第30話 嫁作ギャルゲーパート2with百目鬼 マナコ その4

『肩に食らったのが悪かったらしい。

まだ16なのに、若くして四十肩のようなことになってしまった』

「思っくそ後遺症残ってるじゃねぇか!!」

「この時点でそれなりに後遺症がありましたし、今更一つ増えてもそんなに気にしませんでしたね」

「もっと気にしろ!自分を大事にしろ!!

自分の命を真っ先に捨てる選択ばっかすんな、このドアホ!!」

「捨ててません。使ってるんです」

「同じだボケ!!」


コメント:ここまで真剣に怒ってるマナコちゃんもレアやな。

テラス嫁:もっと言ったれ。

MAIC:周りが定期的にこういうこと言わないと、自分に気を使うことすら忘れるからね。

コメント:やっぱこの先生頭おかしいよ…(白目)

コメント:そら過労で6回倒れますわ…。

コメント:この人、仕事人間じゃなくて、自分のことに究極に無頓着なだけでは?

コメント:↑それな。

言霊 コトバ:1番平和だった時期に担当してもらったから最初気づかなかったけど、付き合い深めてくたびに中の闇が見えてくる。

コメント:↑くそっ…。その過程を見たい…。

コメント:誰かタイムマシン作れ。


正直、その部分に関しては「自覚が薄い」とよく言われるから、反省はしている。

まあ、十分に省みる余裕はなかったんだが。

いつもいつも、僕の命しか賭けられない状況になってから巻き込まれるからな。

勇者じゃないんだから、もう少し余裕のある状況で介入させて欲しいものだ。

まあ、ここ二年は大きな怪我もしてないし、流石にもう不幸が立て続けに起こることはないだろう。…ないといいな。

そんなことを思いつつ、入院イベントを終えた僕は、カーソルを再び常連に向けた。


「お待たせしました。前に語ってた、このゲーム二度目の自殺イベントです」

「待ってねぇよ!!」

「この時はまだ松葉杖なんですけどねぇ」

「むしろ松葉杖ついてない時あったのか?」

「合計で一年にも満たないんじゃないですかね?年がら年中大怪我してたんで」

「もっと自分を大事にしよう…?」

「大事にはしてますよ。大事にした結果がコレってだけです」

「この人手に負えない。誰か助けて」


コメント:ごめん無理。

コメント:↑無慈悲なの草。

コメント:自分の心は大事にする。ただし、体の方は大事にしない。

コメント:少年漫画の主人公かよ…。

テラス嫁:↑そんな感じで怪我が秒で治ったら良かったんやけどなぁ。

MAIC:現実はそう甘くないの。体張った分、代償を払わなきゃダメなの。

コメント:ヒロイン勢の言葉も重すぎる…。

コメント:体張られた側も少なからず精神にダメージ受けてそう。

コメント:好きになった瞬間、自分のせいで大怪我したって事実もセットで付いてくるもんな。

テラス嫁:↑ホンマそれ。

MAIC:フチロちゃん、それで病み過ぎて2回目図ったから言うのやめて。


ああ、2回目はそういう理由だったのか。

動機がわからないまま止めたけど、十何年経てようやく納得できた。

怪我程度で済んでるんだから、あんまり気にしなくてもいいと思うんだが。

…いけない。そういう思考がダメだとわかってるのに、無意識にそっちに流れてしまう。


『……怪我、大丈夫?』

『ええ、まあ。四十肩みたくなりましたが、日常生活に支障はありません。

重いものが持てないくらいです』

『そう。…ごめんね、私のせいで』

『いえ、君のせいではありません。

被害者を悪としていい風潮など、決してあってはならないのです』

『……ダメだよ。私は、私だけは、悪くなきゃダメなんだよ』

「…今でも思いますけど、なんで自分に狙われる理由があるからって、自分を悪いと思い込むんでしょうかね」

「MAICの過去的に、そう考えるに至ってもおかしくない気もするけど」

「至ってしまうことがダメなんですよ。

高校生がこんなにも追い詰められるようなことが、あっていいはずがない。

…そんな理想が叶うほど、現実は綺麗なものではありませんけどね」


ずっと疑問だった。

ただ他所から来ただけの高校生2人が、あそこまで迫害される必要があったのか。

ただ歌が上手いだけの高校生が、ここまで苦しむ必要があったのか。

ただ劣悪な家庭環境から救われたかっただけの少女が、心を病む必要があったのか。

ただ才能にしか縋れなかった少女が、孤独に喘ぐ必要があったのか。

それを少しでも防げたら、と思って、僕は教員免許を取得した。

…まあ、行き着いた先は、見ての通りだが。

なんでこうなった、と思いつつ、踵を返して逃げていく常連を追いかけていく画面の中の自分を見やる。


「前にも言ってた通り、追いつくので精一杯だったんですよね。

視界から外れた瞬間に死ぬってわかってたんで、必死になってたのを思い出します」

「…足の傷、余計に悪化しなかったか?」

「しましたよ。今だって、歩き方は少し変でしょう?この時の後遺症なんです」

「なんでもないように言わないでくれよ…。

せめて、不幸自慢くらいムカつく感じで言ってくれよぉ…」


コメント:この短期間で後遺症残るような怪我を2回もしてるとかマジ…?

