちゃん、大学の先生なん?

テラス嫁:大学教授。何を専門にしとるかは言わん。身バレこわい。

コメント:旦那が身バレした人の言葉だ、重みが違う。

コメント:義妹ちゃんに注目行ってて誰も言わんからいうけど、マスコミのことはっきり「迷惑」って言ってんの草。

コメント:まあ、ほっとかんやろうしなぁ…。

コメント:ニュース見てもテラス先生の配信切り抜かれてるの笑う。


振った側が何を言うとか思うだろうけど、もういいじゃないか、その話題。

僕もウンザリしてるんだから。

そんなことを思いつつ、僕は今回の企画の紹介に移った。


「えー、今回は僕を困らせに来た義妹と一緒に義妹ストーリーを攻略します。

気まずさで死にそう」

「私はその顔を見ることで、明日からの活力を貰いに来たというわけだ」


コメント:半端なく性格悪くて草。

コメント:夜の店で女王様とかやれそう。

テラス嫁:↑大学生時代、バイトでやってた。

コメント:やってたの草。

コメント:え?男性経験あり?

テラス嫁:いんや、女以外お断りの店。やからまだ男性経験はない。

コメント:『男性経験は』ない。ここ重要。

白百合 スノウ:え!?クソレズでドマゾとかいう救いようのない性癖の私向けとしか思えない店が存在するんですか!?

言霊 コトバ:↑巣に帰れ。

コメント:雪子氏ほんま草。


「店のURL貼ろうか?」と要らない気遣いを発揮する義妹。

おいこらやめろ。青少年も見てるんだぞ。

僕が抗議の意を込めて視線を向けると、義妹は「あとで個人的に教えてやる」と付け足した。そういうことじゃない。

僕は画面を進め、前回のストーリーの続きから、ゲームを再開する。

それなりに期間が空いたが、前回は確か、常連のヤツの自殺を止めて搬送されたところからだっけか。

もうお馴染みになりつつある病院の画面で、見舞いに来た各キャラのテキストを飛ばし読み、もらった見舞品を確認する。


「魚の乾物、海苔の佃煮、僕の足の痛みを表現した絵、誘拐犯の人生を全否定するためだけに作った歌…と。

んで、最後が飲みかけのココア…、これは嫁ですね」

「流石はお姉ちゃん。コイツに自分の痕跡を少しでも残そうと飲みかけを渡したな」

「お姉ちゃん分析始まっちゃった」


テラス嫁:妹よ。お姉ちゃんに流れ弾喰らわせるんやない。

コメント:嫁さんへの理解度高くて草。

コメント:嫁さんの愛、粘着質だよな。

コメント:粘着質って言うな!重いって言え!

コメント:淡々とイケボで解説するのほんま笑う。

白百合 スノウ:義妹ちゃん声かっこかわいいね。マゾ向けのASMR出して?

言霊 コトバ:↑出てくんな。

コメント:ちょくちょく雪子氏に辛辣なコトバ様すこ。


うーむ。ろくな実況になる気がしない。

そんなことを思いつつ、僕はゲーム内の日にちを進めた。

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