第40話 先生の子育て(弟)奮闘記 その3 〜衝撃の幕引きを添えて〜
「次の写真は…、ああ。合格記念で行った北海道旅行の時ですね。
僕は春休み取って暇してたんで、店長と一緒に保護者兼足として使われました。
…いやぁ、大変だったなぁ、あの時。乗ったバスが強盗にジャックされちゃって」
「初耳なんやけど?」
「乗り込んできたのは2人だったんですけど、何故か拳銃持っててですね。
あー、こーりゃ銃創増えるなーとか思ってました。増えませんでしたけど」
コメント:ヒェッ…。
コメント:おれ道民。記憶が確かだと、それニュースで見たことある気がする。
コメント:↑コレけ?http://…
コメント:特定早すぎて草。
コメント:「喫茶店の店長、お手柄!?」って見出しでオチが見える。
コメント:ギャルゲー内のゴリラっぷりがノンフィクションの方だからなぁ…。
コメント:タイミングがいいのか悪いのか…。
コメント:先生、もう四六時中店長さんと一緒に居た方が良いのでは…?
絵面がむさ苦しいから嫌だ。
そもそも、あの強盗を制圧したのは弟と、その女友達だ。店長は何にもしてない。
店長を矢面に立たせたのは、「そっちのがめんどくさくないから」と、観光を優先させたアイツらが手柄を押し付けた結果なだけだ。
そんな裏事情を言えばどうなるかわからないので、黙っておくが。
そんなことを思いつつ、僕は別の北海道写真を吟味する。
と。その中で一際目を引くものを見つけ、僕はそれをクリックし、拡大した。
「お、なんや平和やん。これどこ?」
「札幌にあるラーメン横丁をハシゴしてる時の写真ですね。
僕と店長は一杯で限界だったんですけど、この子らの半数、十件くらい回っても腹八分くらいで済んでたんですよ。
成長期怖いですねぇ」
「少年漫画みたいな食い方しとるやん」
コメント:死ぬぞ。…死ぬぞ。
コメント:若さの特権フル活用しとるやん。
コメント:どんだけおるねん、友達。
コメント:弟くん、コミュ力高すぎん?俺、小学校卒業した直後にこんだけの友達とかおらんかったけども?
コメント:悲しっ。
コメント:俺も卒業旅行でダチとラーメン屋ハシゴとかしたかった…。
コメント:兄貴が出来へんかった健全な青春してるの裏山。
コメント:尚、これの前。
コメント:バスジャックの直後にこれとか、結構神経太いなコイツら。
コメント:全員が先生の悪影響受けてそう。
失敬な。僕よりもあのギャルゲーヒロインたちの方が悪影響与えてるぞ。
美術やってる子なんて、フチロさんに師事したせいで「師匠に勝てない作品は全部ゴミ」って本気で思うようになったからな。
作った面、興味本位で鑑定士に持ってったらウン百万とか言われたぞ。そんなバカ高いゴミあるか。
あとは…、義妹に師事してた子も、なかなかに倒錯していたな。
なんだ、人生で一回でもいいから「人の子など孕みとうない!」と言いたいって。
どんな人生送ってたらそんなこと思うんだ。
義妹の方も、なんでその気持ちを理解できるんだ。
僕とは根本的に脳みその作りが違うのか?
そんなことを思いつつ、僕は次の写真へと意識を移す。
「で、これがホテルでの写真ですね。
面倒くさかったんで、大部屋で全員まとめて泊まったんですよ。
寝かしつけるのも面倒だったんで、眠くなるまで夜遊びに付き合ってあげてたら朝になってました。
テレビゲームとか一切せずにですよ?」
「うせやろ?この年頃なんて、ゲームめっちゃ楽しむもんやろ?」
「それがマジなんですよ。
ルドーとかいう虚無ゲーで夜を明かしたのは初めての経験でした」
「マジか。罵詈雑言の嵐やったろ?」
「罵詈雑言は出ましたけど、険悪なムードにはなりませんでしたね。
まあ、腐れ縁的な集まりなんで、本人たちが楽しいんならいいかなと」
コメント:ルドーってなんぞ?
コメント:やりはじめは楽しいけど、後々になってくると虚無とストレスしか感じないボドゲ界隈屈指の超クソゲー。
コメント:半端なく性格悪いすごろく。
コメント:碌でもないのはわかったわ。
コメント:いや、小学校卒業したばっかのガキがあれで一晩きゃいきゃいできんの才能よ?
