第34話 二重人格系Vtuber、ヒトエ フタリ/フタリ ヒトエ
「………エントリーした覚えねーんだけど」
パンクロッカーのようなゴッテゴテの衣装とアクセサリーに身を包んだ元生徒会長が、ヒクヒクと表情を引き攣らせる。
あいも変わらず、人格が変わると別人のようなファッションになるな。
いや、趣味が根本から合わないから当たり前なのだが。
パソコンの画面を見て愕然とする彼女に、常連のヤツがその経緯を語った。
「もう1人の方が勢いでエントリーシート出してたね。ちょうどコイツと同じように」
「僕はコトバさんに誘われたからですよ」
「ヤケだったのはホントでしょ」
「……まぁ、今は職なしのプー太郎だし、受けとくよ。
Vtuberのことなーんも知らんけど」
「僕も最初はなんにも知識なかったですよ。
…まぁ、ある程度やっちゃいけないこと弁えてたら、続けられると思いますね」
「最近炎上した人がなんか言ってる」
「うぐぅ」
傷口を的確に抉るのはやめてくれ。
アレに関しては本当に反省してるから。
そんな僕の反省も虚しく、元生徒会長までもが「お前がいうと説得力あるな」と皮肉を放つ。
握らせてはいけなかった弱みを握られてしまったような気分だ。
いや、デジタルタトゥーだから、全世界の人に握られてんだけど。
そんなことを思いつつ、僕は彼女の肩に手を置いた。
「ようこそ、ライブプラス…、現代社会の掃き溜めへ」
「お前そこの住人って自覚ある?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
時は過ぎ、元生徒会長のデビュー当日。
数分ほど待っていた僕たちの前にあるパソコンの画面が切り替わり、ぱっ、と明るい色合いの落ち着いた衣装を纏った少女が映し出された。
『どうも、こんにちはー。
このたび、ライブプラス五期生となりましたぁ、ヒトエ フタリでーす。
サイトを見てくれた人なら知ってるかもですけど、中身はあのギャルゲーの生徒会長のモデルでーす』
コメント:大型新人来たわ。
コメント:声かわいいね。ASMR毎秒出して。
コメント:↑新手のセクハラ?
コメント:草。
コメント:生徒会長さん!生徒会長さんじゃあないか!
コメント:おい待てい。これからは「フタリちゃん」って呼ばにゃならんぞ。
コメント:フタリちゃん、このクソカワロリボイスで三十路ってマジ?
コメント:おいバカやめろ。
年齢は絶対にいじるな。お前も将来的にいじられるんだぞ。
そんなことを思いつつ、僕は涼しい顔で受け答えしていく生徒会長…あらため、フタリさんへと視線を戻す。
僕の心配など知ってか知らずか、フタリさんは淡々と「とある王国でカウンセラーしてたって設定らしいですぅ」と、僕みたいなセリフを吐いていた。
うん。こっちの方も相変わらずみたいだ。
酒が抜けたおかげか、はっきりと受け答えが出来ている。
『えっとですねぇ。皆さんもご存知の通り、私はカウンセラーとか出来ません。
むしろ、カウンセラーが必要な方です。
なので、ゆ…、テラスくんにやるみたいな質問はあんまりしないでくださいねー』
コメント:テラス先生はテラス先生でカウンセリング通った方が良さそう。
コメント:ゆ?
コメント:本名言いかけたな、今。
コメント:下の名前で呼ぶ仲なのか…。
コメント:そんな仲の女が5人もいるとかうらやま。
コメント:↑あの地獄を経て、だぞ?
コメント:前言撤回、羨ましくない。
コメント:手のひら返し早っw
僕の人生を地獄とか言うのやめてくれ。
いや、言われても仕方ないんだろうけど。
コメントを書き込もうかと迷ったが、面倒なことになりそうだからやめておこう。
そんなことを思いつつ、僕は視聴者からの質問に答えていくフタリさんを見守る。
…もう1人の方は表に出てこないんだろうか。
僕がそんな疑問を抱いた時、フタリさんが思い出したように声を上げた。
『あ、一個忘れてましたぁ。
実は私、「二重人格系Vtuber」として活動していく予定なんですぅ』
コメント欄の反応が、ギャルゲー未プレイ勢と既プレイ勢をくっきりとわける。
まぁ、僕のプレイでまだコイツの二重人格設定出てないもんなぁ。
確か、配信でも言ってなかったと思うから、当然っちゃ当然なんだろうが。
そんなことを思っていると、画面のモデルがぱっ、と消える。
数秒、画面の沈黙が続く。
と。先ほどまでフタリさんが立っていた場所に、パンクロッカーのような風情を感じさせる闇色のドレスを纏い、キツめの表情を浮かべたモデルが現れた。
『どーも、中でお前らの反応見てたぜ。
オレの方は「フタリ ヒトエ」っつー名前でやってくらしい。よろしくなー』
コメント:ファッ!?
コメント:性格全然違うやんけ!!
コメント:このロリボイスでオレっ娘なのかわいい、かわいいね。
コメント:ア、アァ…。
コメント:アッ、アッ、アッ…。
コメント:↑性癖が壊れる音がした。
コメント:フタリちゃんは余裕なお姉さんっぽい雰囲気あったけど、ヒトエちゃんはロックな姉ちゃんっぽい趣がある。すこ。
…女性Vtuberって、強いんだなぁ…。
爆速で流れていくコメント欄を見ながら遠い目をする僕に、嫁が同情の視線を向けた。
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