第39話 先生の子育て(弟)奮闘記 その2

弟からのチャットを無視し、僕は写真を切り替える。

先ほどより、少しばかり背の伸びた弟が、寝不足の僕と遊ぶ姿が写っている。

この頃はまだ可愛げがあったんだけどなぁ、と思いつつ、僕は写真の紹介に移る。


「次は…、4歳の時の写真ですね。

こっちは大学3年で就活解禁でしたけど、僕は教職課程でひいこら言ってましたね。

疲れた上に、遊び盛りの弟の面倒見てたので、死にかけてました」

「その頃からよな。目元にクマ出てきたの。

今でもあんま取れてへんけど」

「今は普通に寝れてはいるんですけど、この頃は酷かったですよ。

なかなか寝ないわ、遊んでってせがむわ、教職課程取ったせいでレポート終わらんわで」


コメント:写真の中の先生、育児疲れ出てるやん…。

コメント:両親はどうしてたんや?これまで二人も育てたんやし、ネグレクト気味だったってこともなかったやろ。

MAIC:↑ヒント、めちゃくそお兄ちゃんっ子だった。

コメント:それはもう答えなんよ。

ヨチヤミ フチロ:嘘だよ、それ。寂しがりだから、手当たり次第に遊んでってせがんでただけ。だから、特別お兄ちゃん大好きってことはなかったし、その頃は家族どころか、同棲してた嫁ちゃんまでもが寝不足だった。

コメント:悲しっ。

コメント:子供なんてそんなもんよ…。

コメント:ある程度は子供特有の野暮さも持ち合わせてたのね。安心した。


寧ろ、育っていくごとに子供っぽくなっていったような気がする。

今のアイツなんて、店長の娘曰く「小2のクソガキ」とか言われてるらしいからな。

…まあ、趣旨趣向がそっち寄りってだけで、ある程度は精神が育っているのは救いか。

そんなことを思いつつ、僕は写真を切り替えた。


「次は6歳の頃ですかね。

この頃には結婚して新米教師でしたけど、まとまった金が集まるまでは実家暮らしだったんで、まだ面倒見てましたね。

来年には小学生だったこともあってか、しきりに『学校ってどんなとこ?』って聞いてきて、めちゃくちゃ言葉選びましたね」

「変なこと言ったら義母さんにシバかれるもんな」

「変なことって…、事実なんですけどねぇ。

本当なら『地獄ですよ』って答えたかったんですけど、なんとか飲み込みました。

善悪の区別つかないわ、つき始めても『楽しいからいいや』で済ませるわ、教職の観点から言ってもろくな年頃ではないですね。

担当者も保護者も適当こいてると、絶対にその割を食った子供が出るんですよ。

具体的に言うと、亡くなった僕の親友二人。

なので、自分だけでなく、他の人の子供の人生にも責任を持てる自信がなければ、子供は作らない方がいいです」


コメント:先生が言うと重過ぎるっぴ。

MAIC:責任持って育てた結果、拳で全てを解決しにいく心優しい自己中バイオレンスという矛盾が爆誕した件についてはどうお考えで?

コメント:弟くんボロクソ言われてて草。

コメント:子育てって大変なんやなぁ(白目)

コメント:どう育ったらそんな地獄の文字列で例えられるような子になるん?