コメント:ボドゲ配信とかやってほしい。
コメント:弟くん、お兄ちゃんの分青春してるの眩しい…。眩しい…。
コメント:兄弟で青春に差がありすぎる…。
それはそう。僕の場合、小学校卒業して旅行行くぞってテンションじゃなかったもん。
もう年がら年中お通夜だったもん。
僕みたく、PTSDとかにならなくてよかった。
…その分、浮いた話がまったくないって母さんが愚痴ってたけど。
高二に何を期待してるんだ、などと思っていると、デフォルト設定のままの着信音が鳴り響いた。
「…弟くんからやん」
「とうとう電話来たか…。ちょっと失礼。
もしもし?」
『あ、やぁっと出た。さっきからチャット送っても全然返ってこねーし、心配したわ』
通話に出ると、心底疲れた、と言わんばかりに力が抜けた弟の声が響く。
…あれ?僕が配信でネタにしたから怒ってるんじゃないのか?
いつもだったら、「クソ兄貴」と即座に怒鳴り声が響くはずなのに。
僕が疑問に思ってると、弟が問いかけた。
『仕事中だろ?ちょうどいいや。スピーカーオンにしてくんね?』
「いいですけど…、いいんです?」
『兄貴の経過報告的なアレだから』
「僕の?…まあ、わかりました」
なんか弟に経過報告されるようなことあっただろうか。…全然身に覚えがない。
そんなことを思いつつ、僕はスピーカー機能をオンにして、弟の声をマイクに拾わせた。
『面倒だから端的に言うぞ。
兄貴がクビ切られた原因になったクソ政治家どもが俺拉致りに来たわ。
今、わざと拉致されて全員ぶっ飛ばしてふんじばったとこ』
「「…は!?!?!?」」
コメント:ファっ!?!?
コメント:大事件で草も生えん。
コメント:いやいや、うせやろ。…うせやろ?
コメント:弟くんの声初めて聞くけど、多分このトーンはガチ。
MAIC:弟くんこんな嘘つかない。
言霊 コトバ:弟くんこんな嘘つかない。
ヨイヤミ フチロ:弟くんこんな嘘つかない。
ヒトエ フタリ/フタリ ヒトエ:弟くんこんな嘘つかん。
コメント:証人が多いの強すぎる…。
コメント:変な声出た。
えぇ…?え、嘘ぉ…?マジで言ってる…?
いや、あのこの世の理不尽を全て体現したかのような性格で音沙汰ないの不穏だなー、とか思ってたけど。
「声聞く?ニワトリの方がまだ意思疎通できそうだけど」と毒を吐く弟に、生返事を返す僕。
数秒の沈黙が続くと、聞きたくもなかった声が響いた。
『て、てめっ、オレにこんな真似してタダで済むとでも思ってんのか!?
テメェの未来も、兄貴の事務所も、すぐに潰してやるからな!?』
『どこに逃げても無駄だぞ!お前らの居場所はこの国にはもうないんだからなァ!!』
「うっわ」
「ごめん、リスナーの中にコンクリで詰めて海に流すお仕事してる人おらん?」
「殺意が高い殺意が高い」
コメント:え?この反応…、え、マジ?
コメント:とんでもない配信事故で草。
コメント:恐喝罪入ったねー。証人はリスナー全員な?
コメント:スピーカーにしたのエグい。
コメント:多分、配信中っての分かってないっぽいね。
コメント:声きったな。お口チャックしろ?
コメント:(弟くんに)戻して。
コメント:うん。やっぱ弟くん、ゴリラ族なんやな。
コメント:自演を疑うには凝りすぎてる…。
コメント:いや、やろうと思えばできるんだろうけど、テラス先生の性格的にやらんし…。
コメント:ワイ、サボって配信見てた警官。弟くんから通報きてビビり散らす。
コメント:↑おいこら。
コメント:国家権力の姿か…?これが…?
コメント:あーあ、もうめちゃくちゃだよ。
まさか、こんな形で決着着くとは。
いや、戦ってるつもり微塵もなかったけど。
ぎゃーぎゃーと喚き立てる2人の罵詈雑言を聞き流していると、嫁がしたり顔で僕の肩に手を置いた。
…これ、僕になんか決着の一言を言えってことか?
うーむ…。ダメだ思いつかん。
普通の教師だったVtuberだぞ、僕。
…もう適当でいいや。知らんガキが家族ごと沈んでくのに捨て台詞なんて吐けるほど劇的な感性持ってないし。
「………あしたがあるさ」
『『〜〜〜〜〜ッッッ!!!』』
ただし、明るいとは言わないけど。
唐突に訪れた呆気ない幕引きに沸き立つコメント欄を横目に、僕は通話を切った。
…なんか最後に叫んでたけど、何言おうとしてたんだろ、アレ。
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