コメント:現代日本でどんな人生歩んだらこんな覚悟ガンギマリになるんだよ…。

MAIC:↑高校生時点で親友が2人も目の前で死んでます。

コメント:前言撤回。覚悟決まりますわ。

テラス嫁:やろ?コイツの周りだけ世紀末かと思ったもん。

コメント:↑当事者にまでこんなこと言われるの、草も生えん。


ただ追いかけることだけ考えてたから、足の痛みになかなか気づかなかったっけ。

学校の奥にある林に入り、獣道を歩んでいく常連を、擦り傷や切り傷を作りながら追いかける画面の奥の僕。

追いついたのは、木漏れ日が微かに差し込む程度の林の最奥。

僕が追いついた時には、首吊りのために木にロープを結ぶ常連の姿があった。


『…やっぱり、心臓にナイフの方が良かったかな』

『……せっかく助かった命を捨てるなんて、正気ですか?』

『正気だよ。むしろ、この命があるから、私の大好きな人は死んじゃうんだもの。

だったら、また誰かを殺しちゃう前に、私自身で私を殺さなきゃ』

『……ふざけています。それは、死んでしまった△△さんへの侮辱です』

『わかってるよ。だから、「あっち」でたくさん謝るの。

もちろん、君にも、精一杯の謝罪をする。

「お金」っていう形だけど、私なりの謝罪をね』

『そんなモン要りません。

僕が望むのは、ただ一つ。君が自殺を諦めることだけです』


この時ばかりは、流石のコイツも嘘を吐かなかった。

足の痛みで顔を歪めた僕を前に、悲しそうな表情を浮かべていたのを思い出す。

記憶をほじくり返しつつ、現れた選択肢の中から「崖の方に立つ」を選ぶ。

朧げな記憶だが、この現場はすぐそこが崖のようになっていた。

それこそ、少しでも足を踏み外せば、転がり落ちて最悪死ぬレベルの。

僕の選択にマナコさんの表情が引き攣る。

持論だが、誰かの自殺を止めるのであれば、決して安全圏に居てはいけない。

同じ条件に立って、ぶつかり合うことだ。

…こんなことしてるから、後遺症が増えていくんだが。


『何、してるの…!?』

『君が自殺すれば、僕も死にます。

これでフェアでしょう?』

『……っ』

『君は少し、死ぬ理由を探しすぎです。

逆に、生きたい理由を考えてみましょう』

『…ないよ、そんなの』

『……来月発売の新型モデル』


僕の囁きに、ぴくっ、と反応する常連。

取り敢えず、アイツが興味ありそうなものばかり羅列していったっけ。

何を言ったかな、と思いつつ、僕はテキストを進める。


『……そっか、来月かぁ。今のも慣れてるけど、新しいのも試してみたいんだよね』

『店長が期間限定メニューにと、抹茶パフェを作る予定らしいです。

確か、抹茶、好きでしたよね』

『…うん。△△ちゃんも、好きだったから』

『…そういえば。この間、レンタルしてた映画、続編やるみたいですよ。

確か、再来月の金曜日に公開だとか』

『そっか。…うん。見たい』

『…ああ、そうだ。思い出した。もう少ししたら、予定日ですね。

店長のお子さん、どんな子になるんでしょうね。女の子だそうですけど』

『……抱っこ、したいね。

きっと、可愛いだろうなぁ』

『…ほら。生きる理由も、こんなにあるじゃないですか』

『……もう、やめて。死ななきゃいけないのに、死にたくなくなっちゃう…』

『死なせないために言ってるんです。

君のその義務感は、無視してもいい、抱かなくてもいいものですから』