コメント:先生、子育て向いてないよ。


失敬な。バイオレンス部分は義妹の教育だ。

自己中部分は…、まあ、多少なりとも僕の影響を受けてる可能性が高いけども。

でも、僕よりかは健やかに育っていると思うぞ。親友が誰も自殺してないし。

内心で弟を擁護しつつ、僕は弟が小学校に入学した時の写真へと切り替えた。


「これが小学校入ったばっかの頃ですね。

生徒としては…、まあ、そんなに手のかからない子ではあったみたいです。

トラブルらしいトラブルは聞きませんでしたね。…口酸っぱく『先生に迷惑かけちゃダメ』と教育した甲斐がありました」

「ンな優しいもんちゃうやろ。小1に教職の現実叩きつけただけやろ、アレ」

「早めに現実を見るのは、成長に必要な過程ですよ」


コメント:あんな地獄を小1に教えるな。

コメント:この先生、現実を鈍器みたいに使うじゃん。

コメント:確かに早めに現実見た方が成長できるとは思うけどさぁ…。

コメント:ワイ、小学校教員。生徒に自分の仕事のことを月収、残業時間含めて事細かく伝えようか迷ってしまう。

コメント:↑やめとけ。

コメント:下手したら性格ひん曲がりそうなことしてて草。

コメント:これまでの過程で、もう十分歪んでる気がする。

言霊 コトバ:中身がクソガキってだけで、普通にいい子だよ。

コメント:コトバ様にまでクソガキ言われてんの草。


クソガキ化は僕のせいではない。…たぶん。

遊ぶたびに変な罰ゲームを考案するようになったのも、僕の影響ではないはずだ。…切にそう思いたい。

弟に聞けば、確実に「兄貴の影響だと思うぞ」と返されるだろうが。

僕は渋い顔を浮かべながら、小学3年生の頃へと写真を切り替えた。


「この頃が1番面倒な時期なんですよね。

罵詈雑言とか、人の嫌がることが楽しく思えてしまう年頃ですし。

バラエティ番組とかだと、される本人も『それが仕事』と割り切っている人が多いんで、あまり後腐れはないですし、する側もやり過ぎることもないじゃないですか。

でも、子供だとその区別もつかないので、相手が嫌がること=自分は楽しいと思ってしまうんじゃないかな、と」

「お前、めっちゃビクビクしとったな。

友達いじめられたりしてへんかーって、ずっと弟くんに聞いとったな。

…まぁ、仕方あらへんとは思うけど」

「結果、なんともなかったんで、進級した時は心底安堵しました」


ヨイヤミ フチロ:テラスくんで言うと、一人目の親友が死んだ年頃。

コメント:あっ…(察し)

コメント:そら過干渉な母親みたくなるわ…。

コメント:もう親やん。

コメント:子持ちの貫禄あるわ。

コメント:さっさと結婚して子供作れ。ヒロインズ全員と。

コメント:↑それな。

コメント:当然のように重婚推奨されてんの草。

コメント:コイツの場合残念でもないし当然。


だからしないってば。

確かに、子供はそろそろ欲しい頃合いではあるけれども。

高齢出産のリスクとか考えると、やっぱり今のうちの方がいい気がする。

どう考えても、僕よりも嫁のほうが負担が大きいから、嫁の気持ちに依るなぁ。

これからの展望を展開しかけるも、僕は即座に次の写真へと集中を戻した。


「…で、次の写真が小5の頃…5年前になりますね。

僕らで言うと、新居建てた直後に嫁が仕事の関係で別居を始めたのと…、あと、コトバさんを担当したくらいですかね。

たまーにうちに遊びに来ては、勉強教えてくれって頼まれてました。

本人の希望で中学受験受けるってタイプの子だったんで」

「あれ、このまま進学したら、お前が地獄みたいな3年間送った中学行くことになってたから、全力で避けようとしてただけやぞ」

「僕の中学時代を地獄とか言うな」

「地獄やろ。もう一人、親友亡くしたやろが。ウチも電話で聞いてめちゃくちゃショック受けてたんやぞ」

「地獄でした。すみません」


コメント:よく潰れんな、その中学…。

MAIC:地元ん中では1番でかい中学だったし、言い方悪いけど1人くらい人死に出た程度で潰すわけにゃいかないんじゃない?ボンクラ公務員なんて倫理の授業余裕で0点なんだから。

コメント:言い方悪すぎるけど共感はできる。

コメント:奥さん姉妹と言いコイツと言い、中学で碌でもない目に遭ってんな…。

コメント:そら弟くんも中学受験選ぶわ。

コメント:先生、妹さんもいたよな?妹さんも中学受験?

言霊 コトバ:中学受験だよ。

コメント:先生の通ってた学校が軒並み地獄すぎて弟妹が回避に全力出してる件について。

コメント:現職、比較的平和なんやな…。

コメント:あ待てい。身バレはするわ、アホみたいな黒歴史暴かれるわ、現職も大概碌なことないぞ。

コメント:地獄みてぇな文字列だけどすんげぇマシに思える。不思議。


なんかやたら熱心だなと思ってたけど、そんな理由だったのか。

あの学校、多分だけど、今でもロクでもない奴らの巣窟だろうし、当然ではある。

学校名晒したら、入学者が一気に減りそうだ。晒さないけど。

……あれ?いつの間にか、僕の過去の紹介になってきてないか、これ?

そんなことを思うも、僕の意識は即座に次の写真へと移った。

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