兎にも角にも、彼女は死ぬ理由が明確すぎたのが悪かったのだ。

だから、それを揺らがせるほどに、生きる理由をぶつけてやればいい。そう思った。

生きたいと思える理由は存外、くだらないことの中にあると僕は思う。

だから、そういうくだらない理由を作れる場所を守る「教師」になりたかった。

…前職に未練たらたらだな、僕。

そんなことを思いつつ、進むテキストを目で追った。


『……やっぱり、ダメだよ。

生きる理由はあるけどさ。でも、それは私だけの理由だもん。

私が死ねば、君がこれ以上、死ぬような目に遭うこともないと思うんだ』

『……君は、この肩の傷を、この足の傷を、不幸だと思うんですか?』

『うん。君は、不幸だよ。君はもっと、幸せになっていい人間だ。

だから、その妨げになる私は、消えた方がいい』


ああ。この言葉が1番ムカついたっけな。

あの時の苛立ちすら蘇ってくるようだ。

本当に、よくできたゲームである。

画面の奥の僕はため息を吐くと、心底呆れた声を出した。


『なんで君が悪いと思うんです?』

『……だって、私が狙われたから…』

『君を狙ったのはあのアホどもでしょう。

自分勝手が行き着いた結果、国に首括られて死ぬようなくだらない人生を送った奴らに、なんで君が気を使う必要があるんです?』

『…私が、あの家に生まれたから』

『生まれなんて、誰にも変えられません。

それのせいで死ななきゃいけないだなんて、馬鹿げているとは思いませんか?

そんなガチャに外れたみたいな理由で死ななきゃいけないなんて、ふざけるなと思いませんか?』

『…………思う、けど…』

『なら、歌を使いましょう。君が大好きでやまない歌を、武器にしてしまいしょう。

アレみたいなクッソくだらない奴らの人生を、歌を使って全否定してやりましょう』


あー、言ったわ、こんなこと。

うわー、燃える燃える。何故か僕だけが。

なんでだクソッタレ。


『……うん。いいわけ、ない…!

なんで、なんで…!なんで私がこんなこと思わなきゃいけなかったの…!!

なんで私が、くだらない奴らのくだらない目論見で、親友を殺されなくちゃいけなかったの…!!』

『死ぬの、やめますか?』

『やめる!こんなくだらないこと考える奴らの頭、覚まさせてやる!!』

『ええ、頑張ってください。応援してま…』

『そうと決まれば、お店行くよ!!

今日、暇でしょ!?一日付き合ってもらうから!!』

『……あの、すみません。

多分、足ヤバいことなってるんで、救急車呼んでからにしてくれませんかね?』

『……………ぅえあっ!?』


足が変な色に膨れ上がってたな、あの時。

そんなことを思いつつ、僕はすごい目でこちらを見るマナコさんを見やった。


「……あの、なんでしょうか?」

「先生。アンタさ、1番治さなきゃいけない部分、ちっとも治ってなくね?」

「…あー、まあ、はい」

「説教だ。座れ」

「座ってますけど」

「正座だボケ」

「あ、はい」


あ、これ無理だ。逆らえないやつだ。

その後の1時間は、僕がただひたすらにマナコさんに説教されている姿が、全世界に公開された。

その翌日には、よりにもよって常連のヤツに切り抜かれたせいで、バラエティ番組にすら取り上げられてしまった。クソッタレ。

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